奥田瑛二 撮影/佐藤靖彦

 渋く、セクシーで男前。年を重ねるごとに大人の魅力が増していく、奥田瑛二(68)。ヤクザに刑事に職人まで……。最近の役柄から鋭く厳しい表情を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、優しい口調と笑顔で受け答えするそのギャップに、ますます惹き込まれてしまう―。

最近は声を荒らげたりする厳しい役が続いていて。ちょうどヒューマンティックなものをやりたいと思っていたところだったから、僕としては願ったりかなったりでしたね

 おなじみとなったアウトローな役柄から一転、“情けない奥田瑛二が見られる”と話題の映画『洗骨』が全国公開される。監督はガレッジセールのゴリこと照屋年之で、

「監督に“なんで僕なんですか”って聞いたら“目です。目の奥にある悲しみがいいんです”って。そう来たかと(笑)。役者って目を言われるとうれしいんだよ

 と目元を緩ませる。

絵を描いたオリジナルの棺で

 “洗骨”とは、沖縄の一部離島に今も残る風習で、土葬あるいは風葬が行われ骨となったあとに、縁の深い人たちが手で骨を洗うことで再度、埋葬するというもの。

「洗骨という言葉を耳にするのも初めてでした。撮影前に、記録ビデオを見させていただいたんですけど、とても精神性の高いものだなと。人が亡くなるということは、泣いて終わりじゃないということを改めて感じさせられましたね」

 そして、義理の母が亡くなったときのエピソードを明かしてくれた。

今って、葬式でもすぐに値段をつけるでしょう。それよりも、大事なのは家族の気持ちだと思う。だから(妻の)和津さんのお母さんが亡くなったとき、葬儀屋さんにはいちばん高い棺桶をすすめられたけど、シンプルな桐の棺にして。“和津さん、僕が墨で絵を描きたいんだけど、どう?”って提案したら、女房も子どもたちも“お父さん、それがいい!”って。

 葬式の日、墨と太さ違いの筆を3本用意して、ひざまずいて龍の絵を描きました。お義母さんが安らかに、天に召されますようにと」

 描き終わったとき、葬式場からは不思議と拍手が沸き起こったという。

別に墨でなくてもいい。子どもたちにクレヨンや絵の具を渡して、絵や“おばあちゃん、ありがとう”って描いてもらったりさ。そういうのでいいと思う。そこには想像をはるかに超える思いがあるわけじゃない。僕は、そう思うよ

妻との関係の変化

 そんな奥田といえば、妻はエッセイストの安藤和津、長女は映画監督の安藤桃子、次女は安藤サクラと言わずと知れた芸能一家の大黒柱。自身の家族について聞いてみると、

「楽しいよ、うちの家族は」

 と笑顔を見せる。現在、安藤サクラがヒロインを務める朝ドラ『まんぷく』が放送中だが、

おかげさまで娘たちも活躍させていただいて。『まんぷく』は全話見てますよ。見られない日は録画して。家に帰って、ビールを飲みながら見るのが好きなの。至福のひとときですよ

奥田瑛二 撮影/佐藤靖彦

 今では娘2人も結婚。すると妻との関係にも変化があったとか。

「娘たちが嫁に行くときに、覚悟しましたから。これからは2人なんだから、ちゃんと妻とコミュニケーションとらないと見捨てられるなって(笑)。でも自分が変わればいいんだと。前はお茶を出されても知らんぷりしてたけど、これって当たり前じゃないんだよね。

 今はちゃんと“ありがとう”を言うようになりました。最初は“わざとらしい”って笑われてたけど、だんだんそれが普通になってきた。“自分から仕掛ける”、それが夫婦うまくやっていく秘訣のひとつだと思うよ(笑)」

■家族へ―

「自分は幸せ者だと思う。映画監督、俳優、遊びにしてもこれまでやりたいことを徹底してやってきた。子どもにはもちろん、カミさんにはとんでもない迷惑をかけてきたなと。それでも家族がサポートしてきてくれて、ありがたいなと。感謝しています」

■娘がかわいくてしかたがない!

娘2人は昔からお父さんっ子。お風呂やおむつはもちろん、食事や芸術面など勉強以外は僕も面倒を見てきましたから。子どもたちは僕が作ったポークソテーが大好き。パイナップルを刻んだものを入れたスペシャルソースをかけたやつ。今でも言うよ、“お父さん、あれ作って!”って(笑)」

映画『洗骨』 (c)「洗骨」製作委員会
<作品情報>
映画『洗骨』2月9日(土)より全国公開 ※沖縄では先行公開中
 沖縄の離島・粟国島。母が亡くなった知らせを受け、島から離れていた息子と娘が帰ってきた。妻を亡くし、酒を飲むことで悲しみから逃れようとする父・信綱(奥田瑛二)の心は次第に周囲から孤立していく。だが、“洗骨”を通して、バラバラだった家族の心に変化が訪れ―。