おかしな髪型をする鳥山裕哉容疑者(SNSより)

「事件当日も、午前中は通常どおり勤務をしていました。お昼過ぎくらいに“頭が痛い、吐き気がする”ということで早退をしました」(前橋市役所・総務部職員課)

 早退後、男は市内の自宅にいったん戻ってから、元交際相手の金井貴美香さん(22)の勤務先、埼玉県さいたま市へと向かった。刃渡り20センチの包丁を手に、ビルの5階に身を潜めていたという。

「(発生時間は)1月23日午後5時56分ごろ。頸部などを切りつけ、殺害の目的は遂げられなかったものの、被害者は午後7時、搬送先病院において死亡が確認されました」

 と捜査関係者。強い計画性をにおわせる。

堕落した「浪ニート」時代

 同日、殺人未遂容疑で逮捕されたのは、群馬県前橋市の鳥山裕哉容疑者(25)。前橋市職員だった。

「勤務はまじめに取り組み、遅刻などもありませんでした。人間関係のトラブルも聞いていません。橋や道路関係の補修・修理を担当していました」(前出・総務部職員課)

 地元の進学校、県立前橋高校を卒業後、2浪し、筑波大学に入学。金井さんが就職した時期に合わせたのか、自分も大学を中退し、昨年4月1日付で市職員になった。

 高校時代、鳥山容疑者はクイズ研究会に所属。同研究会は全国高等学校クイズ選手権本戦への出場を目指していた。

 現在、「クイズプレーヤー」として活躍している「東大最強の知識王」が、開成高校チームの一員として第30回、第31回大会で全国制覇2連覇を達成した時代。鳥山容疑者も高校生クイズの世界でしのぎを削っていたとみられるが、群馬県予選の決勝戦(第30回)で他校に敗退し、夢はついえた。

 高校卒業後は、「浪ニート」と本人が名づける堕落した浪人生活を送っていた。その際《予備校の次ぐらいに長い時間を過ごしたと思われる利根川》(容疑者のフェイスブックより)というほど、鳥山容疑者は川が大好きだった。その理由は《川の周辺には人間を追い詰める全てのものが排除されていてやっぱりいいなぁと思います》

 さらに《親以外の人間様には迷惑をかけない範囲でゆっくり自分的に楽しく過ごすつもりです》《就活なり院のなんちゃらが始まる同級生(年齢)や、今年成人する同級生(学年)やら、みんな忙しそうですが僕はゆ~っくりやっていきます。頑張ってくださいね》と余裕を感じさせる書き込み(2015年3月17日)をしていたが、約4年後の今、元交際相手の命を奪う殺人者に身をおとした。

金井貴美香さん(SNSより)

 被害者の金井さんは、高崎経済大学在学中は英語研究部に所属。『第6回全国学生英語プレゼンテーションコンテスト』では、奨励賞を受賞したほどの腕前だ。

 2人がどのように出会ったのか、交際期間は? などといった詳細は不明だが、別れ話はこじれていた。昨年9月以降、金井さんは埼玉県警や群馬県警に、鳥山容疑者の暴力やストーカー被害を、何度も相談していたという。

「事件があった23日夜には、被害届を提出する予定だったそうです」(民放報道局員)

 その矢先の犯行……。

 遺族は1月24日、悲しみの中、県警を通じコメントを発表した。

《大切な娘との別れが信じられず、ただぼうぜんとしています。娘は大きな夢を持っていました。その娘を突然奪われてしまい、いまだにそのことを信じることができません。今はただ、家族で娘との時間を大切にしたいと思っています》

 市職員の身勝手な暴走が、22歳の女性の夢、その家族の平穏な暮らしを奪った。