巣鴨駅構内のコインロッカー。妻子はお金を他の駅のロッカーに移す役割を担っていた

 被害者をだまし、振り込ませた現金を父親が引き出す。その現金を母親と娘がコインロッカーで受け渡し管理する。

 そんな家族ぐるみの犯罪に先月末、警視庁捜査二課のメスが入った。

 詐欺罪の疑いで逮捕されたのは、埼玉県ふじみ野市の無職・宮腰和夫容疑者(52)と妻で自称派遣社員の春美容疑者(52)、都内に住む次女で看護助手の友梨亜容疑者(22)の3人。

逮捕の1か月以上前からマーク

 3人は福井県在住の80代女性に、証券会社の社員を装って電話。証券購入に名義を貸したことによる問題を回避するために現金が必要で、現金は必ず返金されるとウソを並べ、計1050万円をだまし取った疑い。

 宮腰夫妻が長男と住んでいたのは埼玉・ふじみ野市のアパート。関係者によると、風呂・トイレ・台所つきのワンルームタイプで家賃は月約4万5000円という。3人暮らしには少し窮屈だったかもしれない。近所の主婦は、

「昼間は人の気配がなくて、夜遅くになると部屋に明かりがついていた」

 と日中は出かける夫婦の生活パターンを記憶している。

「そういえば……」

 と記憶をひも解き、続ける。

「ひと月ぐらい前でしたか、警視庁の刑事さんが2人来られてね。埼玉県警じゃないので不思議だなって覚えていました。

 玄関先じゃなくて、中でお話ししたいって言うから、玄関口で話したんですけど、そのとき“最近、詐欺が多いので、お宅に防犯カメラをつけたい”ってお願いされたんですよ」

 家の外にコンセントがないため主婦は設置を断ったが、

「今から考えると、容疑者宅をピンポイントで見張りたかったんでしょうね。ここからだと、よく見えますから。夫婦の出入りや他の誰かの出入りもね。ということは、ほぼ1か月前にはマークしていたということよね」

 と振り返る。

 東京・山手線。JR大塚駅から徒歩8分ほどに、友梨亜容疑者が暮らす8階建てのマンションがある。住人は若い単身者が多い。

「このマンションは入れ替わりが激しくて、管理人さんも容疑者のことを知らなかったくらいです」

 とマンションの住人。新聞受けには『宮腰』と書かれた名札が貼ってある。それ以外に生活の痕跡が見当たらない。

 今年8月、和夫容疑者の姿が、長野の生家近くで目撃されていた。近所の住民が話す。

「和夫さんがひとりだけで、実家に戻って来たのを見ました。もともと宮腰さん一家は、物静かな方たちでした。

 お母さんは4年くらい前に亡くなりました。4歳くらい離れた弟さんは、別に所帯を持っています。兄弟の仲もよかったです。和夫さんはおとなしい人で、何でこんなことになっちゃったんだろうって思いますね」

 今は、ひとり暮らしになった和夫容疑者の父親は、テレビの取材で、息子にはパチンコによる借金があったと語っていたが、

「いや、もうお話しすることはありませんから。もう終わりにしたんで」

 息子が、自分と同年代の高齢者をだまし現金を奪ったことに、謝罪はなかった。

 和夫容疑者がパチンコでどれくらい借金を背負っていたのかはわからない。一部報道によると、和夫容疑者が詐欺グループに「妻や娘にできる仕事はないか」と打診したという。母娘の本業の稼ぎでは足りないほど追い込まれていたのか。

 家族会議はしばらくできない。