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 お金が絡むと人は変わる。それは兄弟姉妹の絆も壊す。法律の専門家や経験者が語る、相続における“修羅場”とはーー。

きょうだいそれぞれが税理士を立てた

「実際、兄弟や姉妹の間でのトラブルというのは、本当に多いです」

 と、税理士の高橋創さんは苦笑いを浮かべて語る。

「僕の担当した事例の中では、きょうだいの相続人同士が仲が悪く、それぞれが別に税理士を立てるということがありました。弁護士がお互いにつくということはよくある話ですが、このケースは初めてでしたね」

 依頼主や税理士側にとって、何かメリットになることはある?

税理士同士、違う資料を見ながら書類作成をするので、それぞれが算出した数字が違ってしまうデメリットしかありません。きょうだい間の“あいつが依頼したヤツは信じられない”という心情だけで、それぞれが依頼したのでしょう。

 税理士が申告書を作るとき、全員の印鑑をとらなくてはいけないので、本来はひとつの相続に対して税理士はひとり。このときは僕ともうひとりの税理士さんが別々に申告書を作ったのですが、依頼者に内緒ですり合わせをして税務署に提出しました。

 われわれ税理士は相続人全員がお客さま。依頼をしてきた人の味方とかではなく、法律に沿って粛々と進めていくだけなんですよ」

 相続に関するネットアンケートでも、兄弟姉妹の間でのトラブルが語られている。大阪府在住の50代の専業主婦は、夫とその弟についてこんな話を。

「父親の会社を夫が継いで、引退したあとも私たち夫婦で面倒を見ていました。夫には弟がいて、父親は生前、“自分が死んだら財産は半分ずつ”と言っていたそうなんですが、弟に内緒で土地の名義を夫が父親から自分に変更してしまったんです。

 夫からすれば、面倒を自分たちが見ていたんだから、という気持ちがあるのでしょうが、それから兄弟間が険悪になってしまいました。父親が生きているときは普通に仲がよかったんですけど……

夫と義妹の取り分が1対9に

 また、神奈川県在住の50代専業主婦は、ドラマのような相続を経験し、今もその余波を受けている。

認知症が進んでいる舅に、義妹が無理やり書かせたと思われる遺言書を有効扱いされてしまったんです。しかも私たちが見る前に開封されていたので、弁護士を通じて遺言書の無効を申し立てました。

 でも彼女が30年以上も無職状態で、相続を完了しても金銭の無心をしてくることが予想されるということで、義妹の要求にしたがって相続することが双方にとって望ましいということになってしまい……。結果的に義妹が9、夫が1という割合で相続になりました。相続確定にあたり、私はもう彼女と関係を持ちたくなかったので、お互いに連絡をとらない、縁を切ることを条項に盛り込んだんです

 これで一件落着のように思えたのだが、

「義妹は自分の雇った弁護士ともトラブルを起こし、弁護士費用も未払いのまま。おまけに銀行や菩提寺の住職ともトラブルになって、そのたびにこちらに連絡をしてくるんです。無視をしたくても無視できない状態に追い込まれ尻ぬぐいがいまだに続いています」

 金銭問題がいちばんの原因であることは間違いないが、やはり、家族という関係の近さもトラブルを起こす原因のひとつになっているよう。きょうだいリスクについて語ってくれた社会保険労務士の浜田裕也さんは「自分に目が向けられない寂しさもあるのでは」と、こんな体験談を。

「私は話し合いなんかに出ない」

「50代の姉妹がいらっしゃる80代のご夫婦からの相談だったのですが、次女が引きこもりで、今は彼女の面倒を自分たちが見ているが、自分たちの死後のことが心配だと。そこで、これからのマネープランを相談したい、というご連絡をいただきました。そこで長女にも同席してもらい、家族で話し合いたいということだったのですが……」

 浜田さんの事務所に、その長女から電話がかかってきたという。

ものすごい剣幕で“私は話し合いなんかに出ない”と。“今、親が妹の面倒を見ているけど、親が死んだあと、私は絶対に面倒を見ません”と言うんです。どうせ財産は妹にいって、私のところにはお金もこないだろう。それで面倒見ろとは虫がよすぎるんじゃないかって。

 確かに、親御さんはそこまでたくさんの財産がなく、妹さんひとりが生きていくには、ほぼ全額を渡さないといけない状態だったんです」

 姉は未婚で、家を出て別居状態。

「もともと姉妹は仲がよくなかったらしいのですが、お姉さんからしてみれば、親は妹の面倒ばかり見て、自分はひとりで大変な思いをして働いていて。そのうえ家にいるだけの妹が財産を持っていくなんて、という気持ちなのでしょう。感情的になってしまう気持ちもわかるので、何も言うことができなかったです」

 日常生活で積もった“思い”が、家族の絆を壊していくということか。逆に絆がない人たちが相続人になっても、一筋縄ではいかなかったという。前出の高橋さんは、こう振り返る。

「家族など血縁者の相続人がいない男性が、まったくの他人3人に相続すると遺言書を残したことがありました。相続する3人もお互い知らない間ではないのですが、仲がいいというわけではない。みんなで集まってくれれば話は早いのですが協力態勢がゼロ(笑)。僕は伝書バト状態でした。

 ただ、遺言書がちゃんとしていたので、相続の内容でもめることなく進めることができました

 また、遺産の行く先だけがトラブルの原因ではないということも。司法書士の大石さんは、いま抱えている案件をこう話す。

「故人の葬儀費用を喪主が“立て替え”ました。しかし式後、ほかの相続人は分割には応じないと言い出したんです」

 この場合、あまりに豪華な葬儀を喪主ひとりの考えで行ったなど、通常の葬儀の範囲を超えているとみなされなければ、喪主はほかの相続人に分割請求することは可能だという。

「このケースは葬儀費用が100万円ほどかかり、相続人は4人でした。分割するとそれぞれ25万円くらい。裁判を起こして費用を請求すれば、おそらく徴収できると思いますが、4人それぞれに裁判を起こすと費用もかかります。

 葬儀費用を見積もったとき、それぞれがいくらずつ分割するという証明をわれわれが作って、そこに署名してもらっていれば何の問題も起こらなかったんですけど」

評価額の2倍で姉が妹に土地を売りつける

 最後に、大石さんはありがちな不動産の扱いを指摘し、注意を促す。

「これもいま抱えている案件なのですが、父親の土地に妹が家を建て、あとで父親がお姉さんに土地を生前贈与してしまいました。

 姉は結婚を機に引っ越して、離れた場所でお互い生活していたのですが、父親が亡くなったあと、妹が姉に自分の家が建っている土地を売ってほしいと頼んだところ、1000万円の評価額の土地を2000万円じゃないと売らないと姉が言い始めたんです。

 土地の所有者は姉なので、いくら高い値段をつけても問題はありません。その解決を私のところに依頼してきたのですが、もう2年以上、争っています。相続でもめるのは、疎遠になったきょうだいなのだ、と痛感した案件です

 もともと仲がよかったという姉妹なのだが、今では裁判で争う仲に。相続に関しては、いくら仲がよくても、口約束だけでなく、書面で権利関係をはっきりさせておくことが、トラブルを避ける最良の方法なのだろう。


〈PRIFILE〉
高橋創さん
高橋創税理士事務所所長。無料相談サイト『税とお金の相談室』(http://namahage-tax.jp/contact/)近著に『いちばん親切な税金の本』(ナツメ社)

浜田裕也さん
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。『働けない子どものお金を考える会』のメンバーで、ひきこもりやニートなどの子どもを抱える家庭の相談を受けている