メディアの「叩き対象」は、フジから「イッテQ騒動」を起こした日テレに(写真はイメージです)

「イッテQ」のラオスにおける“ヤラセ疑惑”が報じられ、10月の月間三冠王をテレビ朝日に阻止されて、有働由美子アナを起用した「news zero」は苦戦気味、と現在日本テレビをめぐって多くのメディアが“ここぞ”とばかりに記事として取り上げている。

 私にも「コメントをいただけないか」という依頼が数社からあった。

 依頼に応じたものもあったが、あまりに無内容かつ不勉強な特集(「とりあえず日テレを叩ければなんでもいい」的な)なのでコメントを断ったものも複数あった。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 少し前までは、この手のテレビ関連記事といえば「フジテレビ」にまつわるものが定番だった。

「フジテレビはなぜ凋落したのか」系の記事である。

「その中にはそこまで取り上げる必要があるのか?」と思うほどの執拗かつ悪意的なものも多数あった。

フジテレビは憧れから“ツッコミ”の対象へ

 それが、ここへきての週刊誌・夕刊紙などによる「日テレ叩き記事大攻勢」である。

 かつて「楽しくなければテレビじゃない」を合い言葉に、1980年代以降のテレビを引っ張ったフジテレビは、自らきらびやかな業界イメージを振りまくことで、さらにブランド力を高めていった。

 レインボーブリッジの向こう側にはおしゃれで“トレンディな”何かがある、それがフジテレビなのだ、というすてきな業界幻想……。外部からは「ああいう世界、いいな」と思わせるブランディングに見事に成功していた。

 そして、時代が移り視聴率が低迷し始めると、フジテレビは自らが作り上げたブランドイメージが祟ってきた。きらびやかなイメージは、うまくいっているときは憧れの対象となるが、いったん下り坂になると一気に“ツッコミ”の対象となる。

 優雅な暮らしをこれ見よがしに誇っていたセレブが困窮生活に陥るのを喜ぶ心理、なのだろう。おそらく潜在的な嫉妬の裏返しである。

 現在、軒並み部数が伸び悩んでいる週刊誌は「テレビ特集」を組むと部数が伸びるという実態がある。

 実際「あの頃の人気番組」などは中高年層の読者に支持されて、つねにどこかの誌面に掲載されるような定番企画になっている。

 そしてフジテレビを叩く記事は、掲載すればさらに部数が伸びた。読者が中高年層にシフトしている週刊誌だけではない。

 ネット記事ではアクセス数も伸びる。

ネット民ですらフジテレビの関連記事をクリック

「テレビなんかもう見ない」と言っているネット民にとっても、最大の共通話題は「テレビ」なのである。

 そしてみんな「フジテレビの話題が好き」なのだ。ネット記事のアクセス数で見る限り、その関心度合いは日本の経済や産業・企業全体を見渡して痛恨であり、重大な不祥事を起こした「東芝」の比ではなかった。

「フジテレビが○○」という見出しを見つければコンビニの雑誌コーナーでつい手にとってしまう。

 ネットで見つければついクリックしてしまう。

 そのような“市場原理”によってフジテレビ関連の記事は増えていったのだ。

 私はこれらの「部数稼ぎ」「クリック稼ぎ」を単純に否定するつもりはない。

 記事の中には良質なものも存在したし、人の目に触れることで貴重な問題提起になったこともあっただろう。その逆に、ただ単に「フジテレビをこき下ろせば売り上げにつながる」という下世話な記事もそれ以上にあったのだが。

 もちろん、話題になってしまうだけの「隙」がフジテレビにあったことも確かだった。

 そして「フジテレビの話題はいい加減ネタが尽きかけたか?」という空気になった2018年の秋、新たに「記事の対象」になったのが日テレだったというワケだ。

 もともと日本テレビは「実直に視聴者が見たいモノを作る」という芸風が持ち味であり、「24時間テレビ」では毎年恒例の批判祭りが起きるものの、外部から見ればさほど“ツッコミ甲斐”のある局ではなかった。

 その「24時間テレビ批判祭り」にしても、いくら批判祭りで盛り上がっているように見えても実際は変わらない高視聴率に“疲れた”のか、今年は例年より静かだったように感じたのだ。

「安定・盤石・三冠王」という王者・日テレは、記事になりにくい。

 日テレ強さの秘密、などといった記事はビジネス誌ではウケるかもしれないが「隙があればネタにしたい、叩きたい」という週刊誌、およびそのような記事を読みたい読者には食い足りないのだ。

 そこに降って湧いた「イッテQ騒動」である。これもいわゆる“文春砲”ではあるが、後追い報道も盛り上がった。

 なぜかといえば、それは「超人気番組だったから」というのが大きいだろう。

「イッテQ」のヤラセ問題の中身については、私は「AbemaTV」など別のメディアで語っているのでここではあえて触れない。

 しかし仮に「イッテQ」が視聴率7~8%の番組であれば、問題視はされただろうがここまで大きく取り扱われることはなかったはずだ。

視聴率20%番組の影響力

 同じような海外ロケ番組は、各局抱えているのだが「イッテQ」ほどの視聴率と、全世代的な支持を集めている番組はない。

 見出しに「イッテQ」とあるだけで、どんな番組かみんなが知っているのだ。

 そして日テレ以外の局でもこの話題を取り上げるのだ。「イッテQが!」と画面上のサイドスーパーに載せれば、そこのコーナーの視聴率は上がる。視聴率20%番組の効能は大きいのだ。

 フジテレビネタが枯渇したときに、超人気番組のヤラセ問題という“おいしい題材”が出てきたのだから、メディアは一斉に飛びついた。

 さらにタイミングよく(日テレにはタイミング悪く)10月の月間視聴率で「全日」をテレ朝が獲得して、三冠王の連続記録がストップするというニュースも重なった。

「あ、この合わせワザで“日テレに忍び寄る危機”という記事が作れる」

 編集者なら誰でもそう思うだろう。そして実際、そうなった。

 私の元に「コメントをいただけないか」「AbemaTVに出演いただけないか」というオファーがきたのは「イッテQ問題」が浮上してから約1週間に集中していた。

 さらに10月から有働由美子アナが登場した「zero」も、注目を集めたものの微妙な視聴率と、これまた格好の題材になってしまった。

 長らく三冠王を続けている日テレは、つまり「いちばん多く見られているテレビ局」である。日テレの話題となると、一段と注目を集めてしまう。

 日テレは「隙」を作らないことを大きな武器として磨いてきた。それは視聴者の満足度を求める緻密な番組作りしかり、コンプライアンスの徹底しかり、である。そんな日テレに生じた「いくつかの“隙”」にメディアは一斉に食いついた。

 ちょうど「きらびやかなイメージのフジテレビ」が凋落することでメディアが食いついたように、強みこそが一度ほころびを見せると食いつかれる“弱点”に転じてしまうのである。

「ヤラセ」問題を引き起こした日テレの今後は

 日テレ内は、改めていろいろと引き締めがなされているだろう。

 以前「芸能BANG」という番組で“女性タレントを洗脳? 霊能者女性登場”と引っ張りながら別な人物を出演させ問題になった際には、社内で繰り返し「研修」が行われて「そのようなことをやってはいけない」と厳しく叩きこまれたものだった。

 今回もおそらく同様の「研修」が行われているだろう。以後しばらくは改善が徹底されると思う。

 バラエティ番組だから、多少の許容範囲はあるかもしれないが、それにしても今回のような「ヤラセ」はあってはいけない。日テレにとっては非常に不本意だっただろう。

 そして「記事」になることで週刊誌やネット記事に“格好の儲けネタ”を提供してしまったことも悔しいと思っているはずである。

「zero」のネタなどはご愛敬な“有名税”なのだが、この先「ヤラセ」などの問題で記事ネタを提供しないようにぜひ頑張っていただきたい。

 日テレはそれを徹底できる局であるはずなのだ。制作現場のストレスはまた増える一方だと思うが。

 そして最後に、私のこの記事の見出しを見て、どれだけの人がやってきたのかも非常に興味深い。


村上 和彦(むらかみ かずひこ)TV演出家、プロデューサー。1965年生まれ、神奈川県出身。日本テレビ放送網に入社し、スポーツ局に所属。ジャイアンツ担当、野球中継、箱根駅伝などを担当する。その後制作局に移り、ジャーナリスティックな番組から深夜帯のバラエティ番組まで幅広いジャンルで実績を上げる。2014年7月、日本テレビを退社し、TV演出、執筆など活動の場を広げている。