加藤貴子

 少子高齢化社会と呼ばれて久しい日本。第1子を出産する初産の平均年齢も年々上がり、'15年では30.7歳に。『高齢出産』と呼ばれるラインは35歳からだが、厚生労働省が'14年に発表した人口動態統計によると、35歳以上で出産した女性は4人に1人(26%)、そのうち初産は7人に1人(14.3%)で、高齢出産は決してレアなケースではなくなってきている。

 40歳を越えて、不妊治療の末に2人の子どもを授かった加藤貴子(48)もそのひとり。高齢出産ゆえの苦労や悩んだことを、週刊女性の不妊治療記事でおなじみの、『西川婦人科内科クリニック』の西川吉伸院長(62)との対談で振り返ってもらった。

西川「第1子を44歳、第2子を46歳で出産なさっているけど、40代になったのは仕事が忙しかったからですか?」

加藤「仕事というか、子どもが欲しいという気持ちはずっとあったんです。私、32歳で今のパートナー、主人と交際して、子どもを授かったら入籍しようというスタンスで生活していたんです」

西川「そのころ、クリニックで診てもらってました?」

加藤「いえ、特には。ただ、自分で基礎体温をつけたり、尿キットで排卵日を調べることはしていました。あと、半年に1回、がん検診を受けていたんですけど、そのときにホルモンの値をチェックしてもらっていました。

 そこのドクターには“子どもが欲しかったら、早めにつくったほうがいいよ”とは言われていたんですけど……」

西川「欲しかったけど、そこまで焦ってはいなかったということ?」

加藤仕事をやりながらだったので、決まった舞台などに迷惑をかけないように、仕事の合間で調整しながら集中的に子づくりを頑張る、みたいな。あのときは、ホルモン値が正常で、毎月、生理がきちっとあって体力があれば、自然と妊娠できるものだと思っていましたね

西川「10年以上前ですよね。当時、みなさんそう思っていましたね。今みたいに卵巣年齢とかについての啓蒙(けいもう)がまったくされていなかったから」

加藤そうなんです! 私、卵子が老化するって、知らなくて。42歳のとき、テレビで“卵子の老化”というワードを初めて知ったんです

西川「それがきっかけで不妊治療に?」

加藤「いえ、その番組を見たタイミングがちょうどエンディングで、ちゃんとした情報としてはわからないままでした。そんなとき、知り合いに“8年間も子どもを授からないなら、病院に行ってみたら”とすすめられたんです」

西川「一般的に、子どもが欲しいと思って夫婦生活を排卵日のあたりで行うと、90%の人が6か月くらいで妊娠するといわれています。そこで1年間、妊娠しなかったら、その現象を不妊症というんです。不妊症は現象であって、病気ではありません。

 だから、若くても年をとっていても、ある程度、妊娠しなかったら何か原因があるので、そこを探っていくというのが不妊治療なんです

加藤「そうなんですね。主人も、いずれ授かるんじゃないか、とのん気に構えていましたし。あと、私の姉も40歳で出産しているんです。しかも自然妊娠で。だから、私もタイミングが合えば授かるものだと思っていたんですよね」

西川「でも、42歳から頑張って、本格的な不妊治療に入られたということは、年齢的に見てすごいことだと思います」

加藤「ありがとうございます(笑)」

写真左から西川吉伸院長、加藤貴子

不妊の48%は男性側の問題

 そして、クリニックの門を叩いた加藤だったが、予想もしていなかったことをドクターから告げられた。夫の男性不妊─。

加藤「あのとき、主人は私の付き添いで行く、くらいのスタンスでクリニックへ行ったと思います。そこで、卵子の老化ということを教えていただき、旦那さんも調べたほうがいいと言われて、検査を受けました。そうしたら……」

西川「男性不妊だったと」

加藤主人は性欲があって射精ができていれば男性不妊なんてないと思っていたんです。でも、精子の運動率とか正常形態が、と説明されてポカーンとなってしまって

西川「ひと昔前は、妊娠を阻害するものは女性側に大半あると思われていましたが、実際は不妊症の原因の48%は男性側にあります。男性は自分は大丈夫、と思っている人がほとんどですけど」

加藤「当時は私も妊娠できないのは、タイミングが合わなかったのかな、ぐらいにしか思っていなくて、まさか主人に問題が、なんて考えてもいませんでした」

西川現在、男性不妊について医学はすごく進歩しています。ちゃんと検査すれば、ほぼ99%克服できるんです。

 精子が1匹でもあれば、医者がフォローできるんです

加藤「99%問題をクリアできることが、もっとみんなに周知されればいいですよね」

西川「旦那さんはドクターの話を聞いて、ショックはなかったんですか?」

加藤「ショックというよりは、ビックリしたみたいです。でも自分にも原因があるということと、私自身の卵子にタイムリミットがあるという情報が2つ同時に入ってきたことで、協力的になってくれたのかなと思います

西川「それをよく理解してくださったから前に進めたんでしょうね。旦那さんの協力がなかったら、絶対に妊活はできませんから」

生活習慣改善でアンチエイジング

 42歳で本格的に不妊治療を開始した加藤。データでは、40~43歳の体外受精での、妊娠から出産に至る確率は10~20%。43歳を越えると10%で、45歳を越えると1%だという。

加藤不妊治療を始めたとき、ドクターから“自然妊娠の確率はほぼ0に等しいです。でも、生活習慣改善をしつつ夫婦生活は持ってください。夫婦仲のいいところに赤ちゃんが来るのだと思います”と言われました

西川「僕もそのとおりだと思います。自然妊娠の確率が1~2%のカップルでも、まれに妊娠することがあります。僕らにどれだけ知識があっても、神の行うことにはわからないことがいっぱいあるんです。だから、驕(おご)ってはいけないな、と常日ごろ思っているんですけど。ちなみに、生活習慣改善は何をしました?」

加藤朝、同じ時間に起きて朝日を浴びること、毎日の45分間歩行と、血糖値が急に上がらない食事のとり方などです。野菜から食べて、血糖値を緩やかに上げて緩やかに下げる食生活と、お酒を飲んだら3日間のインターバルをあけるようにしました。

 主人にはこれがすごく効果があって、男性不妊とわかってから6か月は精子の数が落ちる一方だったんですけど、半年間、お酒の飲み方を変えたら、だんだん数と運動率が上がってきたんです

西川「体調のつくり方とか、すごくいいことばかりですね。朝、ちゃんと体内時計をリセットすることで身体のリズムができますし」

加藤「簡単そうで、なかなかできないんですけど(笑)」

西川「毎日ふたりで歩くことも難しいですよね」

加藤「私、運動が大嫌いなので最初は苦痛でしかなかったです。でも、ふたりで同じ方向を見て歩くということはよかったです。面と向かって話すより、歩きながらだと私のグチも風に流されていくようで(笑)」

西川気持ち的な部分もそうですが、ある程度の年齢からそういう生活習慣改善の取り組みをしていたら、アンチエイジングにもなるし、多少は卵子の老化も防げるかもしれませんね

自分を裁くことはやめよう

 そんな取り組みの中、第1子出産まで3度の流産を経験した加藤。第2子挑戦までのことをこう話す。

加藤「流産したときは“悲しんでいるヒマはない”という思いだけで、がむしゃらに不妊治療に没頭していました」

西川流産してしまったつらさに浸っていると、次に向かう時間がなくなってしまうと

加藤そうです。流産してしまったのも卵子の老化が原因かもしれないし、“何も知らなかった私が悪い”って自分を裁くことしかしていませんでした。

 でも、あるときに堰(せき)を切ったように涙がバーッと出てきて。すごく頑張っている身体にお礼も言わずに、責めることばかりだったなと気づいたんです。結果として私は愚かだったかもしれないけど、自分なりに一生懸命やってきたでしょ、って思えたんです

西川「そうしたら楽になれました?」

加藤(1度は)授かった赤ちゃんの旅立ちを、私がきちんと悲しんであげないでどうするの? って。悲しいことを受け止めて、ほかの人がなんと言おうとも、これまでの自分の人生を自分自身で裁くことはやめようと。そうしたら、すごく楽になれました

西川「自分を裁かない、というのは今、妊活で悩んでいる方にすごくいいアドバイスになりますね。自分を追い込んでしまう方は多いですから。

 加藤さんのように、自分自身をもう1回、見つめ直すという気持ちも大切だと思います」

加藤「第2子にトライしたとき、また流産してしまう怖さはなかったのかと言われたのですが、私、流産によって人の愛情とか痛みとかを学ばせていただくきっかけをもらったと思っているんです。

 高齢出産したので、長男とは一緒にいてあげる時間が若くして出産した方と比べて短いと思います。できればもうひとり、力を合わせられるきょうだいがいれば、という気持ちもあり、46歳で挑戦したのですが、流産を経験したからこそ、チャレンジできたのかもしれません」

西川「2回の妊活を振り返って、改めて思うことはありますか?」

加藤不妊治療していく中で自分の思いどおりにならず、つらくて怒りや嫉妬といった感情が自分の中から湧き上がってくるときがあると思います。その感情を無視しないで向き合うことが大切だなと。私、それができずにずいぶん苛(さいな)まれましたから……。

 すべてを受け止め、そんな自分を愛することが必要だと思います

『西川婦人科内科クリニック』西川吉伸院長、加藤貴子

かとう・たかこ◎女優。『温泉へ行こう』シリーズ、『花より男子』『科捜研の女』などテレビドラマや映画、舞台で活躍。著書『大人の授かりBOOK~焦りをひと呼吸に変える がんばりすぎないコツ~』(ワニブックス刊)が発売中。

にしかわ・よしのぶ◎西川婦人科内科クリニック院長。医学博士。医療法人西恵会理事、日本産科婦人科学会専門医、日本産婦人科内視鏡学会評議員、大阪産婦人科医会評議員ほか。