愛くるしいうり坊の様子 撮影/渡邉智裕

 今年はいい年になりますように! そんな願いを叶えてくれる(?)亥年にピッタリの、イノシシが幸せに暮らす理想郷が茨城県にあるという。東京から車で約2時間、筑波山を望む山道を登るにつれて、だんだんと聞こえてきたのは珍妙な歌――。

イノシシが集まる夢の国

 ユ・ユ・ユ・ユ~トピア♪ み~んな~笑顔の~ユ~トピア~♪

 “珍百景”に数えたくなる非日常的な世界観の佇まい、そして、どこからともなく聞こえてくる「ユ~トピア~♪」という手作り感満載の愉快なテーマ曲に迎えられた。

 ここは茨城県石岡市にある『東筑波ユートピア』。筑波山の東に位置し、約2万坪の敷地にアジサイ2万本をはじめとした植物、そしてニホンザルやウサギ、ポニーなど30種類の動物が集う、大自然に囲まれた山あいの動物園だ。

 入園前にして早くも妙な期待感がこみあげる不思議空間だが、実は全国でも稀有なイノシシをメインに扱う動物園。今年の干支であるイノシシと触れ合い、記念撮影ができ、なおかつ生活や生態を間近で見られるとあって、急上昇中の話題スポットなのだ。

「開園した'70年代当時、筑波山周辺には家族やカップルが楽しめるような施設が少なかった。筑波山の豊かな土壌と風景を生かした観光スポットをつくろうと一大決心し、私財をなげうってつくりました。筑波山にユートピア(理想郷)をつくりたかった」

独特の世界観を醸す東筑波ユートピアの入り口。耳に残る(!?)昭和が薫るテーマ曲は必聴だ 撮影/渡邉智裕

 そう笑うのは、同動物園の小川高広園長。千葉県で観光農園を営んだ後、筑波山の景色に魅せられ離農し、30代後半で東筑波ユートピアを開園した信念の人だ。この小川園長、御年79歳なのだが、とにかくエネルギッシュで若々しい! そして園内のほとんどの施設を園長自らつくったというからオドロキ。

 それにしても、一般的に農作物を荒らす害獣としてのイメージが先行するイノシシ。シカやサルとともに3大有害獣とも呼ばれ、3種だけで獣類被害全体の9割を占めると言われているほどだ。なぜ、扱おうと思ったのか?

「石岡市は日本屈指のイノシシの生息地で、筑波山の肥沃な土壌はイノシシが暮らすには最適な宝庫なのです。そんな普段は知られていない野生のイノシシの生態をお見せすることができれば当園の強みにもなる。たしかに害獣ではありますが、その実態と愛くるしさも知ってほしかった」(小川園長、以下同)

生後間もない赤ちゃん“うり坊”は超ミニサイズ。4か月を過ぎると瓜に似た、特徴的なシマ模様が消える 撮影/渡邉智裕

 実際、園内のイノシシと触れ合うと、そのおとなしさにびっくりする! 人をも恐れない“猪突猛進”を思い浮かべるが、本来は臆病で人を襲うことはめったにないという。

 この日、県外から訪れたという40代女性も「最初は怖かったですけど、つぶらな瞳が可愛い。けもの臭さも感じないし、触ってものんびりしていますね」と、すっかりイメージを覆された様子。イノシシの鼻をタッチするなど存分に愛でていた。

 現在、このユートピアに生息しているイノシシは約40頭。体長1メートルを超える成獣もいれば、シマ模様が特徴的な“うり坊”と呼ばれる生後4か月未満の赤ちゃんもいるため見ていて飽きない。

園内には二ホンザルもたくさん。「お猿のショー」では器用に見事なジャンプ芸を披露してくれる 撮影/渡邉智裕

 特に、1日3回ほど行われる「お猿のショー」後の、“うり坊”との記念撮影はぜひとも参加したいイベントだ。ミニブタとは違う可愛さに加え、赤ちゃん特有の暖かさや純朴さに気持ちが洗われる~。インスタ映えバッチリの“うり坊詣”はいかが?

2月には待望のリニューアル

 亥年を迎えて一層の盛り上がりが予想されるユートピアだが、その道のりは山あり谷ありだった。バブル期には1日最高4000人の来園者数を記録する、屈指の人気観光スポットとなるも、その後は減少傾向の一途に。

 近年では6日連続来園者数ゼロの日もあるなど、存続の危機に瀕していたのだが、昨年1月に『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系)で取り上げられたことを機に知名度は全国へ広がっていった。

「テレビの効果はスゴい。九州や北海道から来園する人も目立つようになりました」

 と、小川園長も驚くように各地からお客さんが来るようになった。

“うり坊”にメロメロになる人が続出中 撮影/渡邉智裕

約14000人が支援

 そして昨年の春、小川園長は一大決心をする。インターネット上で賛同者を集め、その資金をもとに企画を実現する「クラウドファンディング」による、ユートピア再生計画に踏み切ったのだ。

「イノシシ牧場を改築して動物たちを幸せにしたい。赤ちゃんゾーン、住処ゾーン、資料館ゾーンなど、イノシシに特化した施設をつくり、かつて東筑波ユートピアにあった活気を取り戻したかった」

 そんな園長の思いに約14000人の支援者が賛同し、目標金額4000万円を大きく上回る約5800万円が集まったのだ。

うり坊との記念撮影はインスタ映え!? 抱っこしてもおとなしく、そして暖か~い 撮影/渡邉智裕

「本当にありがたいこと。離農してたったひとりでオープンしたときもチャレンジでしたが、今年で80歳を迎える今もチャレンジできるなんて。さすがに人生最後だと思いますが(笑)、動物たち、お客さん、スタッフにとって魅力的な場所にしたい」

 まさに猪突猛進。こんな人柄・キャラクターもあってこそ、ユートピアを応援したい人が増えたのだろう。2月のリニューアルオープンに向けて、約3000坪の敷地に「新生イノシシ牧場」が急ピッチでつくられている。

「母親イノシシは授乳や巣づくり以外に積極的な子育てはしないので、子どもが路頭に迷うことも珍しくない。そんなイノシシを牧場で保護し、また生け捕って処理に困っているイノシシなども受け入れていきたい。生まれ変わるユートピアで、イノシシと触れ合ってください」

 イノシシにとって、また小川園長の理想郷として生まれ変わる東筑波ユートピア。亥年に縁起がいい、愛嬌たっぷりのイノシシと“鼻タッチ”してみてはいかが?


《INFORMATION》
自然動物公園 東筑波ユートピア
住所:茨城県石岡市吉生2730-3
開園時間:月〜金 9時~17時(最終受付16時30分 ※冬季は16時30分まで開園 受付は16時)、土・日・祝 9時~17時(最終受付16時30分)
料金:大人(中学生以上)1200円 子ども(3才以上)720円
※イノシシ牧場はリニューアルオープンまで閉鎖中
電話:0299-43-6656 http://h-yuutopia.com/