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「容疑者らが使ったのは、スマートフォンで交際相手や結婚相手を探す『マッチングアプリ』です。そこに登録している女性に近づき、メッセージのやりとりや会話をしてとにかく安心させて、実際に会う約束を取りつけます。

 ジュエリーデザイナーと名乗り、この近くに会社がある、自分がデザインしたジュエリーがあるのでぜひ見てほしい、と言われれば、ジュエリーに関心のある女性なら、恋人候補の男の仕事ぶりを見に行ってしまう。異性の恋愛感情を巧みに利用する、“デート商法”という類いの犯罪です

 全国紙記者がそのようにかみ砕いて説明する手口で、容疑者らは犯行を重ねた。

数万円のジュエリーを「元値80万円だよ」と

 警視庁は11月8日、ジュエリーの訪問販売業を営む『Grand Line』の代表取締役の森田宏行容疑者(34)と会社員の笹谷綾乃容疑者(39)、アルバイトの川端俊吾容疑者(34)、派遣社員の小野寺太一容疑者(35)の男女4人を特定商取引法違反(目的隠匿型誘引行為など)で逮捕したと発表した。

「実際に店に連れて行くと、40万~50万円のジュエリーを見せ、『元の価格は80万円だよ。普通は半額にはならないから』という具合に、お得感や特別感で購買意欲をあおると同時に、女性のことをほめちぎっていい気分にさせて売りつける。実際の価値は、数万円のものですから、本当に悪質です」(前出・全国紙記者)

 2010年8月に、今回逮捕された川端容疑者にジュエリーを売りつけられた女性がいる。都内在住の看護師、君島涼子さん(仮名、29)。背が高く、笑顔がかわいらしい明るいタイプだ。鮮明な記憶をひも解いてくれた。

「自宅に電話がかかってきたのがきっかけです。当時の会社名はDIAWIN。店は渋谷にありました。

川端俊吾容疑者(SNSより)

 “社会人1年目なので貯金もないし買えませんよ”と断ったら、“君のこと気に入ったから安くしちゃう”と120万円が60万円になり、渋っていたら40万円になり、“即決してくれたらこの値段で売るよ”と言われました。“若い子は借金して買うよ、鑑定書もつくよ”と言われたら信用しますよね

 その後、涼子さんは川端容疑者と食事をする間柄に。

「会っていたときは、2~3か月に1回、2年くらい会わないときもありました。恋愛感情はありませんでしたが、食事に連れて行ってくれたら全部おごってくれていました。将来は自分のお店を持ちたいとか、お店とは別のところでも働いているんだ、ということは言っていましたね」

130万円の架空ローンを組まされ……

川端容疑者からお金を貸してほしいと連絡が来たことも

 親密感を作り出すことで自分のことを信じ込ませ、タイミングを見て、さらに川端容疑者は、2度目、3度目の騙しに着手した。

「食事をしていたときに、1個目はどうだった? と聞かれて、私は身体が大きいのでもう少しチャームが大きいほうがよかったかなという話をしたら、“俺はデザイナーだし作るよ。オーダーメード料やデザイン料は取らないから”って。

 3度目は'15年6月、“おそろいの指輪を作ろう”って言われました。私は指輪をしないので、作るならピアスかなと思って、20万円なら出せると言いました

 さらに涼子さんは、“売り上げ目標をなんとかしたい、お金はこちらで出すから”という川端容疑者の口車に乗せられ、商品がないにもかかわらず130万円の架空のローンを組んだことがあるという。

「そのころには5年も付き合いがあったから、信用していたんですよ。支払いが遅れることはたびたびありましたけど、月々2万円ほどの返済がされていました。今年の7月に支払いがないことに気づいて、LINEをしても既読にならない、電話をしても出ない。逃げたなと思いました。

涼子さんが組んだ架空ローンの契約書。担当者には笹谷容疑者の名前が

 残りは30万円くらいですが、今は自分で払っています。私にも落ち度があったし、勉強代かなと思っています。今回のこと(逮捕)があるまで、騙されているとは一切思っていませんでした。でも逮捕されたと聞いて、やっぱりかとは思いました。出所したらどうせまた繰り返すんでしょうから、なるべく長く刑務所に入っていたらいいと思いますね

 千葉県柏市――。川端容疑者が通っていた中学がある。剣道部の後輩だった男性は、

「剣道も強かったし、めちゃくちゃモテましたね。バレンタインのチョコとかもたくさんもらっていたし、立ち居振る舞いとかすごいセクシーだったんですよ。防具のつけ方もちょっと違っていて後輩はみんなまねしてましたね」

 と目立つ存在だった中学時代を振り返り、ため息をつく。

「久しぶりに名前を聞いたと思ったら、逮捕ですか。ショックですよ、ホント」

 ネット上の掲示板では、川端容疑者らは以前から目立つ存在だったようで、逮捕前から「偽名を使っている」「契約するまで帰さない根性が尋常でない」「昨年7月、川端俊吾に騙されてペアリングまで買わされました」などなど。過去、似たようなメンバーで運営していた同種の会社が行政処分を受けていた形跡も。

 国民生活センターの担当者は、

「2013年度末から相談は寄せられており、逮捕が遅かったという印象ですね。もっと早く動いていただければ、被害の拡大が少なくてすんだなという思いです」

冷静になる時間を作って

 契約を締結してしまった人の相談件数は125件で、うち118件が女性から。

「恋愛感情につけ込まれ、相手に嫌われないように、お金を支払うことでつなぎとめておこうという心理が働く」(同・担当者)ことがデート商法の温床と指摘し、被害に遭わないための心構えを伝える。

「そもそも高額の商品を買ってほしいと言われたら疑うということが大事なのですが、恋愛感情という弱みにつけ込まれていると冷静に判断をするのは難しいと思います」

涼子さんは今もこのアクセサリーを使っているという

 実際、被害者が騙されていると気づかないケースも多々ある。そんなとき、安全装置になるのは家族や友人だ。

「自分でちょっとおかしいなと思ったら、周囲に相談をしていただければ、冷静な人たちから客観的なアドバイスをもらえる。

 また、お金はすぐに払わないということです。好きな相手から何か言われても、家に帰ってから落ち着いて考えると、どこかで聞いた話だなと思い出せる。冷静になる時間をつくることで踏みとどまれる場合もあります」(同前)

 恋人と思っている相手に高額商品の購入を持ちかけられたらデート商法、そうピンとくれば被害は防げる。

 最後に、デート商法のここ十数年における手法の移り変わりと、被害防止のためのポイントを紹介する。

「SNS」「借金」「上司」の3ワードに要注意

 今は昔、デート商法も路上で女性に声をかけられることが主だったが、今ではその出会いの場も変わってきている。

「2010年度ごろからスマートフォンの普及に伴いSNSを通じて知り合う事例が増加していきます。最近ではマッチングアプリなどによるものも増加していますね」

 と現状を明らかにするのは国民生活センターの担当者。被害は増えているのか。

「全国の消費生活センターに寄せられたデート商法の相談件数は'08年度に714件だったものが、'17年度は454件と減少しています。商材も微妙に移り変わっていますが、アクセサリー類は扱いやすいこともあり常に入っています。最近では競馬の予想システムやFXに関する情報商材が多いですね。少し前なら投資用マンション。さらにその前になると絵画ですね」(同・担当者)

 40代の男性は過去にこんな被害に遭ったと振り返る。

「昔、キレイなお姉さんに路上で声をかけられてさ、画廊に入って絵を買っちゃったんだよね……。35万円ぐらいだったかなぁ。かわいかったからついつい……高い買い物だったよ」

 実際に記者も都内を歩いて回ると、絵画を販売する店舗前で通行人にひたすら声をかけ続ける女性の姿が。チラシを受け取ってみると──。

「画廊の宣伝をしていたんです。ぜひ見て行ってください」

 30代後半ぐらいのかわいらしい女性が話しかけてきた。

──絵はわからなくて……。

「大丈夫です! 絵に興味のない方に興味を持ってもらうために活動する感じなので。やりがいを感じてます」

 店内に通されると氏名、住所などの記入を求められた。店内には50万円から80万円ほどの高額な商品もあれば、数千円の安いものも。いろいろ見ようかなと思ったところでポストカードなどをすすめられた。お金を持っていないように見られたのだろうか。

 3枚で2000円というので購入して店を出た。高額商品をすすめられることはなく、恋愛感情をくすぐる言葉もかけられなかった。まっとうな画廊なのかもしれない。

「ほぼ同じエリアで約20年前、ボディタッチの多い画廊があってデート商法の巣窟だった。恋愛経験の少なそうな男性が声をかけられ、興味のない絵画を買わされていた。女性の上司が出てきて追い込まれるんです」(全国紙社会部記者)

 近年ではこんな手口も目立つと、前出の国民生活センターの担当者が話す。

「クレジットカードや消費者金融で借金をさせて強引に買わせるんです」

 実際に消費生活センターに寄せられた相談事例では、20代の女性がマッチングアプリで知り合った男性と会った際、事務所に連れていかれ、アクセサリーをすすめられたという。

 定価70万円を減額すると言われたが、お金がないと伝えると消費者金融での借り入れをすすめられた。相手に好意を持っていたことや、今日を逃したらもうないと言われ30万円程度の借金をして購入してしまったという。

「SNS、借金をさせる、上司が出てくる。この3つのキーワードがそろったら要注意と考えていただきたい」(同前)

 40代女性からの相談が増えているという。ネットで知り合った意中の異性に上司を紹介されたら注意しよう。