「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「良いヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
山崎ケイ

第13回 山崎ケイ

 放映される前から、批判されるドラマというのはあまり聞いたことがありません。

 読売テレビ・日本テレビが来年1月10日から、ドラマ『ちょうどいいブスのススメ』を放映すると発表しました。お笑い芸人・相席スタートの山崎ケイ(以下、ケイ嬢)のエッセイをベースとしたドラマだそうです。

 ツイッター上では「ちょうどいいブスなんて言葉を、おしつけてくるな!」「男社会の奴隷!」といった意見が見られ、その余波で原作者であるケイ嬢にも非難の声があがり、ヤバ女扱いされています。マイナスイメージのまま番組がスタートすることを懸念したのでしょうか、同局はドラマのタイトルを『人生が楽しくなる幸せの法則』に変更したと発表しました。

 でもなぁ、ケイ嬢にとってはそれもお仕事の一部だし、というのが私の意見です。

 会社員の場合、事務などの実務能力を会社に提供し、その対価として給料を得ているわけですが、世の中には「自分を商品にする」ことでお金を稼ぐ人もいます。いわゆる人気商売の人で、芸能人、キャバ嬢、作家、会社員ではありますが人気で仕事量が左右される女子アナもここに属します。ケイ嬢は芸人ですから、こちら側の人です。

「自分を商品にする」職業は、まずは不特定多数の人に顔と名前を売って、自分という存在を知ってもらい、ファンを獲得する必要があります。そのためにはテレビに出るのが手っ取り早いですが、今のテレビはキャラのある人を重要視します。

 となると、キャラを意図的に生み出さないといけないわけですが、その際の鉄則は人とかぶらないこと。テレビには女優やモデルといった「美のプロ」がいるので、“美人キャラ”に入り込む余地はありません。オンナ芸人界では「ブスだからモテない」という“ブスキャラ”は飽和状態です。ケイ嬢の「ちょうどいいブス」という新しいキャッチフレーズは、「でも、だからこそ、モテることができる」という夢のあるオチが待っているので、戦略として正解です。このキャッチフレーズのおかげでバラエティーからオファーがかかり、テレビに映って顔と名前が売れる。その結果、劇場に足を運んでくれるファンも増えるでしょう。

「人とかぶらないキャラを作って、とにかく目立つ」ことがケイ嬢の仕事の一部なわけですから、女性蔑視とは言えないのではないでしょうか。

 が、今回の騒動の元となった『ちょうどいいブスのススメ』(主婦の友社)を読んでみたところ、「ちょうどいいブス」問題なんて目じゃないほどの闇のようなヤバさを発見した気がしたのでした。

「オトコにモテたい」わけじゃない?

 同書は、美人ならではのお高さやブスの重苦しさを排除したちょうどいいブスが、いかにしてオトコを落とすかについて書いてあります。男性と盛り上がるためのお酒の飲み方、タクシーの運転手さんと積極的に話して雑談力を磨き、男性を部屋に招いた時にコンビニ素材でちゃちゃっとできるつまみを日ごろから練習しておくなど、テクニックとともにケイ嬢の努力体質と生真面目さを随所から感じることができます。

 しかし、読み進めているうちに、根本的な疑問がわいてきたのです。ケイ嬢は本当にオトコにモテたいのだろうか、と。

 ケイ嬢は、イケてる男性にばかりボディータッチする女性についてこう書いています。「こういうある種『差別的な行動』って、私的には絶対NGですね。自分が男性にこの手のことをやられたら、コンプレックスが刺激されて落ち込みますから、自分も男性にはそういう失礼な態度をとりたくないんです」「やるなら平等に!です。ブサイクだろうとなんだろうと、ボディータッチするなら全員に!」「誰かが気分が悪くなるようなことを恋愛テクニックとして利用するのは、もうやめませんか?」と差別廃絶の提言までしています。

 恋愛は集団の中の特定の人に好意を伝える行為なので、そもそもが差別のゲームなんだよと言いたいところですが、それはさておき、上記の発言から考えると、ケイ嬢はもしかしたら、男性の差別的な行動で傷ついたことがあるのかもしれません。そういう場合、「男性が怖くなって、男性から遠ざかる人」と「特別扱いされた女性を恨む人」がいて、ケイ嬢は後者なのではないかと思うのです。そう考えると「ちょうどいいブス」の定義も筋が通ることになります。

 ケイ嬢いわく、「ちょうどいいブス」とは「(男性が)酔ったらいける(と思う)女性のこと」だそうですが、なぜ遊び相手のようなポジションをわざわざ自分から希望するのでしょうか。それは「手を出しやすい存在」と男性にアピールすることで、口説かれたという“実績”を増やしたいからではないでしょうか。恋愛やセックスの経験数は多いほうが“いい女”であると考える人はいて、女性同士のマウンティングに使われることはよくあります。だとすると、ケイ嬢は「オトコにモテたい」のではなく、「オンナに勝ちたい」タイプなのでしょう。

芸能人としてのケイ嬢のワキの甘さ

 ケイ嬢はお母さんに「見えないところでちゃんとできないと、女として終わっている」と言われて育ったため、「公共のトイレでトイレットペーパーを補充しない女」に怒りを感じるそうですが、これも「オンナに勝ちたい」気質をよく表していると思います。女性しかいない場所でも、次の人のために気配りを忘れない自分は正しい、私はエラいという気持ちを持っているのではないでしょうか。

 ケイ嬢がどんな信条を持っていようと他人にヤバい呼ばわりされる筋合いはないのですが、芸能人として考えた場合、ワキが甘い

 ケイ嬢はWeb版『Ray』で「ちょうどいいブスのススメ」を連載中ですが、番外編としてジャングルポケット・太田博久の妻で、モデルの近藤千尋をゲストに迎え、対談をします。

 プライベートでも親交がある二人ですが、ここで近藤が、呼び出されて深夜の飲み会にやってきた芸人の嫁(当時妊娠中)に、ケイ嬢が怒涛(どとう)のダメ出しをしたことを暴露します。先輩の呼び出しなのに来るのが遅いとか、結婚してるのにフルメイクとはどういうことだ、肩を出してモテ服を着るな、など。ケイ嬢は「お酒が入っていたから」と説明していましたが、一般人からすると、ケイ嬢の行動はパワハラ、もしくは言いがかりにしか見えず、イメージダウンは避けられないでしょう。なぜこのような行動を暴露するかというと、近藤もケイ嬢に対して何か思うところがあるのではないでしょうか。

 SNS全盛の今、ネットでの発言はあっという間に拡散されます。ですから、ケイ嬢は、顔も名前も知らないトイレットペーパーを補充しない女に怒っている場合ではないのです。本当に注意すべきは、身近にいる目下で、かつメディアで発言できる人、つまり近藤であり、先輩風を吹かせている場合ではない。自分の株を落とさないように行動するのは、人気商売の基本です。ケイ嬢がそこに気づいていないのだとしたら、そこが一番ヤバい気がします。


プロフィール
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。他に、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。