スマホを紛失したとき、考えられるリスクは2つあります(写真はイメージです)

 現在、『スマホを落としただけなのに』(原作:志駕晃、監督:中田秀夫)という映画が全国で公開されている(2018年11月10日時点)。

 田中圭演じる平凡なサラリーマン・富田誠がスマホを落としたことで、恋人の稲葉麻美(北川景子)に、身に覚えのないクレジットカードの請求や、SNSでつながっているだけの男からのネットストーキングなどが続く。

 SNSを使った身元特定や個人情報収集、なりすまし、スマホの乗っ取りなど、現代的な怖さが満載の映画となっている。

 スマホを落としたり忘れたりしたことがある人は、ドキッとする内容だ。では、実際にスマホを落としたときに、どのようなリスクがあるのか。

スマホ紛失で約300万円使い込まれた人も

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です
リスク1:多額の不正利用

 2012年にAさんは、スマホを紛失した。彼はその直後に携帯電話会社に連絡したうえで、警察に遺失物届を出した。

 だが携帯電話利用停止後に、151回にわたり合計291万9000円もの不正使用をされてしまった。電子マネーをチャージできるサービスを利用していたのにもかかわらず、サービス提供会社に利用停止の連絡を見逃してしまったからだ。

 信用情報のブラックリストへの記名を恐れたために、一度は請求された額を支払ったAさん。しかしその後、彼はクレジットカード会社と電子マネーサービス提供業者に対して、不当利得返還請求権に基づき、291万円と遅延損害金の支払いを求めた。

 2016年8月、東京地裁で判決が出て、被害額の大半はAさんに返金された。

 判決において、電子マネーサービス提供業者が消費者に対して、「携帯電話会社に紛失届と使用停止の手続きをしただけでは電子マネーの不正使用を停止できないこと」「電子マネーサービス提供業者にも同様の届け出が必要であること」をまったく告知していなかった点に過失があるとされたからだ。

 現在は、電子マネーサービス提供会社のホームページにも紛失の際に届け出が必要ある旨が明記されているため、今後似たような被害に遭っても返金されない可能性が高い。

 不正利用される可能性のあるものに、モバイルSuicaや、おサイフケータイ、Apple IDやGoogleアカウントなどがある。特にオートチャージ機能を利用している場合、被害額が大きくなる恐れもある。

 万一スマホを落としてしまった場合は、サービスを利用している電子マネー業者に連絡して利用停止手続きをするほか、クレジットカードなどの明細は必ず確認したほうがいいだろう。

リスク2:個人情報の大量盗難

 スマホを落とすと、大量の個人情報が見ず知らずの他人の手に渡るリスクもある。私の友人であるB子さんの娘も、スマホを失くしたことで同様の被害に遭った。

「ある日、私の友人から急に『お子さんからLINEで変なメッセージがきた』と連絡がきました。警察に届けた後に携帯会社に連絡して利用を止めたけれど、スマホには娘の写真もたくさん入っているので、その後も安心できませんでした」

 と、B子さんは当時を振り返る。

 結局、B子さんの娘のスマホは見つからず買い直すことになった。後日、彼女は偶然、娘の写真が「かわいい小中学生の女の子」とまとめサイトに掲載されていることを知ったという。

 写真が流出していることを知って、相談機関に相談して、削除依頼を送ることになったそうだ。

「掲載されている分は削除できたはずですが、知らない人が娘の写真をまだ所持している可能性もあります」と、B子さんはいまだに不安を拭えていない。

 このようにスマホを落とすと様々なリスクが身に及ぶ可能性がある。スマホは、名前や電話番号、写真や動画、メールなどが記録されている“個人情報の塊”だ。

 もしアプリを通じてSNSにアクセスされたら、さらに多くの情報が盗られてしまうだろう。

 たとえばFacebookでは、本名、顔写真、居住地、出身校や勤務先、交友関係などだけでなく、メッセージの内容も筒抜けとなってしまう。自宅や勤務先を特定して待ち伏せをされたり、アカウントを乗っ取られてプライベートな写真が流出したりということも起きる可能性もある。

「端末紛失対策アプリ」を活用しよう

 では、上記のようなリスクに対してどのような対策を取ればいいのだろうか。

 基本的なことだが、スマホの画面ロック機能は必ずオンにしておこう。それだけでスマホの内容を盗み見られるリスクがかなり抑えられる。

 その際、パスワードは推測されにくいものにしておくことが重要だ。あるいは指紋認証や顔認証などにしておけば、セキュリティ強化に役立つだけでなく、使いやすい。

 同時に、紛失対策アプリを設定しておくことといい。

 iPhoneなら「iPhoneを探す」は必ずオンにしておき、Androidなら「端末を探す」アプリをインストールのうえ、「位置情報」と「端末を探す」をオンにしておくことだ。これによって端末の場所を地図上で確認したり、ロックしたり、データを遠隔消去することができるようになる。

 日頃からデータはバックアップしておくほか、ログインが必要なサービスはID、パスワードなどをブラウザなどに記憶させないことも大切だ。またLINEは、パソコンでも利用できるようにしておくといざというときに連絡がとれなくなる心配もなくなる。

それでも紛失したらすべきこと

 ただし、いくら対策をしていてもスマホを紛失してしまうことはある。そんなときはどうすればいいのか。

 まず店や乗り物など心当たりの場所に問い合わせ、それでも見つからなければ、前述の紛失対策アプリで端末のある場所を調べてスマホを取り戻すように最善を尽くそう。

 iPhoneの場合は、パソコンなどのブラウザからiCloudにログインすることで、失くしたiPhoneを「紛失モード」に設定できる。紛失モードを使えば、ロックをかけたうえで連絡先を表示させられる。

 続いて警察に遺失物届、キャリアや電子マネー業者に利用停止の連絡をしよう。念のため、スマホに入っていたGoogleアカウント、Apple ID、LINEやFacebookなどのSNS、メール、ネットショップのIDやパスワードは変更しておくと安心だ。

 もし先程説明したiPhoneやAndroidの端末を探す設定をしていなくても、実はキャリアには紛失・盗難サービスが用意されている。

 回線を一時停止するほか、キャリアによっては端末にロックを掛けたり、端末の位置を検索したり、遠隔でデータ消去なども可能なので活用しよう(一部有料サービス。事前に加入の必要あり)。

 スマホを紛失すると金銭的な損害だけでなく、個人情報が流出すると身の上に被害が及ぶ可能性もある。気をつけていても紛失・盗難は誰の身の上にも起こりうることだ。事前に紛失対策アプリを設定するなどの対策を行っておくことが鍵となるので、この機会にぜひ設定してほしい。


高橋 暁子(たかはし あきこ)◎ITジャーナリスト 書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミ ナーなどを手がける。 SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)など著作多数。『あさイチ』『ホンマでっか!?TV』などメディア出演多数。公式ブログ: http://akiakatsuki.hatenablog.com/