衝撃的な事件の後に迎えた、AKB48のメンバーたち(NGT48からは3人)のグループ成人式(今年1月14日、東京・神田明神にて。記者撮影)

 今やCNNなど海外メディアも取り上げる世界的な関心事となった、NGT48の山口真帆さん(23)をめぐる暴行事件。2018年12月8日、AKB48グループで新潟拠点のNGT48メンバーである山口さんが新潟市内の自宅マンションの玄関先で、ファンとされる男2人に暴行された(新潟県警が逮捕、後に新潟地検は不起訴)。

 当初は公にされなかったが、山口さん自身が今年1月8日に動画配信のSHOWROOMで、9日にはツイッターで告白したことによって(現在は削除)、事件が発覚。これに対し、運営会社AKSの対応は後手後手に終始し、ファンからは厳しい批判が噴出した。

 ようやくAKSが今月14日になり、神田明神(東京都千代田区)のAKB48グループ成人式に集まった報道陣に向けて、急きょ会見。NGT48劇場支配人の今村悦朗氏の異動(事実上の更迭)と、弁護士や有識者で構成される第三者委員会の設置を発表したというのが、これまでの顛末だ。

 事件が明るみになって約2週間経つが、いまだ収束する気配はない。そんな中、最近まであるAKB48グループに娘を在籍させていた母親のAさん(40代)に、この件について直撃。率直な心情を聞くことができた。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

加害者に近いメンバーを処分しないのは失態

――単刀直入に聞きます。もし、自分の娘が山口さんのような被害を受けたら、どう受け止めますか。

 毎日が不安で仕方ないでしょう。山口さんは今後活動を続けることを選択しましたが、もしわたしが親なら、1日でも早く辞めて、安全な道を選んでほしいと思います。

――”被害者”である山口さんがまずステージで謝罪したことに、世間は驚きました。

 運営側からの詳細な説明もないままに、被害者の山口さんに謝罪させるという運営の意図がわかりかねます。(暴行を受けたことで)精神面でもまだ不安定な山口さんにあんな形でステージに立たせること自体が問題ではないでしょうか。

(素行が悪く加害者とつながっていたとされる)当該メンバーらを早急に処分しなかったのは運営の失態でしょう。目立たない形で処分していれば、山口さんが動画配信で公表するようなこともなかったのに……。加害者をかばうような対応をしたことはとても不思議です。

――この間の異常さに対して、グループOGで前NGT48のキャプテンである北原里英さん、現役では指原莉乃さんらがSNSで発言しましたが。

 さすがはベテランだと思いました。彼女たちは運営のどういった点がダメなのかもよくわかっているので、言葉を選びながらいいタイミングで発言してくださいました。

――AKB48グループを運営するAKSのマネジメントについて。 

 抱えているメンバーの人数に対して、つねにマネジャーの数が不足しているように思います(メンバー7~8人に対してマネジャー1人)。一人ひとりのケアができているとは思えません。人気メンバーや売り出したいメンバーに注力するので、それ以外は”放置”されている感じ。

運営としては新たなNGTの体制を発足させたのだが…(1月14日の緊急会見にて。松村匠・AKS運営責任者=左、早川麻衣子・NGT48劇場支配人=中央。記者撮影)

 単なるスケジュール伝達係ですが、それすらもできていなくて、メンバーはファンから(ホームページなどに掲載された)予定を教えてもらうことだって、あるんです。メンバーがどんな悩みを抱えているのか、心を許して相談に乗ってくださるマネジャーがいたら、今回のような事件は起きなかったのではないでしょうか。

――数百倍とも言われる競争率を勝ち抜いて合格したAKBグループのメンバーが”放置”されているんですか?

(AKB48だけで100人超、国内姉妹グループ合計で約400人いる)メンバー数が多すぎなんです。受かっても、まともに育成してもらえない。だから、一部で彼氏を作ったり、ファンとつながったりと、「遊ぶ」子が出てきてしまうのだと思います。

トラブルが起きても1人で抱えてしまいがち

――CD販促の握手会や多数のSNSへの投稿など、メンバーの負担は大きいです。

 大半のメンバーはつねに一生懸命で、与えられた課題には全力で取り組んでいて、そこにかかるストレスは相当なものです。メンバー内でトラブルが起きても、まず誰に相談するべきか、メンバー自身もわかっていないと思います。自分1人で問題を抱えてしまいがち。

 マネジャーさんは異変に気づいてはいても、忙しすぎるので、気づかないふりをしていると思う。しかし、問題が大きくなってから運営が対処するのでは遅すぎるので、メンバーが何でも相談できる窓口を作ってほしい。

――では具体的にどのような対処が有効だと思いますか。

 実際、襲われたときにメンバーが、(再発防止策として全メンバーに配布する)防犯ブザーのひもを引けるのか? つねにすぐにひもを引ける状態で携帯することはできるのか? 疑問に感じますが、何もないよりはいいでしょう。しかし、結局はメンバーの一人ひとりがつねに危機感をもって行動することが、いちばん大事なことだとは思います。

――運営会社に改善してほしいことは何でしょうか。

 メンバーのメンタルケアを目的とした定期的な面談をしてほしい。かつては年1回、親との面談がありましたが、いつの間にかなくなってしまいました。外部の専門機関との連携や委託も必要かと思います。

 あるグループで、しつこいストーカー被害に遭った子がいたそうですが、結局、親御さんが警察に行ったりして、運営会社はあまり力になってくれなかったという話を聞きました。そういった点も本腰を入れてもらいたいです。

 真相究明のための第三者委員会の設置や警備体制強化が発表され、運営会社のAKSも遅ればせながら対応に乗り出したように見える。だが、48グループに子ども等身内を在籍させる多くの家族や近親者の不安は、なかなか払拭しきれていないと言っていいだろう。


竹内 一晴(たけうち かずはる)◎ジャーナリスト 1970年名古屋市生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。大手芸能事務所、CS演劇専門放送局プロデューサー、写真週刊誌専属記者等を経て2004年からフリー。報道・表現の自由、大学自治、韓国社会事情、カラオケ、アイドル等の記事を執筆。田島泰彦編『個人情報保護法と人権―プライバシーと表現の自由をどう守るか』に論稿掲載。48グループの推しメンは松井珠理奈(SKE48)、注目株は山田菜々美(AKB48・Team8)だが、全メンバーを公平に見ることをモットーとする。