テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふと、その部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)

『結婚相手は抽選で』の制作発表(左から佐津川愛美、大谷亮平、野村周平、高梨臨、若村麻由美)

オンナアラート#21 ドラマ『結婚相手は抽選で』

 男女が対になって家族をつくるのがまっとうな生き方、という考え方がまだ大多数の現代で、「恋愛不要」、「結婚しない」、「子供いらない」と宣言するのは、結構、覚悟がいることだ。

 家族礼賛主義で、誰もが同じロールモデルを目指す社会は確かに均一で、コントロールしやすいよな、行政側からすれば。

 でも、それって怖くないか? そう思わせる問題作がある。

 土曜夜に放送されている『結婚相手は抽選で』(フジテレビ系・毎週土曜よる11時40分)だ。制作の東海テレビにしては珍しく、今の空気や感情を意外とちゃんとすくいとった社会派ドラマである。

「え~、重いドラマはイヤだわ」という人は、日テレの『今日から俺は!!』をお楽しみください。腹を抱えて笑える部分があり、笑えずに寒風が吹きすさぶ瞬間が逆に面白い部分もあり、週末ドラマに最適だからね。

 ただ、オンナアラート案件としては、断然『結婚相手は抽選で』なのよ。主役はちょっとオラついた印象がある野村周平なのだが、今回は心優しい青年役。

 が、基本的にコミュニケーションが苦手で、キョドるキモオタ役である(キモいオタクって酷い言いようだが、劇中での扱いがまさにそうなので)。

 簡単にいえば、「結婚って何のためにするの?」を問いかけてくるドラマなので、権力や世間に対してちょっと斜に構えているが、マインドはまっとうな女性にはぜひ観てほしい。

 寄らば大樹の陰で、世間という主語で自分を語るのが好きな人は、TBS『下町ロケット』か、テレ朝『リーガルV〜元弁護士・小鳥遊翔子〜』でも見とけ。

欠陥だらけの法律が人を傷つける

 ドラマの設定をまず説明しておきたい。

 政府がトンデモ法案を打ち立てる。それが「抽選見合い結婚法案」で、あっという間に両院で可決されてしまう。

 その中身は、25~39歳の独身男女(結婚歴も子供もナシ)は、地域ごとに無作為にカップリングされて、見合いを強制される。

 狙いは「少子化と非婚化の抑止」というが、実際には首相の収賄疑惑から国民の関心をそらすための目くらまし法案でもある。

 トンデモ、というのは、この強制的な見合いで、3回断ると「テロ対策後方支援部隊」に送り込まれ、2年間従事しなければいけないという点だ。

 この部隊の活動内容は一切知らされておらず、ネットに情報がひとつもない。つまり入隊しても、箝口令が敷かれているか、あるいは一切の自由を奪われているとしか考えられない。「除隊後は、現状の職場復帰を政府が保証する」というが、眉唾だ。

 ただし、参加者は条件をひとつだけ希望できる。自分が書いた条件に明らかに合わない相手と認められた場合は、断ってもカウントされない仕組みだ。

 これに恐怖を感じた人々はお見合いに積極的に参加し、結婚に向かって必死に動き始める。誰だって戦地や紛争地域、危険な目に遭う場所に行かされたくないからだ。

 どうすか、この法律。オンナアラート鳴るよね。

 そもそも、結婚したくない人は? 子供いらない人は? 子供産めない人は? LGBTQは? 逆に、40歳以上と前科者、在日外国人は、はなから除外されているところも酷い話だ。

 個人の自由と人権を完全に無視した法律に、オンナアラートどころか、ニンゲンアラート鳴りまくりですわ。

泣く人、怒りに震える人、闘う人

 劇中でも、この法律に傷つき、憤り、悔し涙を流す人や抵抗する人が描かれる。

 幼いころから容姿をからかわれ続けた女性(富山えり子)は、恋愛も結婚もしないと固く心に誓い、勉強と仕事に邁進してきた。

 国立大学に進学し、誰もがうらやむ大手企業に就職し、がむしゃらに勉強して資格試験も突破。最年少で主任に昇格し、マンション購入の審査も通った矢先に、この法律の施行である。

 子宮頸がんで子宮全摘手術を受けた女性(平岩紙)は、産めなくなった自分を責め、立ち直るまでに時間がかかったと話す。気持ちの整理がついて、自分の意志で結婚しないと決めたときに、この法律である。

 政府は病気のことまでは調べずに、無作為かつ無神経に「結婚(出産)マーケット」へとひきずりこむ。

 また、主役の野村周平の友人(松本享恭)はカミングアウトしていないゲイだ。とにかく相手の女性に断られるよう仕向けて、断られ続けることでやりすごすしかない。

 フリージャーナリストの女性(大西礼芳)はそもそも結婚に興味がなく、法案に反対派。ひとつだけ記入できる条件には「代々犯罪者の家系を希望」と書いて抵抗する。

 ところが、「そもそも出会いがないから、案外いいじゃない?」と乗っかる人もいる。政府主導なもんだから、「抽選見合い法」向けの経済も動き始める。

 抽選見合い法応援セールと称してスーツを売る店、抽選見合い法公式などと掲げる飲食店も出てくる。選択の自由を奪われている事実から目を背け、目先のことにとらわれて踊らされる人々を描いている。そこが実にリアリティがあるなあと思う。

 劇中でも、テロ支援部隊に送り込まれるのは女性が多いという設定がある。また、断り続けてリーチがかかった女性を脅迫したり、ストーカー化する男性も出てくる。

 逆もしかりで、自分よりブスな女性に身代わりお見合いをさせて、断らせるツワモノ策士な女性も出てくる。さもありなん! 

 で、野村周平は、この法律に傷つけられた被害者たちの声をすくいあげるブログを立ち上げる。傍若無人でリーチがかかったお嬢様(高梨臨)と見合いをして、順調に関係を築いていく一方で、傷ついた人々を助けたいという気持ちをどう昇華させるか。

 物語の行方というよりも、設定そのものにオンナアラートだ。憤り? 疎外感? 恐怖? それとも「わー楽しそう」と思うかどうか。ぜひ観てほしい。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/