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安倍政権が作ったのは“企業ファースト社会”

 過労死に長時間労働、パワハラ、セクハラと働く環境をめぐる問題は後を絶たない。そんななかで安倍政権は「働き方改革」を看板政策に掲げてきた。では、働きやすくなったかというと、労働問題に詳しいジャーナリスト・竹信三恵子さんの見方は厳しい。

「安倍政権が進めてきたのは“企業ファースト社会”をつくるための政治。一般にイメージされている働く人のための政策はごまかしで、働き方改革もお飾りにすぎない。その姿勢は一貫しています」

 まず手をつけたのは'15年9月に成立した「改正労働者派遣法」だ。秘書や通訳などを除く一般業務の場合、派遣先企業で働く期間は最長3年。引き続き働いてほしいなら、派遣先は直接雇わなければならなかった。

「それを当時の民主党政権は強化して、一定条件を超えると直接、雇ったものと自動的にみなす“みなし雇用制度”を作ったんです。'15年10月から施行される予定でしたが、同年9月、安倍政権は派遣法を改正して、制度をひっくり返してしまった」

 法改正によって、業務にかかわらず派遣期間の上限は一律3年に。それを超えた場合、別の派遣先を紹介する、派遣会社から派遣先企業に直接雇うよう申し入れるなどの「雇用安定措置」を義務づけた。しかし施行から3年を迎えたいま、義務が発生する前に契約を打ち切る「派遣切り」が横行している。

「ずっと派遣として働くか、クビになるか、どちらかのパターンに分かれたわけです。とりわけ、ベテランの派遣がクビを切られています」

 企業ファーストな姿勢は、今年6月に成立した「働き方改革関連法」にも表れている。

「法案では残業時間の上限規制を定めていますが、問題はその中身。1か月で最長100時間、2~6か月で平均80時間まで残業させてもいいと認めています。これは過労死ライン。長時間労働の是正につながるのか疑問です」

 また同法案には、高収入の一部専門職を労働時間規制からはずす「高度プロフェッショナル制度」も盛り込まれた。

「適用されると、1日8時間までの労働、残業や休日出勤の割増賃金、週1日の休日といった労働基準法の規制からはずれる人が出てくる。いまは年収1075万円以上の専門職が対象ですが、いずれ基準を下げてくるでしょう

 そのため“残業代ゼロ法案”として批判を集め、長時間労働を助長するとして過労死遺族も反対の声をあげている。

裁量労働制で過労死の恐れも

 高プロと同様のリスクをはらむのが「裁量労働制の拡大」。2月に不適切データの発覚で国会提出は見送られたが、9月には検討会を開始、息を吹き返そうとしている。

 裁量労働制とは、あらかじめ決められた時間を働いたとみなし、長く働いても短く切り上げても、一定の給料が支払われる仕組みだ。

竹信三恵子さん

「管理職などに限られていた対象を法人営業などの職種にも拡大しようとするもの。高プロと違い、働く時間は自分で決められますが、仕事量についての裁量権はない。会社から仕事を大量に出されると、終わらせるために自発的に長時間働き、サービス残業をして、へたをすれば過労死する危険があります

 3月に裁量労働制を廃止した三菱電機では、'14年~'17年に労災認定された社員5人のうち、3人に裁量労働制が適用され、過労自殺した社員も含まれていたことが明らかになっている。

「長時間労働につながる働き方改革のもとでは、子どもや家族がいる女性の多くは働けない。仕事と家庭生活の両立は全く考えられていません。すると、ますます女性たちはパートや派遣社員などの非正規に流れていく。

 正社員で過労死のリスクにさらされつつ長時間働いて、男性に近い賃金を得る女性と、非正規で不安定な働き方で低賃金な女性という二極化が進むのでは? 今後、女性間の格差がさらに開いていくと思います

 総務省の労働力調査によれば、'17年に非正規として働く人は、前年比13万人増の2036万人。そのうち6割を女性が占める。安倍首相が「非正規という言葉をこの国から一掃する」としてぶちあげた「同一労働同一賃金」に期待をかけたくなるが、

「非正規の場合、仕事内容や成果で給料が支払われるのではなく、たいていが時間給。長く勤めれば賃金が上がる仕組みでもない。同一労働同一賃金は、賃金や転勤の有無が社員と同じかどうかが問われるため、ほとんどの非正規は対象にならないのです」

 どう生き抜けばいいのか?

「相談先を持っておくこと。労働団体や弁護士によるホットラインを利用するのもいい。知識や情報を得られて、ネットワークづくりができます」


《PRIFILE》
竹信三恵子さん ◎ジャーナリスト。1976年、朝日新聞社に入社。編集委員兼論説委員などを経て2011年より和光大学教授。専門は労働社会学、ジェンダー研究。『正社員消滅』(朝日新書)ほか著書多数