“名古屋のカリスマ”とうたわれるドラァグクイーン・アンジェリカさん。「私のことは“ファッショナブルなオカマ”とでも思ってくれたらそんな嬉しいことはないわ」という彼女(?)は、男社会と女社会、どちらの酸いも甘いも噛みわける中で、類まれなる感受性が磨かれてきたハズ。そこで、『週刊女性PRIME』でも、オネエならではの視点で、現代ニッポンにはびこる問題をぶった斬ってもらいました! 
 今回のテーマは「LGBTとゲイバー」。近ごろメジャーになってきた『ゲイバー』という場所がもつ独特の役割について、アンジェリカさんが実話をもとに語ります。
アンジェリカさん

 女風呂に入れるのは女、男風呂には男。トイレも同様。これって当然のことよね。

 どうも、アンジェリカです。さて、さっそくだけど今回は『ゲイバー』、つまり、“ゲイのための飲み屋”について話したいの。

ゲイバーは誰のための場所?

 みんなは東京にある『新宿2丁目』ってエリアを知ってるかしら? 言わずと知れた日本のゲイタウンで、ゲイバーの密集地帯でもあるのよ。

 といっても、ゲイバーって東京はもちろん、北は北海道、南は沖縄まで各地に存在しているの。現代では“ゲイシーン”も世間に浸透してきて、もはや何をもってマイノリティー(少数派)なのかわからなくもなってきているんだけど、やっぱり“一般的”なお店と比べてまだまだ規模は小さいのよ。

 ちなみにゲイシーンとは、ゲイ同士の世界のこと。その全貌が明るみに出てきたのも、ここ20年ほどのことなのよ。

 実は日本は、他の国と比べても上から数えた方が早いくらい、ゲイシーンはオープン。それでもほとんどのゲイたちが、昼間は自らのセクシャリティーを押し殺しながら窮屈な社会を生きているの。そんな日々の重圧から解放してくれるような場所が、ゲイバーなのよ。

 アタシたちのオアシスであるゲイバーに、近年では女性客やストレートの男性客が出入りすることも多くなってきて、日によってはゲイ客のほうが少ない日だってある(本来、ゲイ以外は来店不可の店も多いのよ)。

 ここで勘違いしてほしくないのは、アタシは「女が来るな!」「ストレートが来るな!」 って言いたいわけではないし、節度を守って楽しんでくれるなら大いに歓迎よ。

 ただね、ゲイバーがもともと誰のための場所なのかは、把握していてほしいのよ。ちなみに「金払ってんだから客は客だろ?」って思ってるような人は、ゲイだろうがなんだろうがどこでも歓迎されないから、気をつけて。

 アタシの友だちにも女性やストレートの男性はたくさんいるんだけど、オアシスに足を踏み入れる際には、みんな「今はゲイバーって場所で飲んでいる」 という意識は持ってくれているのよ。居酒屋でもなければCLUBでもスナックでもない、『ゲイバー』という空間を味わって、遊んでくれてる。

 じゃあ、“ゲイバーにいるという意識” って何? って思うじゃない?

 それは例えば、「お店に集うゲイたちに寄り添った言動を心がける」ってこと。

 ゲイバーはね、ゲイにとっての憩いの場であったり、インターネットでは知ることのできないアンダーグラウンドな情報を交換する場だったりもするのよ。そして何より、希少な“男同士の出会いの場”として、とても王道な場所なの。

 今はインターネットなんかも普及して便利に付き合えることも多いけれど、そこはみな同様、そういうものに頼らずに出会いたいって気持ちもあるの。

 そういった思いで足を運ぶゲイのお客たちが多い場所であることを理解して、長くゲイバーで遊んでいる女性やストレートも多いわね。

愚行だらけの“ヤバ客”の顛末

 とはいえ、中にはその逆も存在する。

 昔、アタシの友達が経営するゲイバーで出入り禁止になった女性客がいたんだけど。その彼女、どうやらゲイ同士の性交渉にとても興味があったみたいで、周りのお客さんに「どんなことするんですか?」「男役・女役ってあるんですか?」って、もう聞きたい放題。

 お次は元カレの話で泣き始めてゲイになだめられ、挙げ句の果てには店内で爆睡するっていう……(苦笑)。

 その子が起きてからは、居合わせた常連の女性客にガツンと叱られたわ。

「アナタって自分のセックスに関しても人様にそんなによく話すの? 女だろうが男だろうが、営みの内容なんて知りたくないし、言いたくもないの。だから、根掘り葉掘り聞くなんてどうかしてるの。

 ましてや、店内に入れてもらっておいて泣くは寝るは、いったい何なの? 私も(あなたと同類だと思われたら)遊べなくなるから、もう今後はここに来ないで」

 って。最終的には、出入り禁止にまでさせられたっていうオチ。

 アタシ、この話を聞いたときは、感極まって「その勇ましい常連の女と飲みたい!」 って言ったわよ。

 はたまた、こんなよく出来た常連さんもいる一方で、女性がゲイバーにいるのを目にしただけで「なんでこんな所で女が飲んでんのよ?」 とか、いちゃもんをつける人もいる。

 女性がただ楽しんで飲んでいる場合にはかわいそうだけど、それもしょうがない、と“も”思う。

 でもね、ゲイのほとんどは、女性客に対して「特別に入れてやってあげている」 なんて思っていないのよ。

 ただ、「(ゲイたちのオアシスに)お邪魔させてもらっている」って気持ちと、最低限の配慮は、兼ね備えていてもらいたいものなの。

 だってそこは数少ない、“男たちの秘められた園”でもあるのだから。


《PROFILE》
アンジェリカ ◎愛知県名古屋市在住のドラァグクイーン。テレビ番組『月曜から夜ふかし』や『行列のできる法律相談所』(ともに日本テレビ系)でその美貌と毒舌ぶりを披露して人気に。地上波のほかラジオ番組、各種イベントへの出演や雑誌でのコラム執筆などマイペースにお仕事中。
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