あなたのお口、年々渇いていませんか!?(写真はイメージ)

「唾液が少なくなると、脳卒中、がん、認知症、心筋梗塞(こうそく)のリスクを高めるってご存じですか?」

 と、教えてくれたのは、神奈川歯科大学口腔科学講座の槻木(つきのき)恵一教授。ヨダレとかツバとか呼ばれて、やさぐれた感じの唾液が、そんな重要なポジションにいたとは!?

「唾液は健康を守る大きな役割を果たしています。細菌やウイルスをブロックして、全身の病気の原因や悪化につながるのを防ぐのです。また、活性酸素を除去する抗酸化物質も唾液の中には含まれ、病気予防にもつながっています」

 さらに、こんなことも。

「近年では複数の病気のリスクが唾液からわかり、人間ドックなどで唾液検査が行われています。将来はもっと普及して、一般的な健康診断でも行われるようになるかもしれません」

 唾液の存在を過小評価していた自分を反省。

「唾液は1日に1~1.5リットルも出ています。しかし年を重ねるとその量が減って口が渇いてきます。それに伴い病気のリスクも上がるので、50代からは唾液ケアの始めどきです」(槻木教授 以下同)

 確かに更年期を迎えると、唾液が少なくなる感じがする。

「唾液が少ないと病気だけでなく、肥満や老け顔になったり、肌の老化リスクも高くなりますよ」

 それはイヤー! アンチエイジングに敏感な週刊女性世代は、唾液をもっともっと出していかねば!

「まずは、唾液の健康物質についてお話ししましょう。唾液は血液からつくられ、唾液腺から新たな物質が分泌され、再び血液中に戻ってきます。唾液中の物質は、現在わかっているだけでも、100種類以上あり、健康物質の宝庫といわれています」

 唾液は新時代の万能薬ともいわれているとか。

「唾液の成分の中には、細菌やウイルスにくっついてブロックしてくれるさまざまな抗菌物質が存在します。その中の代表的なものは、IgAと呼ばれる免疫物質です」

 IgAが少ないと、風邪をひきやすかったり、感染症にかかりやすくなるという。また、風邪だけではなく、

「本来なら口の中のIgAによって、撃退されているはずの歯周病に関係する悪玉菌が、大腸がんの表面で活動しているのが見つかりました」

 がんとの関係もあるというのは見逃せない。

 さらに、ラクトフェリンに代表される抗酸化物質、脳の老化を抑える物質、細胞の老化を遅らせる物質など、唾液の中には、身体を守る成分がモリモリ入っているのだ。

唾液力を鍛えて、量だけでなく質もアップ

「唾液の力を発揮するには、量だけでなく質を上げることも重要で、量と質を合わせて“唾液力”と呼んでいます

 まずは、チェック項目から量と質の点数を出して、自分の唾液力を確認。

【唾液力チェック!】
「はい」の場合、点数を加算しよう。合計3点以上は、唾液の質が落ちている可能性あり。

<量の確認>
1.飲料水が手放せなく、いつも持っている…1点
2.食物がパサパサして食べにくい…2点
3.口で息をしている…1点
4.いつも口がネバネバしている…1点
5.義歯が入れづらく、傷ができやすい…0.5点
6.口が渇く気がする…3点

 合計3点以上は、唾液が少ない可能性あり

<質を確認>
7.朝食を食べないことがある…1点
8.ヨーグルトはほとんど食べない…3点
9.野菜やイモなどはほとんど食べない…3点
10.脂っこいものが好き…2点
11.買い物や銀行でお金をおろすのが面倒…1点
12.家にいることが多い…1点
13.よく便秘になる…2点

「加齢とともに表れる口の渇きは、少しずつやってくるので自覚していない人がいます。チェック項目1の“飲料水が手放せない”にチェックをした人は、口が渇いている証拠です。チェック項目3の口で息をしている人は、鼻が悪い、歯並びによって口が閉じないなどが原因として考えられます。チェック項目6の口の渇きに自覚症状がある人は、かなり唾液力が落ちていると考えていいでしょう」

 花粉症や高血圧などの薬を飲んでいる人は、薬によって口が渇くことがあるというので、特に気をつけたい。

 では、唾液力を上げるにはどうしたらいい?

「唾液にはサラサラ唾液ネバネバ唾液があり、分泌される唾液腺や成分が異なります。ネバネバ唾液には免疫物質など有効な成分が含まれており、質に大きく関わっています。しかし、ネバネバ唾液を出すことだけが重要ではなく、両方がバランスよく出ることを目標にしましょう

 サラサラ唾液はリラックスしたときや食事のときに出て、ネバネバ唾液はストレスを感じたり、活動的に行動しているときに出る。緊張したとき、口が渇いてネバネバになるのは、ストレスに対抗して免疫力を上げるために、ネバネバ唾液が出るためだ。

 しかし、ネバネバ唾液を出すためにストレスをかけるのは本末転倒。

「90分のストレッチとヨガの直後に唾液中のIgAの濃度を上がることが研究で確認されています」

 活動的に動いたり、軽いスポーツがオススメ。

「'16年から、口腔機能低下症という病気が新たに発表され、その症状のひとつに唾液力の低下があげられています。口腔機能低下症になる前に対策をとるといいですね」

食べ物とマッサージで唾液力が上がる

 では、実践的に唾液力を上げるには、どうしたらいいでしょうか?

まずは、よく噛むことです。噛むことにより唾液腺が刺激されて唾液がどんどん出てきます。やわらかいものをよく噛むといわれても、なかなか実践できないので、かたいものを食べる、大きめにカットした野菜を食べるなど、食卓での工夫が必要です。

次に水分をこまめにとることをオススメします。唾液が作られる量と同じ、1日1~1.5リットルは飲みましょう。水やお茶がオススメですが、お茶にはカフェインが含まれていて、利尿作用があるので、ぬるま湯で薄くいれるといいでしょう」

 次はマッサージ。唾液は耳の下の耳下腺、あごの中の顎下腺(がっかせん)、舌の下の舌下腺から出る。そこをマッサージすると唾液が出てくるという。

「耳下腺がいちばんわかりやすいのでオススメ。おたふく風邪のとき、膨らむ場所です」

 耳下腺マッサージは顔のリフトアップにもいいかも。

 耳下腺マッサージのやり方は、耳の下より少し前の位置に3本の指を当て、円を描くように動かす。顔のリフトアップを狙うなら、下から引き上げるようにマッサージ。2分以内で10回以上、1日、何回行ってもOK。

耳下腺マッサージは、耳の下より少し前の位置に3本の指を当て、円を描くように動かす

 食べ物は、ヨーグルトなどの発酵食品と繊維質の多い食品がオススメ。

「腸内と口の中は相互作用があるといわれています。腸の周辺には免疫細胞が集まり、IgAも多く出ています。腸の環境を整えると、唾液のIgAも上がることが研究でわかっています。発酵食品や繊維質の多い食品で腸内環境をよくして、唾液の質も上げてくれます」

 最後は先ほども出てきた運動。具体的には何を?

「適度なウォーキングやヨガなどの運動は、唾液の質の向上に大きく役立ちます」

 健康で美しく長生きしたいなら唾液力を上げることがポイント。今日から対策を実行して、ダラダラ~と唾液を出しまくっていこう!

【唾液力を上げる5か条】
1.よく噛む
2.水分をこまめにとる
3.マッサージで唾液腺を刺激
4.ヨーグルトや納豆などの発酵食品、繊維質が多い食品をとる
5.ウォーキングやヨガなど軽い運動をする
『唾液サラネバ健康法』(著:槻木恵一 1100円+税/主婦と生活社)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

〈プロフィール〉
槻木恵一教授◎歯科医師。神奈川歯科大学口腔科学講座教授。腸内環境と唾液中のIgAの関係をあきらかにし、「腸―唾液腺相関」を発見。現在も唾液中のIgAの研究を続けている。

(取材・文/山崎ますみ)