大林千茱萸 撮影/廣瀬靖士

 ホットサンドといえば、昭和っぽい喫茶店のメニューに、サンドイッチと並んでいるアレ。具はハム&チーズの1種類。週女世代にはなつかしいホットサンドが今、若者に大人気で、専門店まで登場する勢いだ。TBSのテレビ番組『マツコの知らない世界』では、あの食にうるさいマツコが大絶賛!「今年食ったものの中で一番うまい!」とまで言い切ったのである。

 喫茶店のアレがそんなにおいしいの? と疑問を抱きつつ、本書を広げてみると、おいしそうなホットサンドがズラーリ! 常識をくつがえす画期的なレシピ集なのだ。

 手がけたのは、マツコの番組に登場した「ホットサンド倶楽部」部長、大林千茱萸(おおばやし ちぐみ)さん。映画『転校生』『時をかける少女』で知られる大林宣彦監督のひとり娘。

 自身の監督作『100年ごはん』の監督では食の知識を生かし、“映画を見て+同じ釜の飯を食べ+語り合う”というオリジナルな上映方法で、消費者と生産者をつなぐ活動をしている。

 本書はホットサンドレシピ集第2弾。大林さんの初版は世界初のホットサンド本として大人気となり、韓国でも出版。火つけ役として近年のホットサンドブームを牽引(けんいん)する存在だ。

 第2弾ではレシピのほかに、基本の作り方から器具まで紹介。美味しさが伝わってくる写真がたくさんで、パンの焼ける香りが漂ってくるようだ。そして、驚くのはレシピの多さ。

「レシピは書籍第1弾も本書も、それぞれ100を超えるレシピを掲載しました。これでもかなり削ったんです。常に500くらいのレシピはストックしていますから」

 ホットサンドだけで500レシピ! いったい何をはさんでいるのだろう?

いったい何をはさむの?

「まずはご自宅の冷蔵庫をのぞいてみてください。基本的に自分の好きなものしか入っていませんよね? 身近な食材からはじめると、自分のお気に入りがすぐに見つかります」

 思わず、えっ? と目を奪われたのは日常のごはんの「おかず」がホットサンドのメニューになること!

マツコさんは、肉じゃがやおでんのこんにゃくをはさんだホットサンドがお気に入りでした。帰りがけ、スタッフさん用に焼いたパンまで持ち帰るほど(笑)」

 なんと、こんにゃく!

ホットサンドの特徴は蘇(よみがえ)り率が高いことです

 前の日の夕飯の残り物をホットサンドにすれば美味しく生まれ変わるのだ。特にカレーは相性バツグン。本書では、カレーだけで1つの章があるほど。

「惣菜だけでなくお菓子も蘇り率が高いです。おはぎは1日たつと残念な硬さになりますよね? 悲しいおはぎもホットサンドにすると蒸気で蒸され、おいしいスイーツとして蘇ります」

 なんとおはぎもサンド!

「みたらし団子もおいしいですよ。商店街で売っているものを挟んで焼くという企画のテレビ番組に出演したとき、収録前に“これはないな……”と言っていたスタッフが、食べたとたん“んまい!”と絶賛(笑)」

具はなんとおはぎと芋ケンピ。想像を絶するおいしさ! 撮影/廣瀬靖士

 驚きの連続のホットサンド。さらに焼く場所にも驚きだ。本書では山海畑のバーベキューレシピを紹介。

「ホットサンドは両面が器具で覆われているので、海で砂が飛んできても大丈夫。人間はあたたかいものを食べると元気になるので、私は避難グッズとして常備してますし、実は“フードロス”を救う一面もあり魅力です」

 なんと奥が深い。そんな使い方があったとは! さらに、ホットサンドはパーティーでも盛り上がる。

手巻き寿司のように、具材を持ち寄るパーティーも楽しくておすすめ。野菜が苦手なお子さんもホットサンドに挟むとパクパク食べちゃうからうれしいです」

 驚きがあって、パーティーができて、好き嫌いをなくすホットサンド。こんなにもマルチだったとは! 

なぜホットサンドにハマったの

 そもそも大林さんは、なぜホットサンドにハマったのか?

「子ども時代、近所の友達の家に遊びに行ったとき、その家のお母さんが焼いてくれたのが出会い。え、サンドイッチなのにあったかい? しかも、チーズとろとろ! その美味しさに心と胃袋をつかまれました」

たくさんのホットサンドメーカーの中から、最適なものを選んで調理! 撮影/廣瀬靖士

 しかし'80年代当時はまだパンや具のバリエーションが少なく、マンネリ化。食べる機会を失ったそう。

「それから、20年ほどが過ぎ、ある日ふらりと入った喫茶店でホットサンドを見つけ食べてみました。懐かしい……でも、いまもハム&チーズなの? と幼少期の感動がなかったんです」

 買い物途中だった大林さん。袋をのぞくと焼きそばの具材が入っていた。

「焼きそばパンが定番なら、ホットサンドでもいいよね? と家に帰って食パンに焼きそばを挟んで焼いてみたら……イケる! そこから一気に開眼。惣菜からスイーツまで挟んで」

 SNSに『ホットサンド倶楽部』を作りレシピや写真をアップして大人気に。

手際よくホットサンドを焼いてくれる大林さん。その笑顔は少女のよう! 撮影/廣瀬靖士

「ホットサンドはタジン鍋のようにパンの中に具材の水分を閉じ込めるので、外はカリカリ、中はしっとり。そのハーモニー感と組み合わせで美味しさが無限に広がる楽しさが、みなさんを虜(とりこ)にする秘密かと。パンは食べられるお皿です!

 簡単に作れるホットサンド。さめてもおいしいから、お弁当にもOK。これから家庭の定番料理になりそうだ!

ライターは見た!著者の素顔

 かわいらしくてチャーミングな大林さん。今回はハイカラなホットサンドにピッタリのご自宅にお邪魔させていただきました。おしゃれインテリアの中、おいしそうな大林さんの語り口調に、ヨダレだらだらの記者たち。

 それを予想していたのか、取材後、3種類のホットサンドを作ってくれました。香ばしい匂いが漂い……、サクサクふわふわ~、しあわせタイム~。「人が食べているときの、しあわせな笑顔を見るのが大好き」と、やさしい人柄があふれていました。

『ホットサンド倶楽部 もっと! いつでも、どこでも、おいしいレシピ!!』
大林千茱萸=著シンコーミュージック・エンタテイメント 1620円(税込)
※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
PRIFILE●おおばやし・ちぐみ●約8000人の部員がいるFacebookコミュニティー「ホットサンド倶楽部」の部長。映画『100年ごはん』(2013年)の監督。世界各国250か所以上で上映され、現在も映画とともに旅を続けている。フランス料理と国際儀礼を学び、テーブルマナー講師としても活躍。著書に『こんがり!ホットサンド レシピ100 はさんで焼くだけ、おいしくたのしい』がある。週刊女性シネマページでも好評連載中。

(取材・文/ますみかん)