“名古屋のカリスマ”とうたわれるドラァグクイーン・アンジェリカさん。「私のことは“ファッショナブルなオカマ”とでも思ってくれたらそんな嬉しいことはないわ」という彼女(?)は、男社会と女社会、どちらの酸いも甘いも噛みわける中で、類まれなる感受性が磨かれてきたハズ。そこで、『週刊女性PRIME』でも、オネエならではの視点で、現代ニッポンにはびこる問題をぶった斬ってもらいます! 
 今回のテーマは「孤独死とその後」。アンジェリカ節をとくとご堪能あれ……。
アンジェリカさん

 人は生まれてくるときになぜ泣いているのかわかる? 「お母さんとの絆(へその緒)が断たれて悲しくて泣くんだよ」「この世に誕生した歓喜で泣くんだよ」……本当? 誕生は感動的だけど、どんなに頑張っても出産の喜びだけは一生感じることのできないアタシ。アンジェリカです。

なぜ孤独死が増えてるの?

 今回は死について、アタシ目線で書いてみようと思うの。中でも、社会問題にもなっている「孤独死」。日々ニュースでもとりあげられているから、みんなもこの単語が頭をよぎったことはあると思うのよ。孤独死は、ひとり暮らしのお年寄りからアタシたちゲイにとってまで、深刻な問題。

 国内の孤独死者数は右肩上がりで、現在では年間3万人にものぼるとされているけれど、その中には家庭を持ったことがある人も多いの。家庭を持ってりゃ、誰か自分を見てくれる人もいそうなものなのに……。

 じゃあ、なぜ孤独死が増えてるの?ってことになるんだけど、結婚して幸せな家庭を築いて子どももできて、そして育ち、巣立ち。ここまできたら、後はその家族が培ってきた絆や、幸せの濃度がモノを言うと思うの。

 親がどんどん年をとっていく様子を、子どもたちがどう捉えていくか。“ゆとり世代問題”じゃないけど、最近では親子の関係もドライになってきていると感じるのよ。スマホやゲームが普及して、顔を合わせての会話が少なくなったからかしらね。

 子どもは自分ひとりで食っていけるようになれば、時間が惜しくなって仕事や趣味を優先するようになったり、「忙しい」という言葉で自分を慰めて、家族の変化を見ないふりもできてしまったり……。そんな日々を過ごすうち、「最後に会ったのはいつだろう?」って状況になっていくと思うのよね。

 悲しい話だけど、跡取りになってもらうことやこの先の自分の世話を要求するなら、親世代は今こそ子どもたちに媚びなきゃいけない時がきているのかもしれない。

 しかし、子どもに媚びるってのもなんかアレね。

 育ててもらった有り難みを感じてお世話をしてくれるならいいけど、兄弟間でなすりつけ合われようってもんなら、自力で姥捨山にでも登りたくもなるわね。

 あとアタシ、孤独死の原因は親子関係の問題だけじゃないと思うのよ。今と昔とで大きく違うこと。それは、隣近所のコミュニケーションが大幅に減っているということ。

 ちなみにアタシは、お隣りにどんな人が住んでいるのかも知らないの。同じ建物に何人かが出入りしていることくらいは分かるわよ。でも、そのうち誰がどの部屋に住んでいるのかは不明なのよ。

 これはアタシだけじゃなくて、みんなの中にも似た状況の人は多いはず。隣の人のこと、あんまり知らないでしょ?

 そりゃあ人はいつか死ぬだろうけど、自分のお隣さんがまさか今、死んでるだなんて思いもよらないじゃない? 「最近見てないわね〜」とか「やけに静かね〜」とかいう関心の薄さが孤独死を生むのよ。

自分の死後に“秘密”がバレたら……

 だからと言って、近所や隣りの人と仲良くなるような時代でもないと思うから、難しいわね。3日に1回くらい、家族や友人が訪ねてきてくれる環境下にあればいいけどね。

 あ! ダメダメ!! アタシなんて身内や会社に明かしていないことがほとんどだから、頻繁に来られようもんなら毎日のように大掃除よ。

 例えば、自分の息子の部屋から隠されていたAV(アダルトビデオ)が出てくるくらいなら、母親も「男の子ね〜」くらいで済むんだろうけど、アタシたちお仲間が嗜んでいるのは、AVの中でも“筋肉マッチョ”から“美青年”まで言い訳しづらいラインナップだから。悲しみプラス1なのよ(笑)。

 これ、親が驚いただけで済んでくれればいいけれど、「言えないまま辛かったろうに」とか、死んでからも心配させるなんて、申し訳なさすぎてあの世にも辿り着けないわよ。

 実際、死んだ後に周りが知らなくていいことって多いじゃない? アタシはカミングアウトを受け入れてくれた寛容な兄妹のおかげで大手を振ってオカマでいられるけれど、世の中には、家族にだってバレたらダメな人のほうがまだ圧倒的に多いのよ。

 これはアタシたち目線の話だけど、みんなにも何かしらあると思うわよ。変わった趣味の人もいれば、長年不倫してた人だっている。

 もうこうなってくると、孤独死よりもその後に知られたくないことが明るみになるほうがよっぽど怖い。

 一応、教えておくわね。すでに知っている人も多いと思うけど、スマホもパソコンも、何回もパスワードを間違えちゃうと、データが全て消去される機能やソフトとかがあるのよ。便利だから使って。縁起でもないかもしれないけど。でもアタシ、事前の対策って、本当に大事だと思うの。

 これも立派な終活のひとつ。人間、最後までまったく人様に迷惑をかけずに死ぬことなんてできないのよね。

 そこもふまえて、生きている間の自分の準備ってとても大事。始まりが大きな感動に包まれた涙なら、終わりも大きな感謝と幸せいっぱいで旅立ちたいわね。


《PROFILE》
アンジェリカ ◎愛知県名古屋市在住のドラァグクイーン。テレビ番組『月曜から夜ふかし』や『行列のできる法律相談所』(ともに日本テレビ系)でその美貌と毒舌ぶりを披露して人気に。地上波のほかラジオ番組、各種イベントへの出演や雑誌でのコラム執筆などマイペースにお仕事中。
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