桂三度 撮影/森田晃博

『第4回繁昌亭若手噺家グランプリ』の優勝と『平成30年度NHK新人落語大賞』受賞を記念して、11月19日~23日に大阪・天満天神繁昌亭で公演を開催。そこで1日密着させてもらいました!

今年優勝しなければ、若手落語家にめっちゃ嫌われるところでした(笑)

 若手落語家の登竜門『NHK新人落語大賞』で、4度目の挑戦にして念願の大賞を受賞した桂三度(49)。

 週刊女性読者には、「3の倍数と3のつく数字のときだけアホになる」ネタでブレイクした“世界のナベアツ”の名前のほうがなじみがあるかもしれない。

 '08年、ピン芸人として一世を風靡(ふうび)したものの、3年後の'11年に落語家になるため、六代 桂文枝(元・桂三枝)に弟子入り。しかし、落語家になることを初めて意識したのはブレイク前に組んでいたコンビ『ジャリズム』の解散のときだったという。

「29歳のときに相方から解散をしたいと言われて。そこで思い浮かんだのが、放送作家になるか落語家になることだったんです。

 でもその年でイチから下積みから始めるのは大変そうだし、テレビの勉強にもなるな、と思って放送作家のほうを選び、しばらく裏方として活動していました」

 その後、コンビを再結成。世界のナベアツとして人気沸騰中に起きたあることが、転身のきっかけに。

「再結成したものの、こんなにうまくいかないの? っていうぐらい地獄の日々で……。それを打破するために、世界のナベアツとしても活動を始めたところ、運よくブレイクできたんです。

 でもこれでコンビとしても頑張っていけるぞ、って思っていたら、僕がピンで仕事している間に相方が海外旅行とか遊んでばかりいて。何しとんねん、って相方へ怒りが湧いてきたし、忙しすぎて当時は僕自身も宙にフワフワ浮いている感覚で

 これは地に足をつけることをしなきゃって考えたら、29歳のときに意識した落語家がまた思い浮かんだんです。落語って、ひとりでしゃべり続けるストロングスタイルだし、すべて自分の責任。当時の僕には、そんな環境が必要だったのかな、と落語の道に飛び込んでみて思いました」

41歳で入門

 人気芸人の座を捨て、41歳で入門。

「芸人から放送作家になったときに、転校生気分はすでに経験していたので、弟子の日々はまったく苦ではなかったです。雑用も覚悟のうえでしたし、ぎっくり腰の僕を気遣って、若い兄弟子たちが重い荷物は持ってくれましたし(笑)。

 ただ師匠の教えで、最初は放送作家と両立していたんです。直接口には出してはいませんが、テレビで少しでも上方落語を話題にしてほしいという思いもあったんでしょうね。

 でも大阪では雑用をしているのに、東京では放送作家でえらそうなことを話す……という落差に、僕自身が耐え切れなくなって。このままだとメンタルがダメになると思い、落語に専念することにしました

『アメトーーク!』など人気番組を担当していただけに、落語一本にしぼったことで収入は10分の1にまで減少。

「落語家の弟子は本当に稼げない(笑)。それでも僕はテレビの仕事が多少あったので、まだいいほうなんです。

 そうそう、ナベアツでブレイクしたころに、“年収1億円”と書かれたんですが、吉本でそんなに稼げるわけがない(苦笑)。みなさんが思っているより稼ぎは少なかったので、貯蓄も人並みにしかなかったんです。

 妻には“貯蓄がなくなる前に稼げるようになる”と宣言して、半ば強引に落語家になったのですが、稼げるようになる前に貯蓄はすべてなくなりました。特に贅沢(ぜいたく)はしていないんですけどね。だから今は節約するようになりましたよ」

 収入減の理由はほかにも。弟子になったことで、所属する吉本が、営業のギャラまで若手価格に引き下げたのだ。

「落語家としてはペーペーですが、まさか芸人のギャラまで下げると思わないじゃないですか。しかもナベアツのころの3分の1まで下げられて(苦笑)。

 それで折衷(せっちゅう)案として、2分の1のギャラでどうですか? とマネージャーに提案したところ社内の営業会議の議題にまで上って、しかも結果的にNGになるという。本当、吉本は厳しい会社です(笑)」

 そんな苦労を経て今年10月、どうしても欲しかったという『NHK新人落語大賞』のタイトルを手に。

落語への思い

仕事がなくなったから落語の道に進んだと思われたくなかった本気でやっていることを知ってもらうためにも、落語家としての免許証のようなものが欲しかったんですよね

 現在は舞台のほかにも、レギュラーでラジオ番組にも出演。落語と並行して、メディアでの活動も大事にしている理由とは?

僕が落語をしていることで、少しでも落語に興味を持っていただければ。ひとりでもファンを増やすことが、僕ができる落語界への恩返しだと思うんです

 師匠の六代 桂文枝には、“落語界に風穴をあけてほしい”と言われているそうだが、まだまだ……と謙遜する。

「まずは基本を学び、自分の型を作ってから暴れないと。ただ暴れていたら、ケンカの弱いジャイアンですからね(笑)。だから、あと12年はかかる予定です」

 現在、NHKで岡田将生主演のドラマ『昭和元禄落語心中』が放送中など、落語にも注目が集まっている。三度も「1度見てほしい」と語る。

「落語に触れ合う機会のない方も多いと思いますが、まずは1回、できたら5本ぐらいネタを見ていただければきっと面白いと思ってもらえるはず。

 収入面などしんどいこともありますが、好きなことをしている人はこんな顔するんだ、ってのをぜひ生で見ていただければ。読者のみなさんも大変なことも多いと思いますが、好きなことを見つけることから始めると、より人生が楽しくなると思いますよ

密着してみました!

凛々しい表情で、髪型をセットする姿から記念公演の意気込みが伝わってくる 撮影/森田晃博
「勉強させていただきます」と先輩方へ挨拶。礼節は落語家の基本! 撮影/森田晃博
楽屋前にある暖簾をくぐる。師匠クラスも出演するとあり舞台裏でも気が抜けないのか、真剣な面持ち 撮影/森田晃博
芸人として数多くの舞台・テレビの経験がある三度でも、本番前は緊張している様子だった 撮影/森田晃博
いざ舞台に出ると、さまざまな表情を見せるのは、さすが!「気軽に“サンディー”って呼んでください……ないということで(笑)」と、客いじりもバッチリ 撮影/森田晃博
公演終了後は、この日出演していた兄弟子・桂三語らとともにお客さまをお見送り。本番を終えた安心感からか、笑顔でパチリ 撮影/森田晃博
天満天神繁昌亭 撮影/森田晃博
■天満天神繁昌亭
大阪府大阪市北区天神橋2-1-34
​桂三度も定期的に出演する、伝統と継承、上方落語の定席。メインの定席寄席公演である昼席は前売りで一般2500円、当日3000円。貸し切り公演の朝席、企画公演の夜席もあり。

PROFILE●かつら・さんど '69年8月27日生まれ。'91年、ジャリズムとして活動開始。'98年に解散し、放送作家に転身。'04年にコンビを再結成。同時にピン芸人としての活動も。'08年、世界のナベアツとして大ブレイクを果たす。'11年2月にコンビ解散。同年3月に六代 桂文枝に弟子入りし、落語の道に。