テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふと、その部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)

左上から時計回りに、山口紗弥加、北川景子、高橋メアリージュン、永作博美、野波麻帆

オンナアラート #26 論破する女

 自分の意見をハッキリと言う女、矛盾や間違いを指摘して論破する女。そういう女は「モテないし、男性から敬遠される」という悪しき刷り込みを打破したい。

 いや、もちろん言い方の問題もある。傍若無人に振る舞い、人の意見を一切受け付けないというのは、それはそれで感じが悪いし、鼻つまみ者になってしまうからだ。かといって、「モテるためには空気読んで角を立てずにうまくやれ」というのも、暴論だと思う。

 今期のドラマを俯瞰で眺めていると、そこがくっきり分かれたような気もする。各局横断、主要女優(ヒロイン)比べをしてみた。アラート+アラモードでお届けします。

論破する女が好きな男もいる

 人の意見に左右されず、嫌われることも厭わず、わが道を突き進むヒロインモノは、ここ数年でも多発しており、手あかのついた題材ではある。

 でも、たいがいが男性からは敬遠され、恋愛と無縁のカタブツに仕上げられがちだ。あるいは過去の不幸が暗く影を落としている……みたいな。傍若無人には理由がある、と同情を誘う阿漕な手法ね。

 一見、その手のヒロインに見えるのが『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系・毎週水曜夜10時)の北川景子だ。不動産営業で辣腕(らつわん)をふるう変わり者の女性で、人使いも荒いし、ゆるふわな頭の部下ややる気のない上司を徹底的に論破する。家を売り、営業成績を上げることしか考えていないし、甘えや怠惰を許さない。

 が、シーズン1とスペシャルドラマ版を経て、北川は課長の仲村トオルと結婚している。家事を完璧にこなし、夫婦生活も自分からきっちり求めて、たぶんそれなりに営んでいる。

 論破しまくりで変人扱いされている北川に、少なからず惚(ほ)れこんだ男がいるわけだ。直属の部下である工藤阿須加も、北川をひとりの女性として尊敬している。論破する女は「怖い・生意気・息苦しい」という考え方は薄まり、畏敬の念と好意を抱く男性も存在することを証明している。

 もう一例。『みかづき』(NHK総合・毎週土曜夜9時)では、やり手の学習塾経営者を永作博美が演じている。猪突猛進タイプで、塾講師から塾経営者へと、手広くビジネスを展開した女性だ。

 国の教育方針を敵視し、かみつき、子供の教育に新風を吹き込もうと奮闘。自分の信念を貫き、周囲を巻き込んでいくわけだが、そんな永作に惚れこんだのが、小学校の用務員だった高橋一生だ。永作の野望にうっかり巻き込まれた形ではあるが、永作に深い愛情を抱いている。

 つまり、論破する女、意見を言う女が「モテない・敬遠される」のではない。モテないし、話もつまらないくせに論破されることを好まない、僻み根性の発達した男性がそう思いたいだけ。そんな刷り込みというか、呪いの言葉に女性たちも惑わされてはいけない。

 たぶん、「論破されたい」というか「はっきり意見を言ってほしい」男性も、実は多いのではないか。

 何を話しても反論せず、持論もなく、何も考えずにすべてにゆるく相づちを打たれても、虚しいだけではないか。そんな男性たちの声もすくい取ったようなヒロイン像。ゆるふわ・てへペロのドジっ娘が通じない世の中になりつつあるのは大歓迎だ。

真逆の指南でモヤモヤ

 ところが、だ。ゆるふわ・テヘペロテロリストの暗躍を苦々しく思う私としては、ここでアラートを鳴らしておかねばなるまい。そもそものコンセプトとタイトルが大炎上した『人生が楽しくなる幸せの法則』(読売テレビ・日本テレビ系・毎週木曜夜11時59分)と、『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系・毎週木曜夜9時)である。

『人生が楽しくなる幸せの法則』は、ちょうどいいブスを目指すというトンデモ指南で、3人の女性が羽を折られていく内容だ。なかでも高橋メアリージュンが不憫(ふびん)でならない。

 仕事をきっちりこなし、ミスや間違いはきっちり糾弾する。融通はきかないけれど、おかしいことはおかしいと声に出す、素晴らしい女性じゃないかと思っていたのだが、ちょうどいいブスの神様(山崎ケイ)はそこを直せという。

 つっけんどんな物言いは確かに空気を凍らせるが、メアリージュンはちょうどいいブスを目指さなくてもいいと思う。

 焦ったり困惑すると、武士のような言葉遣い(かたじけない、など)になるのも可愛いし、相手によって使い分ければいいだけのこと。仕事を押し付けてくる割に文句ばかり言う人には、毅然(きぜん)とした態度で挑む&拒むべきだし、長い目で見ればその人の成長にもつながるはず。なのに、メアリージュンにゆるふわ・テヘペロを強制するなんて言語道断。アラートである。

『ハケン占い師アタル』では、メアリージュンと似た感じの女性を、野波麻帆が演じている。仕事はきっちりこなし、定時で帰る。指示にはいちいち反論し、無駄な業務を一切受け付けず。

 母が亡くなり、失業中の父とニートの弟の面倒を見ながら、家のローンを払っているという頑張り屋の女性だ。そら、愛想もなくなるわな。主人公で占い師の杉咲花のお見立てでは「不幸や不公平を呪ってるだけで他力本願だ」という。

 愛想がなくても仕事をきっちりこなす女性たちに、なぜよってたかって「可愛げ」を盛り込もうとするのか。無愛想または無神経な男性には周囲が優しく見守ってあげることを強要し、無愛想な女性は頭ごなしに変えようとする。それこそ激しくオンナアラートだ。

 と思っていたら、超ド級の論破ヒロインが登場した。

『絶対正義』(東海テレビ・フジテレビ系・毎週土曜夜11時40分)の山口紗弥加である。「私、なにか間違ったこと言ってる?」を脅し文句に、問答無用の勧善懲悪を振りかざして、友人であろうとなかろうと、ガッツガツ成敗していく。

 いや、もう、ここまでくると、サイコパス(?)なわけで。ここで一緒にしちゃいけない案件、ともいえる。

「論破する女性=ロンパーウーマン」については、今一度考えてみたいところである。間違ったことを言っている人に、仕事を押し付けてくる人に、つまらない自慢話を延々としてくる人に、「女の人はこうあるべき」を押し付けてくる人に、ロンパーウーマンは、ぜひありのままの姿で闘ってほしいと思う。

 でも、モテないだの男日照りだの不幸だのと、ステレオタイプに描いてほしくもない。ロンパーウーマンがもっと良き形で活躍するドラマがたくさん作られますように。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、産まないことは「逃げ」ですか?』などがある。twitter @yoshidaushio