<20代前半、男性、大学生>志良堂さんが、初めて買い取った手帳だそう。クスッと笑える“本音”が満載 撮影/山田智絵

 東京・参宮橋駅のほど近くにあるアートギャラリー『ピカレスク』。複数のアーティストによる作品を常時、展示・販売する店内の一角に、他人の手帳が読める『手帳類図書室』という、なんとも不思議な空間がある。

ここでは、コレクターの志良堂正史さんが集めた30人分、約300冊もの手帳や日記を読むことができるんです

 そう話すのは『ピカレスク』の店長・松岡詩美さん。他人の手帳―。それはたとえ落とし物であっても、どんなに親しい間柄であっても、家族であっても、決して開いてはならない“禁断の扉”。

 それが読めるなんて、悪いことをしているわけではないのに、“いけないことをしている”感覚にとらわれてゾクゾクしてしまう。

ここでは唯一無二の体験をすることができるんです。お客様もみなさん“1時間なんてあっという間”と口々におっしゃって、4時間くらい滞在される方も。読破を目指し、通われている方もいます」(以下、松岡さん)

 手帳類とひと口に言っても、そのジャンルは多種多様。例えば、教師に思いを寄せる女子高生の赤裸々な恋愛ノート、“プレイ内容”まで書かれたデリヘル嬢の手帳から日本文化が大好きな留学生のスケッチブック、小学生の連絡帳まで……。どれを開いても興味をそそられるものばかり。

“自分だけ”の言葉が誰かにとっての“名言”へ

 そんな数ある中でも、松岡さんがこれまでにいちばん衝撃を受けたものは、交換日記から闘病記へと移っていくものだったという。

『ピカレスク』店長・松岡詩美さん 「いつか、方言で書かれたものが読んでみたいです」と松岡さん。主婦の手帳も少ないとのことなので、興味のある方は寄贈してみては?

「交換日記のときは健康で“来週は○○の映画を見に行く!”など明るい内容だったのが、病気になってからはどんどん負の感情に飲み込まれていって。失明していく病気だったようで、文字も次第に乱雑になっていくんです。

 映画とか小説では得られない、人の恐怖とか怒り、悲しみなど、“生”の感情が伝わってきました。ひとりの命が揺さぶられていく様子に、いろいろと考えさせられましたね

 手帳や日記は、本来は第三者が読むものではなく“自分だけ”のもの。そこに書かれた本心や本音にウソはなく、読み手によってはそれが名言となって響くことも。

 実際に手帳や日記を手にした人からは、“あのフレーズにハッとさせられた”など、何げなく書かれた言葉に胸打たれる人も少なくないという。

同じ時代に生きているけど、その人の知りえない裏側の奥底みたいなものにじっくり触れることができます。その方がどう考えて生きてきた方なのか、その道のりを反芻することでゆくゆくは他者への理解が深まったらいいなと。

 言葉からはもちろんですが、筆跡とか紙の汚れなど、言語化しにくい情報からも何かしらの刺激やドキドキを味わえると思います」

 いろんな“人生”が詰まった『手帳類図書室』。あなたはここで、どんなメッセージを受け取りますか?

『Picaresque(ピカレスク)』
営業は土日祝(11時~18時)/東京都渋谷区代々木4-54-7
以前は買い取りもしていたが、現在は寄贈のみ。寄贈したい方は『手帳類図書室』のホームページ(https://techorui.jp/)をチェック。『手帳類図書室』を利用したい、またお店に来て寄贈したい方は直接『ピカレスク』まで。店内には可愛い雑貨がズラリと並び、個展やトークショーも。【公式サイト】https://picaresquejpn.com/

<撮影/山田智絵>