東出昌大 撮影/森田晃博

「“役を抜く”という作業は、僕はもちろん役者さんはみんな苦心しているところだと思います。例えばコメディー作品では、撮影後に共演者の方と食事をしていても“この作品だから楽しくごはん食べられるよね”って言っていられるけど、内容が重い作品になると本番以外でもそう和気あいあいとできないので。そういう意味では、今回の役は日常にもガッツリ影響しています(笑)」

 月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』のほか、主演映画『寝ても覚めても』など出演作品が続々公開され、今年も大活躍の東出昌大(30)。そんな彼が“今までの仕事の中で最大の試練”と挑むのは、三島由紀夫原作の舞台『豊饒の海』。

 実は、東出が舞台に立つのは3年ぶり、2度目となる。

「3年前の初舞台では、すごく緊張したのを覚えています。しかも初日にセリフが飛んでしまい、それからは頭真っ白! でも演出家さんが駆け寄ってきて舞台袖で“大丈夫だから”と肩を抱いてくださって。いま思えばすごい経験を1回目からしたなと。何が起きるかわからないのが舞台の怖さであり、面白さだと思います」

 それ以降、“舞台はやりたくはないけど、必ずやらねばと思っていた”と東出。そんなときに舞い込んできたのが今回の話だった。

「三島作品をやると聞いて喜びもつかの間、それが『豊饒の海』と聞いて“マジか~!”って(笑)。三島作品の中でも最も舞台化が難しい原作だと思います。大河ドラマくらいの枠がないと映像化できないほどの重厚なストーリー。それを舞台でやると聞いて、最初は恐れおののきました。たとえるならば、よく24時間テレビなどで見る30人31脚競走を1キロ走るみたいな(笑)。いち原作ファンからすると、そのくらいの試みなんです」

 とはいえ、30歳というひとつの節目で三島作品に携われることに喜びを感じているようで、

チャレンジングなことであり、人間的に大きくなれるチャンスかなと。山崎努さんの『俳優のノート』という本に、舞台『リア王』をやったときにセリフを全部カセットに録音して持ち歩き、お寿司屋さんに行ってもそれを聞いてて奥様に怒られたというエピソードがあって。この舞台は、そのくらい私生活に食い込んでないとできない仕事になりそうです。全力で挑みたいと思います」

 映画にドラマに舞台と引っぱりだこ。多忙を極める東出だが、こんな一面も見せてくれた。

「僕は仕事人間ではなく、基本的には休みのことばかり考えてます(笑)。僕も人間ですから仕事に行きたくない日もある。そういうときは“あ~仕事行きたくねぇ~!”って大きなひとり言をいってから家を出たり(笑)。でも休みもいただいていますし、精神的にも追い込まれてもない。いたって健康です」

 先日の休みには、家族や友人を引き連れキャンプへ行ったとか。

「でも、現地に到着した瞬間に豪雨に見舞われ、“勇気ある撤退”をしてきました(笑)。もし長いお休みをいただけたら、次は1週間キャンプをしたり、登山をしたり、ゆっくりとした時間の過ごし方をしたいなと思います。来年あたり、真っ黒に日焼けして、登山家みたいな容姿になっているかもしれません(笑)」

10代で三島作品の虜に

「文豪小説を読み始めたのは15~16歳くらいのとき。“そういうのを読んでる自分ってカッコいい!”みたいなところから入りました(笑)。三島作品は文章が美しくて精密で。人間の汚い部分も描かれていてスリリングで不道徳。でもキラキラした世界も感じて、それまでの人生では体験したことのない“スゴイものを読んだ”という不思議な感覚に陥ったのを覚えています

夫婦そろって本好き!

「家には1000冊くらいの本があって、一面本棚の部屋もあります。電子書籍ではなく紙で読むのが好き。処分するのはもったいないので、どうしても手放さなければならないときは人に差し上げるようにしています」

舞台『豊饒の海』

『豊饒の海』
原作:三島由紀夫 脚本:長田育恵 演出:マックス・ウェブスター
出演:東出昌大、宮沢氷魚、首藤康之、笈田ヨシほか
11月3日(土)~12月2日(日)、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて(※11月3日(土)~11月5日(月)はプレビュー公演)