’13年にそば店『泰尚』で悪ふざけをした男子学生。

「怖くて一歩も外に出られないということで、そうとう憔悴していたと聞いています」

 かつて、アルバイトによる不適切投稿の被害にあったステーキハウス『ブロンコビリー』の広報担当者がアルバイト店員のその後を明かした。

内定取り消しのケースも

 若者のバイトによる不適切動画投稿が相次いでいる。

店頭販売するおでんのしらたきを口に含み、熱くて吐き出した

 回転寿司チェーン・くら寿司ではゴミ箱に捨てた魚をまな板に戻し、セブン-イレブンではおでんのしらたきを吐き出す、ファミリーマートでは商品のペットボトルのフタをなめるなど、次から次へとアルバイト店員による“おふざけ動画”が投稿され瞬く間に炎上し、各企業が正式に謝罪文を発表する事態に。

「このような動画はインスタグラムのストーリーという機能を使って投稿されたものです。ストーリーとは24時間で消えることが特徴なので気軽に身内にウケることを目的に投稿してしまうわけです」

 と、ITジャーナリストの渋井哲也さんが解説する。身内だけに向けたウケ狙い動画がなぜ拡散されたのか。

「ネットでは不適切な動画を見つけて炎上させることを目的とした“特定班”と呼ばれる人たちがいます。彼らはストーリーで不適切な動画をダウンロードし、ツイッターなどで拡散させ炎上させていくのです。スクープ合戦を楽しんでいるのでしょう」(同)

 ネットの特定班による“犯人さらし”により、投稿者の実名はもちろん、出身中学や高校、現在通っている大学・専門学校までが瞬く間にさらされ、それはネット上に半永久的に残る。

「就職が決まっていたのに就職先に苦情が殺到し、内定が取り消されたケースもあります」(前出、渋井さん)

 過去に不適切画像を投稿し、大炎上したバイトたちのその後を追ってみると──。

 '13年8月5日、『ブロンコビリー足立梅島店』のアルバイト店員のAくん(当時18)が店の冷蔵庫に入り込む写真をツイッターにアップした。

1枚の画像が1週間で店をつぶした

’13年にブロンコビリーの冷蔵庫に入ったAくん

 この投稿は瞬く間に炎上し、翌6日に店は休業。ブロンコビリーは足立梅島店との契約を解除し、同12日に足立梅島店は閉店した。1枚の画像がひとつの店をたった1週間でつぶしたのだ。

「(画像が投稿された)翌日には電話は鳴りやまずメールも相当数きました。“何やっているんだ、不衛生じゃないか”というお叱りの声がほとんどでした。苦情は5センチくらいの分厚いファイルいっぱいにたまりました」(ブロンコビリー広報)

 企業側は損害賠償を検討していることを発表。厳しい措置にネット住民たちの溜飲が下がったのか騒動は収束していった。しかし、当事者であるAくんはすっかり怯えてしまったのだという。

「Aくんは保育士になるために専門学校に通っていたんですが、その学校名や連絡先までさらされて学校にも“あんな男を保育士にするのか”などと電話がくる始末。すっかり引きこもってしまい、“外を歩くのが怖い”などと言っていたそうです」(当時を知る関係者)

 Aくんのツイッターには、騒動から約1か月たった9月15日に、《許してください。死ぬまで許してください》(原文ママ)と投稿され、'14年2月に、《一文無しもすぐそこ》(同)というつぶやきを最後に投稿はストップしている。

 Aくんの投稿が大炎上する1か月ほど前、東京都多摩市のそば店『泰尚』ではアルバイトの多摩大学の学生たちが度を越した悪ふざけ画像を投稿しバカ騒ぎしていた。

「厨房内の食洗器に足を入れたり、胸に店の茶碗を当てていたり、不快な画像のオンパレードでした」(渋井さん) 

 こちらも漏れなく炎上し「不潔だ」というクレームが店に相次いだ。

 店主の小川純子さん(59)が当時の被害を語る。

「炎上した翌日お店に行くともう電話はやまない状態でした。着信ナンバーを見ると全国から野次馬のごとく電話がかかっていることがわかりました。常連さんからもお叱りの声を受けました。“あの写真を見た。不衛生じゃないか。お金を返してほしい”と言われました」

最後まで謝罪の言葉はなし

くら寿司の店員は魚をゴミ箱へ捨てたあと拾い上げてまな板の上に

 泰尚は前代表の小川泰司さんが'84年に創業、最盛期には、町田市、多摩市で3店舗を営業し、多いときには1億円以上の売り上げも計上していた。

 しかし、不適切投稿の前年に泰司さんは死去。純子夫人が経営を引き継ぎ、店舗を1店に縮小し再建をはかる途上で、バイトによるおふざけ投稿が起きたのだ。

「私はまず主犯格の男の子を呼びました。なんでこんなことをしたのか聞いても、下を向いてスマホをいじっていました。もう何を言っても駄目だなと思いましたね」

 反省の色がまるでない様子に、純子さんはあきれたという。

 投稿の約3か月後、店は閉店に追い込まれ破産。当時の負債は3300万円。ツイッター投稿が破産の引き金になったことは明らかだった。

 純子夫人側はアルバイト従業員の多摩大生たちに計1385万円の損害賠償を請求する裁判を起こし、約200万円で和解になったという。

股間におたまを近づけたすき家の店員はクビだけではすまず……

「裁判所がそろそろ和解したらどうかということで、金銭的には要求した10分の1ほどでした。最後まで謝罪は聞けませんでしたね」

 店を破産まで追い込んだにもかかわらず、騒動から6年たった今も本人からの謝罪はないという。

 '13年にバカ投稿が多発し、6年後の今また復活している理由を渋井さんが解説する。

「'13 年当時は中高生にツイッターが普及したタイミングでした。ツイッター自体は'10年にはありましたが、中高生に流行り始めるタイミングで騒動が起きるんです。そういう意味でいうと、今はちょうどインスタグラムが中高生に普及し、流行っているタイミングですので、このような投稿が相次いでいるのでしょう。

 おそらく、次に新しいメディアが中高生に普及するまでは(おバカ投稿は)いったん落ち着くと思いますよ」

 「歴史は繰り返す」と、ローマの歴史家クルティウス・ルーフスの言葉があるが、時代を超え、世界が違ってもその真理は的を射ていた。