農業発信ガールズがコンセプトのグループで活躍していた萌景さん

 昨年3月21日、愛媛県を拠点に活動する農業アイドル『愛の葉Girls』のメンバーだった大本萌景(ほのか)さん(当時16)が自殺。原因が所属事務所『Hプロジェクト』による“パワハラ”や“過重労働”だったとして、遺族側が原告となり約9200万円の損害賠償を求める裁判が始まった。

反論する被告人側の意見

「2月18日に第1回口頭弁論が東京地裁で行われ、被告となる所属事務所側は争う姿勢を見せました。原告側は'17年ごろから、事務所が1日平均10時間以上の拘束などの過重労働があったと主張しています。

 また、萌景さんが事務所脱退の意向を伝えると、『LINE』で《次また寝ぼけた事言いだしたらマジでブン殴る》などの威圧的なメッセージがスタッフである社員Aから送られたとのこと。さらに、高校の進学費用12万円を事務所から借りる予定だったものの撤回され、その夜に“辞めるなら1億円を支払え”と言われたことで、精神的に追いつめられて自殺に至ったと説明しています」(全国紙社会部記者)

 しかし、被告側の代理人である渥美陽子弁護士は、まず「拘束時間」について、次のように反論する。

“平均的に10時間以上の拘束”はなかったと認識しています。例えば、3時間のイベントあとに数時間の休憩があり、また3時間のイベントがあった日も、10時間の拘束があったという主張を原告側はしています。“拘束時間”の中には、移動やそのための待機の時間も含まれています。

 ほかのメンバーの親は送り迎えをしていましたが、萌景さんの両親はそうではなかったために、特別に、事務所のスタッフが社用車で送迎していたのです。“午前4時半から午前2時まで拘束されていた”という主張も、別の日の別のイベントの話をつなぎ合わせたものです」

 さらに、事務所の社員Aが送ったという威圧的なメッセージについては、

《マジでブン殴る》のメッセージには顔文字がついていますし、直後に萌景さんが“あっかんべー”をする写真を送っています。萌景さんが学校に行きたいと打診した際の《お前の感想はいらん》からの一連のやりとりでも、社長に相談するようにすすめられた結果、萌景さんは学校に行けています。

 一見厳しい言葉を使うこともありましたが、グループのリーダーであるアイドルとしての自覚を持つべきことを、丁寧に伝えてあげてもいます。前後のやりとりを読んだあとでも、LINEのメッセージがパワハラで、これを理由に自殺したなどと言えるのでしょうか」

 この主張に、遺族弁護団は真っ向から対立する。

「社員Aと萌景さんとの関係が兄妹のようだった、などということはまったくありえません。“あっかんべー”写真は、萌景さんから社員Aに対して、缶バッジ用の素材写真を送ったものです。決して冗談で写真を送ったのではありません」

 このときのやりとりについて、遺族弁護団は次のように説明する。

 社員Aが(1)《マジでブン殴る》というメッセージ送信後、萌景さんから社員Aに対して30秒、(3)1分53秒と、2回の通話をした。そのあと、(4)萌景さんが“あっかんべー”写真を送信して、最後に(5)《これでよろしくお願い致します!》というメッセージを送信している。

 つまり、(2)と(3)において、社員Aから缶バッジ用の素材写真を送るように電話で指示があり、通話終了後に萌景さんが(4)の写真を事務的に送信して、最後に(5)のメッセージを送っただけというのだ。

事務所スタッフが威圧的だと原告側が主張するLINEのメッセージ
事務所スタッフが威圧的だと原告側が主張するLINEのメッセージと、直後に萌景さんが送った“あっかんべー写真”

 一方で、萌景さんはもともと、通信制の高校に在籍するも、希望していたカリキュラムではなかったことから退学。改めて、全日制の高校を受験して見事合格し、'18年4月に入学するための費用を事務所から借りる約束をしていた。

 しかし、お金を借りる予定だった'18年3月20日に事務所を訪れた萌景さんと母親は、スタッフからその場でお金を渡すことを拒まれてしまい、帰宅することに。

 ただ、渥美弁護士によると、彼女が事務所を訪れる直前、こんな出来事が。

12万円を貸し付ける約束の当日朝、“最近、萌景が夜10時になっても帰ってこないし、態度が悪くて困っているのですが、私の言うことは聞かなくて”と萌景さんの母親から言われたスタッフが“それなら、私から注意しましょうか”と返しました。

 萌景さんと母親が事務所に来た際に“お母さんから聞いているよ。社長はそんな萌景ちゃんにお金を貸そうと思っているわけじゃない”と、説教しました。そして“今の萌景ちゃんには貸せないから、よく考えて本日中に社長に連絡してください”と伝えて、いったん家に帰したんです」

 この場面でも再び、原告側との認識が大きく食い違う。

「12万円を“いったん”渡さなかったという前提が異なります。萌景さんと母親は、12万円の貸し付け撤回を確定的な決定として受け止めました。だからこそ、萌景さんは、事務所からの帰り道で自殺する方法をスマホで検索するに至っており、壮絶な衝撃をもって受け止めていたことが推測されます。

 そして、当日の夜に社員Bがお金を用意していたということを、母親は聞いておりますが、萌景さんは聞いておりません。母親は、社員Bから“萌景さんには言わないように”と口止めされていたのです」(遺族弁護団)

 入学金の貸し付け撤回に加えて、この夜に萌景さんが事務所社長から電話での「辞めるなら1億円払え」という発言が、自殺に至った原因だと遺族弁護団は主張する。その経緯は、20日の夜、社員Bから母親を経由して、萌景さんに「社長に電話するように」と伝えられていた。

飛び出した新情報

 渥美弁護士は、この際に原告側が訴えている「1億円払え」発言は事実無根だとしながら、むしろ、社員Bから12万円を受け取っていた社長は「今からお金を持って行くよ」と萌景さんに伝えたものの、萌景さんから「お母さんと話して、高校に行くのはやめました」という発言があったと主張していて、事態は“混沌”としている。

 さらに渥美弁護士は、この日の夜に社長と電話していた萌景さんは、自宅ではない“意外な場所”にいたと話す。

実は、20日の夜に萌景さんは当時交際していた彼氏の自宅に泊まっています。社長から“辞めるなら1億円払え”と言われたと証言しているのは、その彼氏です。というのも、萌景さんは彼氏と一緒に高校に進学する予定で、翌21日にはその高校の新入生説明会がありました。

 萌景さんは、彼の家に泊まり、翌朝、一緒に説明会に行く予定だったのだと思います。しかし、彼女は進学をあきらめてしまっていた。21日の朝、彼氏は母親の運転する車で説明会に向かい、ついでに彼女を自宅まで送っていた。その車内で“社長から1億円払えと言われた”という発言を聞いたと、彼氏が証言しているのです

 そんな彼氏の証言について、遺族弁護団の見解は、「原告側としては、当該証言は具体的であり、意図的に虚偽の発言をする理由もなく、信用性があると考えております」というものだった。

 予測ができない裁判の行方は、萌景さんが頼っていたであろう“彼氏の存在”が、真相に迫る鍵になるのかもしれない─。