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 厚生労働省によると、外国人労働者は約128万人。安倍政権は、人手不足を背景に外国人が就労するための受け入れ上限を拡大する方針を示した。検討されている新たな在留資格に基づけば、在留期間を無期限で更新でき、家族も呼び寄せられる。

 20年以上にわたり外国人労働者を取材しているジャーナリストの安田浩一さんは、「今回の政策は事実上の移民受け入れだが、政府はそれを否定している」と懐疑的だ。

「建設や農業、造船、介護、観光・宿泊などの分野は、すでに日本人だけでは成り立たない。つらいわりに報われない仕事です。“日本人が働きたくない仕事は外国人に”という構造ができてしまうのは問題です」

伝統産業も外国人労働者が作っている

 外国人労働者が働いている事業所の割合で最も多いのは製造業で22・2%。次いで、卸売業・小売業17・1%、宿泊・サービス業14・3%、建設業8・6%が続く。

「栃木県のいちごの代表・とちおとめも、伝統産業である愛媛県今治市のタオルも、ほとんどが技能実習生という名の外国人労働者が作っています。北海道の水産加工、愛知県などの自動車産業の下請け企業でも、主な担い手は技能実習生。

 地場産業や伝統産業の少なくない部分を外国人が支えている。そうした現実を認めたうえで、外国人労働者を受け入れるべきです」

 外国人労働者が日本の産業を支えている現実がある一方、それに見合った労働環境ではないことが指摘されている。外国人労働者の内訳は、身分に基づく在留資格が45万9000人、専門的・技術的な分野の在留資格は23万8000人、技能実習が25万7000人、資格外活動(留学)が29万7000人など。

 なかでも技能実習生の待遇が課題だ。鉄道車両を製造している日立製作所の笠戸事業所(山口県下松市)では、フィリピン人実習生の不当解雇が明るみに出た。団体交渉を重ねた結果、日立が国側から実習中止処分を受けた場合、実習期間の基本賃金を補填することになった。技能実習生の劣悪な雇用・労働環境は、たびたび問題になっている。

経営者も地域も、技能実習生を労働者と見ていません。少し前まで時給300円、400円は当たり前だった。今では改善され、最低賃金の水準になっていますが、手取りが変わっていない。

 家賃や水道光熱費が値上がりしたとして、控除が増えるからです。そこには労働行政は踏み込めない。また、技能実習生が働けるのは最長5年まで。転職も禁止されています。職業選択の自由がありません」

 もちろん、労働環境に配慮した経営者もいる。ただ、「家族同然」という扱いにひそむ問題もある。

「技能実習生を“うちの子”と呼ぶ経営者がいます。“家族同然。社長と呼ばせない”と言ったりもする。これは労働者であることを覆い隠す言葉。家族だったら劣悪な環境で働かせますかと言いたい」

外国人を受け入れる法改正をすべき

安田浩一さん

 外国人労働者が増えることは、外国人の居住者も増えることを意味する。在留外国人統計によると、外国籍の住民は250万人を超えた。京都府の人口と、ほぼ同じだ。

「安倍政権のコアな支持層は外国人を嫌悪する人たちです。外国人を増やすことは、支持基盤の考えとは矛盾する。それでも安倍政権が動くのは、経済界の要請があるから。人手不足と、安価で使い勝手のいい労働者が欲しいのでしょうが、手放しでは喜べない。きちんと外国人を受け入れるための法整備をすべきです

 外国人が増えることで治安悪化を心配する声が絶えない。しかし警察庁の統計では、一般刑法犯検挙に占める来日外国人(観光客も含む)の割合は3%を超えたことがない。

「外国人犯罪が急増したというデータはありません。オーバーステイ(不法滞在)自体を犯罪とするのなら増えますが、オーバーステイの外国人の犯罪率が高いというデータもない。オーバーステイをするのは稼ぐためで、最大の障壁は逮捕されること。ですから、彼らの多くは目立たないように生きています。信号を守るし、立ち小便もしない

 日本では近年、ヘイトスピーチが社会問題となっている。'16年に、外国人に対する不当な差別の解消を目指す法律ができたが、課題は多い。

「日本人は外国人嫌悪が消えていない。特にアジア系に対する差別や偏見はものすごい。“外国人なんだから一定の不利益があってもしかたがない”と思っているのではないか。国籍に関係なく等しく人権は守られるべきで、そのためには教育や啓蒙が必要。外国人が住みやすい地域は日本人にとっても住みやすく、寛容な社会だと思います」

取材・文/渋井哲也(ジャーナリスト)


《PROFILE》
安田浩一さん ◎1964年生まれ。ジャーナリスト。週刊誌記者などを経てフリーに。事件・社会問題を中心に執筆。『差別と貧困の外国人労働者』(光文社)、『「右翼」の戦後史』(講談社)ほか著書多数