古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第59回は山名宏和が担当します。

小野花梨様 

 今回、勝手に表彰させて頂くのは、女優の小野花梨さんである。この名前を見て、「誰、それ?」と思われる方も多いかもしれない。僕も調べるまで彼女のことは知らなかった。しかし、ネットで検索してわかったのだが、僕と同じ思いの人は大勢いた。たくさんの人が彼女のことを探していた

小野花梨

 小野さんの存在を知ったのは、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』でだった。混み合った映画館が苦手なので、ロードショーはいつも公開後しばらくしてから観に行く。そのスクリーンで初めて彼女を目撃した。 

 プロフィールを読むと、これまでに僕が観たことのある映画やドラマにも多数出演している。だが失礼ながら、小野花梨という名前はまったく記憶になかった。彼女を初めて認識したのは『SUNNY』だった。

 篠原涼子さん、広瀬すずさんなど、豪華女優陣で話題になったこの映画、ポスターに小野さんの姿はない。それどころか映画の公式HPにも、その名前も姿も見つけることはできなかった。

 さて、ここから、どうして小野さんを勝手に表彰するかの話になるわけだが、そのためにはネタバレを避けることができない。公開からすでに時間の経っている作品なので、ご容赦頂きたい。

 『SUNNY』の中で小野さんが演じていたのは、鰤谷(ぶりたに)美礼という“ガングロ”のコギャルである。この鰤谷、中学時代は芹香(山本舞香)と友だちだったが、高校生になり悪い遊びを覚えたことがきっかけで芹香に絶交されてしまった。

 そのため転校初日から芹香と親しくなった奈美(広瀬すず)に強い嫉妬心を抱き、事あるごとに嫌がらせをしていく。その言動はもちろん、ビジュアルからして、わかりやすい悪役キャラである。そんな嫌われ役の鰤谷に、強く引かれてしまったのだ

 鰤谷という役が抱える心の闇が僕を強く引きつける。なぜ彼女は高校生になって変貌したのか。自分から離れていくかつての友だちをどんな思いで見ていたのか。「ひさしぶりだね、名前呼んでくれたの」と喜び、「なんでアタシは仲間に入れないんだよぉ」と怒り、「いっぱい遊んだじゃん」と悲しむ。

 そんな乱気流のように渦巻く内面を持ちながら、見た目も言動もゲスの極みギャル。演じるのは、さぞや難しかったに違いない

 この映画の中で、鰤谷は扱いとしては完全な脇役である。しかしながら、彼女なしでは物語は成立しない。高校時代のエピソードの多くに、鰤谷が絡んでいる。SUNNYのメンバーが疎遠になってしまう出来事、この映画のクライマックスの一つだが、それも彼女がきっかけだ。

 ここまで重要な役どころでありながら、それを演じる小野さんの名前は表には出てこない。妙な言い方かもしれないが、僕はこれぞ「真の助演女優」だと思った。華やかな主演たちを助け、そして物語を助けるそんな存在

 そこで今回、小野花梨さんには『極私的助演女優賞』を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。

 この原稿を書きながら、妄想したことがある。鰤谷目線で『もう1つのSUNNY』を作ったらどうなるだろうか。それはおそらく彼女と芹香が親しかった中学時代から始まるだろう。そして、とても切なく、最終的にはやり場のない気持ちに襲われるだろう。しかし、それもまた、強い気持ち・強い愛の物語となるはずだ。

 

<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。