「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「良いヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
坂口杏里

第16回 坂口杏里

 大物芸能人の子どもはトク。

 多くの一般人はこう思い込んでいるのではないでしょうか。確かに経済的には恵まれているでしょうし、周囲もチヤホヤしてくれるでしょう。

 お笑い怪獣・明石家さんま、大女優・大竹しのぶの間に生まれた、タレント・IMARUが『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)で明かしたところによると、「MTVでランキングを紹介する人になりたい」と大竹しのぶに打ち明けた半年後にデビューしていたそうですから、やはりコネというか後ろ盾のある人は強い。

 しかし、長い目で見るのなら、簡単にデビューできたり、仕事がすぐに舞い込むことは、ラッキーの前借りであって、本人のためにならないような気がするのです。

 国民的スターと言われる人の来歴をたどっていくと、すんなりと芸能界に入ってきたわけでないことに気づかされます。たとえば、松田聖子は平尾昌晃音楽学校で学び、デビューを目指していたわけですが、テイチク新人歌手オーディションで二次審査落ち、ホリプロタレントスカウトキャラバンでは書類選考で落ちています。中森明菜は『スター誕生!』(日本テレビ系)の史上最高得点記録者ですが、予選は4回落選し、テレビ本選3回めで合格を手にしています。

 合格するかもわからないオーディションを受け続けるというのはハングリー精神やメンタルの強さが要求されますし、自己プロデュース能力も必要です。審査員との相性やライバルのレベルも関係しますから、時の運も必要です。二世タレントは仕事をもらうために、こういった激戦をくぐり抜けてきた人たちと闘わなければなりません。

 IMARUは『しくじり先生』で、デビュー直後から、モデル、CM、ドラマと大きな仕事をもらったものの、結果を出すことができなかった、芸能界は甘くないと話していましたが、親の力でデビューすることはできても、人気者にはなれないのが芸能界のコワいところでしょう。

杏里はこの程度で済んでよかった

 女優・坂口良子さんを母に持つ、坂口杏里も二世タレントと言われた一人です。娘を売り出したい一心からでしょう。時には良子さんも一緒にバラエティー番組に出演し、バックアップしますが、病に倒れ、帰らぬ人となってしまいます。精神的ショックが大きかったのでしょうか、杏里は所属事務所を辞めます。その後に『週刊女性』は杏里がホストクラブで作った借金を返すため、セクシー女優へ転身すると報じました。やせ細る身体、どんどん変わっていく顔と、イヤなヤバさが漂いますが、杏里本人は『バイキング』(フジテレビ系)で「借金はない」と報道を否定しています。

 しかし、ホストに対する恐喝で逮捕されたことを考えると、金銭的にはだいぶ困っていたのでしょう。不起訴とはいえ、警察のお世話になってしまったことを考えると、ヤバ女と言わざるを得ません。しかし、この程度で済んでよかった、もっと深刻な事件に巻き込まれる、もしくは起こすのではないかと思っていたのは、私だけではないはずです。

 その後、キャバクラや風俗店などに勤務していると報じられた杏里ですが、芸能界復帰のために再始動します。現在、バンドメンバーを公開オーディション中だそうですが、芸能界はやりたいことをやるのではなく、求められることをするところ。音楽業界が厳しいこの時代に、あえて競争率が高い方向を狙うあたりが甘ちゃんだとしか言いようがないのですが、杏里は自分が持っている、ものすごい特権に気づいていないと思うのです。この権利をうまく使えたら、杏里は芸能界で仕事をし続けられたかもしれないというほどの、キーパーソンと杏里はつながっていた。

杏里が大切にすべきだった“縁”

 誰かと言うと、俳優・坂上忍です。芸能界一売れていると言っても過言ではない坂上と、良子さんはかつて共演した経験があり、良子さんにとてもよくしてもらったといろいろな番組で話しています。『バイキング』で坂上が語ったところによると、良子さんに「娘をよろしく」と頼まれていたこともあって、坂上は杏里を食事に誘ったそうですが、お説教されるとでも思ったのでしょうか、杏里はすぐに返信しなかったそうです。

 会社員と違って、芸能人のようにオファーがあって初めて成立する仕事では、人気のある人や力のある人の前で自分をアピールすることは重要な活動の一つです。芸能界の大先輩にして売れっ子の坂上が、亡き良子さんとの義理を果たさんとスケジュールを割く覚悟で声をかけてくれた以上、杏里も本心はさておき、芸能人として「ありがとうございます」と頭を下げるべきだったのではないでしょうか。

 ちなみに、坂上自身も子役時代にいきなり役に恵まれたわけではなく、オーディションに落ちまくった経験があるそうですが、あるディレクターが自分を拾ってくれて、そこからずっと使い続けてくれたと話していました。もちろん実力があるからこそ仕事の依頼が続いたのでしょうが、会社員と違って、こういう小さな出会いや縁が命運を分けるのが人気商売ではないでしょうか。

 良子さんが子役である坂上をかわいがっても、仕事が増えるわけでもなく、メリットは何もありません。にもかかわらず、そうしたのはそれが良子さんのお人柄で、それがわかっているからこそ、坂上も良子さんの頼みを聞き入れたいと思ったのではないでしょうか。

 お母さんがかわいがっていた人が、自分が売り出し中の時とほぼ同じくして、芸能界の頂点に立っている。それをお母さんがくれたチャンスと思えないのなら、頭を下げられないのだとしたら、杏里はお騒がせヤバ女のまま終わってしまうように思えてなりません。


プロフィール
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。