5連覇が期待される青学大の選手たち

 '19年1月2日・3日。平成最後の箱根駅伝(第95回大会)が行われる。学生たちが襷をつなぐ熱いレースの展望や見どころは?

盤石すぎる青学大を阻むのは?

 テレビ解説でおなじみの碓井哲雄さんは、優勝候補の筆頭に、あの強豪校の名前を挙げる。

「4連覇中の王者・青山学院大が抜きん出ています。前哨戦でもある出雲駅伝、全日本駅伝を制した実力もさることながら、選手層の厚さが断トツ。原晋監督は“ウチは2チーム出してもシードを取れる”と豪語するほど。5区の竹石尚人選手(3年)、6区の小野田勇次選手(4年)と、山の経験者が残っているのも強みです」

 箱根駅伝を2度走った俳優・和田正人さんも、青学大を盤石と見ている。

チームのレベルが極めて高く、チーム内争いも当然激しい。無名選手が出ても、きっちり区間賞を取っていきますから。前回大会だと、7区の林奎介選手(4年)は初駅伝で区間新。しかも、設楽悠太選手('11〜'14年・東洋大)の記録を破っての更新です。そんな選手がゴロゴロいます。

 “このチームでこの区に選ばれた俺は強い”“絶対に区間賞が取れる”という自信を選手たち自身が生み出しているうえ、練習量もとてつもない。やっぱり強いです。注目は前回、2区で区間賞のエース・森田歩希選手(4年)。今回も2区でしょう。原監督も“森田は駅伝を絶対にハズさない”と絶大なる信頼を寄せています。下手したら2区から独走じゃないですか?

 史上初となる2度目の“学生駅伝3冠”に向け、隙なしといった様子。阻止できそうな大学はあるのか? ふたりは「東洋大と東海大」と口をそろえる。

もし、この2校に勝機があるなら先行逃げ切り。1、2区で青学大の前に出て、往路で2分以上引き離さないと。前回、東洋大は36秒差で往路優勝しましたが、6区で青学大に逆転されましたから」(碓井さん)

「東洋大には山本修二選手(4年)、相澤晃選手(3年)というWエースがいますが、鍵は西山和弥選手(2年)。前回1区で区間賞でしたが、今季は調子が悪い。彼がどこまで復調できるかでしょう」(和田さん)

 スピードのある東海大は、夏に故障者が続出したが、

左から、東海大の關颯人選手、館澤亨次選手、鬼塚翔太選手

「にもかかわらず出雲3位、全日本2位。黄金世代の關颯人選手(3年)、鬼塚翔太選手(3年)らの調整がうまくいけばおもしろくなりそうです」(和田さん)

「東海大は走りにムラのある選手が多いんですが、アジア大会(1500m)にも出場した館澤亨次選手(3年)だけは、いつでも確実に走る。強い選手です」(碓井さん)

 さらに上位争いに絡んできそうな大学は?

予選会トップ通過の駒澤大。底力がありますよ。予選会で個人5位の片西景選手(4年)の走りがポイントになってくるでしょう。さらに法政大。身長190センチメートルの坂東悠汰選手(4年)を擁し、きちんとつなげれば上位にきてもおかしくないですね」(碓井さん)

 ダークホースとして、和田さんは帝京大に注目。

いつも復路でふと気づくと、地味に5位くらいに上がってきている。“いつの間に!?”みたいな(笑)。僕のNEC時代のコーチの、中野孝行さんが監督です。選手育成がうまく“中野マジック”と呼ばれるほど。入学時にスターはいなくても、4年目にはしっかり強くなっている。出雲も全日本も5位。雑草軍団の機動力、楽しみです」

シード権を逃す強豪校も?

 10位までに入れば次回大会も出場できるが、11位以下は過酷な予選会へまわることに。熾烈なシード権争いも箱根名物のひとつだ。

主力選手の多くが故障離脱している早稲田大や中央学院大、日本体育大はギリギリでしょう。回復が間に合わなければ、シード権を逃すのでは」(碓井さん)

 特に日体大は、前監督の暴力問題、その後の監督交代劇もあった。

早稲田大には、スーパールーキーの中谷雄飛選手(1年)が入りました。大型新人が上級生の闘志に火をつけ、チーム全体が強くなることもありますからね。城西大は、出雲と全日本で過去最高順位(8位)。シード権は堅いでしょう。

 僕が注目しているのは、明治大の阿部弘輝選手(3年)。まだ3年なのに1万mを27分台で走りました。これは本当にすごいこと! 学生長距離界のエース、間違いなしです。今大会でどんな走りをするか、非常に楽しみです」(和田さん)

 加えて、母校・中央大について碓井さんは、

「中山顕選手(4年)と堀尾謙介選手(4年)の2枚看板を前半で使って勢いに乗れば、10番以内に入る可能性も」

戦力的に劣るのは……

 一方、苦しい戦いになりそうなチームも。

戦力的に劣るのは上武大と国士舘大。そのほかの大学は横並びじゃないですか? 順天堂大は、リオ五輪に出場した学生トップランナー・塩尻和也選手(4年)が2区を走るでしょうが、チームの総合力は高くない。シード権も危ぶまれます」(碓井さん)

 和田さんは伝統校の元気のなさを気にかける。

神奈川大、厳しそうです。絶対的エースが抜け、戦力ダウンは否めません。大東文化大も元気がないし、山梨学院大も予選会10位。厳しい戦いになりそうです。

 母校・日大ですか?'18 年は大学の不祥事があったので、シード権を取って名誉挽回してほしいですけど……。88回目の出場、880人がつないできた襷の重みを感じ、誇りを持って走ってもらいたいですね」

 とはいえ、勝負はフタを開けてみなければわからない。

「あくまで20歳前後の若造たちなので、完璧ではありません。気象条件もあります。何が起きるかわからないのが箱根路ですから、ね」(和田さん)


《PROFILE》
和田正人さん ◎日大で2度箱根駅伝に出場。4年次は主将。NEC陸上部を経て俳優に。ドラマ『陸王』、舞台『光より前に〜夜明けの走者たち〜』など、その走りを生かした出演も多数

碓井哲雄さん ◎箱根駅伝に3度出場し、中央大の6連覇に貢献。現在は、神奈川工科大陸上競技部監督。近著に『箱根駅伝 強豪校の勝ち方』(文春新書)。箱根駅伝のテレビ解説を務めて25年