店内のモニターには、客の性別・年齢に応じた商品広告が表示

「できたてからあげクンロボ」をご存じだろうか。ローソンが開発したロボットで、通常およそ6分かかる調理を1分ほどでこなし、できたてアツアツのから揚げを提供してくれる。これを導入する実証実験を昨年12月、東京のローソンTOC大崎店で行ったところ、その評判がネットで拡散。「並んででも食べたい!」「全国で展開してほしい」と大きな反響を呼んだ。

ハイテク技術が次々と登場

 いまや10兆円産業といわれるコンビニ業界。各社が熾烈なサービス競争を展開する一方で、深刻な人手不足は依然、解消されていない。都心部では人員確保さえままならないなかで、問題解決に向けた取り組みが急務となっている。

 そこで始まったのが、ロボットやAIの活用。

 ローソンは今年、慶應義塾大学と共同で、無人ロボットを使った商品配達サービスの実証実験を始める。

 日本郵便も無人配送の実験を繰り返しており、実用化も遠くはなさそうだ。

「ドローンによる配達実験もすでに行われています」

 そう話すのは、雑誌『月刊コンビニ』編集長の毛利英昭さん。

「ローソンは山間地域や高齢者施設などへ車での移動販売を行っていますが、福島県南相馬市では'17年10月から、移動販売車に商品がない場合、店舗からドローンを飛ばして商品を届ける実験をしていました」

 ドローンによる実験はファミリーマートでも行っている。昨年12月に岡山県和気町で実施されたのは、10キロ先の地点まで約15分で荷物を配達するという試みだ。普段は自動車で運んでいる生活用品を、ドローンが川沿いを飛んで届けるという実験だった。

「実験中のものも含め、コンビニのサービスはこの30年間でめまぐるしく進化しました。“昔は宅配とコピーと写真の現像だけだった”なんて言われますが、現在どのくらいのサービスがあるのか把握しきれないほど。地方独自のサービスも生まれています」(毛利さん)

 コンビニ業界や飲食業界に詳しいライターの梅澤聡さんは、コンビニの進化を表す言葉として、ひとつのキーワードを掲げている。

決済は商品のバーコードを自分でスキャンするセルフ方式

「AIやロボットに任せられる部分は任せて、働く人の負担を減らし、効率を上げるという『省人化』の考えが広がってきています。セブン-イレブンでは日本初の顔認証決済ができる。まさに省人型店舗の代表例です」

顔認証機能が斬新かつ便利

 梅澤さんが教えてくれたのは、12月17日にオープンしたばかりの『セブン-イレブン三田国際ビル20F店』。この店を利用できるのは、同ビルに入っているNECグループの社員のみ。NECが顔認証実験とその運営を同時に行っている。

 社員の場合は社員証をスキャナーにかざして入店、事前に顔の登録をした従業員は、設置されたカメラの前に立つと顔認証されてドアが開く仕組み。決済方法はセルフ式。客は買いたい商品のバーコードをレジのスキャナーでピッピッと読み取るだけ。あとは顔認証か社員証で個人を特定すればOK。財布は不要で、料金は給料から天引きされる仕組みになっているそうだ。

 売り場面積は、26平方メートルとかなりコンパクト。しかし、取り扱い品目はお弁当やサンドイッチ、雑貨など400品目ある。実際に利用しているNECの社員によると、「顔認証がスムーズだし便利で使いやすい」と好評のようだ。

 モニター近くのカメラの前に立つと、顔画像から客の年齢・性別を推定し、おすすめの商品を表示してくれるというサービスもおもしろい。

レジのロボットが客の顔を認識して、おすすめ商品まで提案

 会社が高層ビルにある場合、エレベーターの乗り降りと移動だけで時間がかかってしまう。“ランチ難民”解消にもひと役買えるコンビニといえそうだ。

『セブン&アイHLDGS.』広報センターの戸田雄希さんは言う。

「こうしたコンパクトな省人型店舗は、高層ビルに限らず、例えば敷地の広い病院や工場、テーマパークなどにも向いていると思います」

 梅澤さんは、「このように客層を絞ったハイテクな店舗は今後のひとつの流れになるかもしれませんね」と、コンビニの将来を見据えている。

 新たな顧客獲得への動きも始まっている。他業種とのドッキング店舗である。

コインランドリーやジムとのコラボも

「ローソンが全国展開している『ケア(介護)ローソン』は、薬局や介護相談窓口を併設したコンビニです。一般的なコンビニの商品のほかに介護グッズが充実していて、今後、日本社会が高齢化していくなかで、地域に欠かせない拠点になるでしょうね」(毛利さん)

 '09年の薬事法(現・薬機法)改正以来、コンビニでも条件を満たせば一部、医薬品を販売できるようになり、「ドラッグストア+コンビニ」という店舗も各地で目につくようになった。

「おもしろいところでは、コインランドリーと合体した店舗も。その名も“ファミマランドリー”。待ち時間はコンビニのイートインスペースで過ごして、スマホで洗濯の進み具合も確認できるので便利。

 またファミマには、コンビニに24時間のフィットネスジムを併設した店舗もあります。深夜や早朝に通いたいという人もいますし、サプリなどをコンビニで売れば相乗効果も期待できるはず」(梅澤さん)

 地域に根づいた存在である点を活かし、“子ども食堂”の取り組みも行われている。

 ファミリーマートは今年3月から、全国2000店舗で『ファミマ子ども食堂』をスタートさせる。イートインスペースがある店舗で、地域の子どもや保護者を対象に弁当やデザート、飲み物を提供するほか、バックヤードの見学やレジ打ちなどの職場体験もできるという。

 これに先立ち昨年、東京・埼玉・神奈川の5店舗で試験的に開催したときには好評を集め、「仲よく話せてよかった」「学年を超えた交流が楽しめた」などの感想が参加した子どもたちから出たそうだ。そこで、この取り組みを全国に拡大し、地域の活性化につなげることを目標に掲げている。

 全国津々浦々に5万5000店舗以上あり、そのほとんどが24時間オープンというコンビニに“社会インフラ”としての機能を期待する声も大きい。昨年夏の西日本豪雨の際にはコンビニが食料配給の拠点になっていたのも記憶に新しい。

 また最近は、コンビニのイートインスペースが地域の“井戸端スペース”になっているのもよく見かける。利用者として気になるのは、今年10月に予定されている消費増税の際、イートインが軽減税率の対象になるかどうかではないだろうか。8%か10%か。たとえ2%の増税であっても家計への負担は大きい。税率の行方次第で、未来のコンビニのあり方まで変わっていくかもしれない。


《識者PROFILE》
梅澤聡さん ◎ライター、フリー編集者。コンビニ業界や飲食業界をテーマに執筆・編集を続ける

毛利英昭さん ◎『月刊コンビニ』『月刊飲食店経営』編集長。コンサル業務を通じて食品産業との関わりも深い