もうじき中国は、春節(今年は2月5日)。それに合わせて1月の後半から長期休暇をとった中国人が、日本にこぞって観光にやってきます。中国人観光客、イコール“爆買い”というイメージですが、最近ではそのお金の使い方の傾向が変わってきているというのです。 
 税理士で現役モデルの日沢新によるお金にまつわる連載『銭ちゃんねる』。今回は、変わりつつある中国マネーの話です。

写真はイメージです

“爆買い”に変化が起きた理由

 中国人観光客が、1年のうちで最も多く日本に訪れるのは、“春節”の時期です。春節に合わせて長期休暇を取り、日本に観光にやってくる中国人を東京の繁華街を中心に、関西などでも多く見かけるようになるのが、ちょうど今頃から2月半ばくらいにかけてです。

 これまで中国人観光客といえば、“爆買い”のイメージでした。しかし、“爆買い”がピークだったのは、流行語大賞になった2014年頃の話で、その後は年々緩やかに落ち着き、近年は中国人のお金の使い方が変わってきているというのです。

 先日、知り合いの量販店員のYさんが、こんなことをおっしゃっていました。

Yさん「以前は持っているスーツケースには入りきらないくらいに、化粧品やサプリメントを買っていた。お土産のためではなく、転売目的で大量購入する人もいたんです。もちろん今でも爆買いする人たちはいるんですよ。でも、そういう人たちに混じって、最近では高級家電やサプリなどを自分のために買う人も多くなりました」

日沢「なるほど。中国人観光客の消費行動に変化が起きているんですね」

Yさん「だから、春節の旅行に合わせて大々的なイベントを仕掛けない店が多くなったんですよ。ウチの店でも、観光客を意識した特別な対応を取るよりも、ひとりひとりを丁寧に接客するよう社員には徹底しています。実は、そういう接客を中国人は好むんですね」

そもそもなぜ“爆買い”現象が起きたのか?

 なぜ中国人観光客が“爆買い”するようになったか、ご存知ですか?

 中国の経済成長に伴い、為替相場が元高・円安になりました。元高が進めば、少ない人民元で多くの買い物ができるようになります。これは渡航費、宿泊費にも影響します。さらに格安航会社(LCC)が普及し、渡航費を安く抑えることができるようになったのも、日本への海外旅行をより手軽なものにしたのです。

 Yさんはまた、こんなこともおっしゃいました。

Yさん「3、4年前は、店の一角にあった外国人専用の免税カウンターが、連日、大にぎわいでしたよ」

日沢「それは、インバウンド政策が功をそうしたんでしょうね」

 これはどういうことかと言いますと、日本政府が外国人観光客の誘致増加(インバウンド)を目的に、平成26年10月から、免税制度の対象品目を拡大したのです。それによって多くの商品が免税価格で買えることになりました。

(参考:国土交通省観光庁  http://www.mlit.go.jp/kankocho/news03_000098.html)

Yさん「消費税の8%がなくなるのは、大きいですからね。あと、メイドインジャパンの製品は、高品質で安心なので人気なんですよ。ドライヤー、掃除機、電気ポット、炊飯器、ウォシュレット付きのトイレの便座など、家電製品が本当によく売れていました」

日沢「ほかにも、日本の薬が人気だと聞きましたよ。中国では“神薬”と言われているとか」

Yさん「そうなんです。先生、知っていますか? “新薬12”というリストが出回っているんですよ。『アンメルツヨコヨコ』、『熱さまシート』、『命の母A』、『ニノキュア』、『サカムケア』、『サンテボーティエ』、『エスタックイブ』、『ハイチオールC』、「サロンパス』、『ビューラックA』、『口内炎パッチ大正A』、『龍角散』……。たまに新しい商品が入ってくることもありますが、この12品目は不動の人気です」

日沢「日本では馴染みのある薬ばかりですが、神薬とはすごいですね」

“爆買い”が落ち着き、売り上げにも影響?

 こうした購買欲の変化の中で、中国人旅行客が日本で使う消費金額は落ちたのでしょうか? Yさんのような商品を売る店舗では、一昨年の1月〜3月と昨年の1月〜3月を比べると売り上げの減少が続いたようです。

 しかし、全体的な中国マネーが日本にもたらす経済効果は、昨年の10月くらいからプラスに転じています。

 では、中国人観光客は、何にお金を使ったのでしょうか?

Yさん「どうも中国人の興味が“物”から“体験”になったみたいです。“モノ旅行”から“コト旅行”になったとも言われています。それに伴って、訪れるのも、“都心”から“地方”へと移っているんですよ」

 そこで、Yさんのような物販業者が目をつけたのが、日本を体験できる商品でした。

Yさん「例えば新年は福袋が人気でした。福袋は、値段の何倍もする商品が入っている日本の初売りの風物詩。それを買うことで、日本の正月文化を体験できる。化粧品やサプリメントの詰め合わせは、得によく売れました」

日沢「体験といえば、地方のスキー場で、スキーを楽しむ中国人観光客も見かけるようですね。スキー場の中には、中国人観光客向けのスキー教室を開催しているところもありますし。さらに日本の文化である露天風呂などの温泉も人気で、この時期は、雪を見ながら温泉に入る中国人も多かったと聞きました」

「モノ」から「コト」に消費が移った背景を補足しますと、中国政府が海外商品の関税を強化したために、持ち込むのにお金がかかるようになったことにも起因していると言われています。

モノ消費を落とさないための工夫

Yさん「日本人よりも親子、親族、知人との人間関係を大切にする国民性なので、お土産をたくさん買っていく。そんな中で、質にもこだわるようになったんです。

 ですから接客を丁寧にして、“リピーター”になってもらうようにする。ネットで買い物ができる時代ですから、いいものを丁寧な接客で売れば、帰国後も買ってもらえますし、また旅行に来たときに店に足を運んでもらえます」

 いまや中国人旅行客は年間735万人、消費額はおよそ1兆6950億円だとも言われています(観光庁調べ)。

 中国経済の成長はすでにピークを過ぎているという見方もあり、一時期に比べると元安にはなっていますが、2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控える日本としては、中国マネーがもたらす経済効果への期待は大きいと言えます。

 爆買いからの日本ブームを一過性で終わらせないよう、言語の問題、Wifiの問題、クレジットカード決済普及率の問題などにも取り組みながら、国家主導でインバウンド対策を進めています。


日沢新(ひざわ・しん)◎税理士。1987年生まれ。2013年に、税理士の国家資格を取得。税理士事務所NEO FRONTIER TAX OFFICEの代表税理士(https://hizawa-tax.com/)。おもに個人や中小企業、そして相続に関する相談に乗っている。身長185cm、70kg、体脂肪率8%。日々のジムトレーニングで、鍛え抜かれた肉体美を目指す。好きな言葉は「黄金の精神」。