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「全世代型の社会保障」を打ち出す安倍政権。第4次安倍政権でも、介護政策について重点的に取り組む姿勢を見せている。だが、社会保障審議会介護保険部会の委員を務めた経験をもつ淑徳大学の結城康博教授は、一定の評価をするものの、現状では「介護が充実することはない」と批判的に見ている。

「『1億総活躍社会』で“介護離職ゼロ”を目標に掲げるなど、介護政策を前面に打ち出したのは安倍政権が初めて。その点は評価できますが、だからといって、介護サービスを充実させることは100%ないと断言できます」

保険料で介護保険をまかなうのは限界

 2000年4月に介護保険制度が始まってから18年以上がたつ。保険料は当初、全国平均で2911円だったが、現在では5000円を超えている。厚生労働省の試算によれば、'25年には約8200円まで上がるという。

「お年寄りが増えると要介護者も増えるため、保険料は今後も上がっていくでしょう。しかし、それで介護保険をまかなうのは限界にきています。介護保険に占める公費負担の割合を、現行の5割から6割に引き上げるべきです」

 来年10月には消費税が8%から10%に引き上げられ、税収は5・6兆円ほど増えると言われている。しかし、半分は財政健全化に使われる。しかも、これらの大半は、子育て世代への投資として1・7兆円規模が使われる見込みだ。介護保険については、介護人材不足の対策に1000億円程度が盛り込まれているだけ。

「消費増税による福祉サービス向上は限定的。社会保障の充実に使われる予算の大半は幼児教育・保育の無償化、介護士や保育士の給料の穴埋めで消えてしまう。保険料負担の緩和にこそ使うべきです」

 介護職の人材確保も課題だ。募集をかけても人が集まらないうえ離職率が高く、'35年には79万人が不足するという経済産業省の試算もある。

「処遇改善加算をした結果、介護士の給料は平均で約1万4000円は上がりました。それでも全産業平均と比べると低く、ほかの仕事に流れてしまう。外国人介護士の受け入れに期待する声もありますが、彼らを育成する日本側の担い手自体が不足しています。研修をするにも費用がかかり、事業者負担は大きい。根本的な解決にはつながりません

 東京商工リサーチの調査によると、'17年度の介護サービス事業者の倒産件数は115件、過去最高を記録。調査では「廃業」や「撤退」は含まれていないが、介護事業者の数そのものが減少している。

「特にデイサービスが減っています。ただ、そもそも作りすぎて過剰だったので、淘汰されたともいえる。それから、事業所に入る介護報酬が引き下げられたことも大きい」

 とりわけ、ヘルパー事業所は危機的状況にある。

「賃金が安く、人が集まらないのです。このままでは在宅介護難民が続出します。しかし、政府は“介護は在宅重視”としながらも、在宅ヘルパー対策は打っていません」

“隠れ介護難民”が増加

 特別養護老人ホームの現状はどうか。待機者は減ったとも言われている。

「数だけ見れば減ったように見えますが、それは入所条件を原則として要介護3以上に引き上げたから。つまり、要介護1、2の人は締め出されたわけです。軽度認知症には要介護度の低い人も多く、本来、徘徊するお年寄りは特養の入所対象。行き場をなくした“隠れ介護難民”が増えています」

結城康博さん

 在宅介護となった場合、これまで以上に家族の負担は重くなる。

「例えば、働き盛りの50代夫婦の場合、介護と子どもの大学進学の時期が重なることも珍しくない。政府は返還義務のない給付型奨学金を拡充させようとしていますが、大半が低所得者向けで、中間層には限定的です。

 親の介護と、子どもの大学費用の支払いというダブル負担で、袋小路になる。 こうした問題が解消されない限り、介護負担の連鎖が起こり、親子2代の介護難民が現れる可能性もあります。孫世代のことを考えてみても、介護サービスを充実させる必要があります

 今後、介護はどうなっていくのだろうか。

「公的サービスが減って、自費でまかなう部分が増えることになるでしょうね。ここ10年、20年のうちに、地域格差も深刻化していく。不便な場所に住んでいるお年寄りは市街地に引っ越さなければ、ケアを受けられなくなってしまう。た

 だし、希望はあります。介護は情報戦。いいケアマネージャーやヘルパーに会うことができれば、情報を得て、適切なサービスを受けられるかもしれない。ネットワークを作っておくことです」

取材・文/渋井哲也(ジャーナリスト)


《PROFILE》
結城康博さん ◎1969年生まれ。淑徳大学教授。経済学修士、政治学博士。専門は社会保障論、社会福祉学。近著に『突然はじまる! 親の介護でパニックになる前に読む本』(講談社)