マンション入り口(左手前)で大声を出すことも

「引っ越し直後から周囲に嫌がらせをしている有名な人です」

 と、住人の女性は明かす。

 兵庫県神戸市の中心部にある地下1階、地上15階建て築9年の分譲マンションで起きたご近所トラブル。住人らによると、少なくとも6世帯が被害を受けている。理不尽な罵声や貼り紙など、住民らを怯えさせた中傷の数々は約3000日も続いたが─。

「ふざけたまねすんな!」

 このマンションに住む岩上紀夫さん(仮名)を中傷するビラを貼った名誉毀損の疑いで兵庫県警生田署は今月9日、住人の無職・北川弥生容疑者(46)を逮捕した。

「私が考えて書いた文章を貼りつけたことは間違いありません」と容疑を認めている。

 逮捕の決め手は岩上さんが玄関の表札横に設置した防犯カメラの映像だった。

 今年6月17日午前2時半ごろ。防犯カメラにはA4用紙を横に3枚つなげたビラを持った北川容疑者が映っていた。表情を変えることなく玄関に近づき、紙を貼りつけた。

「紙には黒い油性ペンで“犯罪者”“鬼畜の所業”など被害者を中傷する文章が書かれていました」(捜査関係者)

 岩上さんは精神的に追い詰められていった日々を振り返る。

 '10年にさかのぼる。

「家にいると外から女の怒鳴り声や扉を叩く音が聞こえてきました」(岩上さん)

 隣家の前で叫んでいたのが北川容疑者だった。周囲の声をかき消す大声は1時間続くこともあったという。

 北川容疑者は隣家の真下に住んでおり、騒音のクレームとみられる罵声を繰り返した。

「隣人は、騒音は身に覚えがないと悩んでいました」(同)

 '12年2月、岩上さん自身にも嫌がらせが及んだ。

「突然、北川容疑者がだんなさんと一緒にうちに怒鳴り込んできたんです」 

 ドンドン、と玄関をこぶしで強く叩く大きな音に驚いてドアを開けると、北川容疑者は「ふざけたまねすんな!」などと頭ごなしに怒鳴りだした。

「私の勤め先や妻の出身地など個人情報を叫ばれて……。初めて顔を合わせた人がなんでそんなことを知ってるのかわからなくて怖かった」(同)

 とっさの自衛策でカメラを向け動画モードにすると「怖い!」「助けてー!」と言いながら立ち去ったという。

3世帯が引っ越していった

 恨まれる覚えはなかったが、その直前に「マンションにうるさい人がいる」とネット掲示板に投稿があり、それを「岩上さんの仕業」と決めつける怪文書が複数世帯にまかれていた。

「全くの事実無根です!」(同)

 動画撮影後から北川容疑者の嫌がらせは本格化する。

 顔を合わせるたびに「犯罪者!」「盗撮魔」「おっさん! 謝れ!」と大声で叫んだり、自宅のポストには10数枚にもなる誹謗中傷の手紙が投函された。ほかの階の住人宅にも「(岩上さんに)盗撮された」とするビラを放り込むなどエスカレートしていった。

「外に出るとき、家に入るとき、どこでばったり会うかわからないのが本当に怖かった。いつ何をされるか、いつ来るのかわからないので不安で眠れない日々が続きました」

 と岩上さんは声を震わせた。

 ターゲットは岩上さん一家だけではなかった。度重なる嫌がらせに耐え切れなくなった隣人は入居から2年で引っ越し、次に入った住人も3年ほどで引っ越していった。

「容疑者の誹謗中傷が原因で少なくとも3世帯は引っ越している」(前出・女性住人) 

 被害を受けた6世帯には元自治会役員や、「巻き込まれたくないので被害の詳細は明かせない」と口をつぐむ人も。

 それほど重い罪にはならないとみられるため、容疑者が戻ってきた後の“復讐”を警戒しているようだった。

「岩上さんは6年も続いたストレスでかなりダメージを受けており、家族も参っているそうだ」(前出・捜査関係者)

 容疑者宅のインターホンを何回押しても応答はなかった。今、マンションは静けさを取り戻している。