新年度から有給消化が義務付けられます。企業側は有給をどう管理すべきなのか、詳しいルールを見てみましょう

 3年連続で有給取得率が世界最低の日本(エクスペディア・ジャパン調べ)。政府は年次有給休暇の取得率を2020年までに70%とする目標を掲げているものの、2017年の取得率は51.1%と、依然として大幅なかい離がみられます。 

 そうしたなか、2019年4月から労基法改正による5日間の有給取得義務制度がスタートします。『ゼロからスタート! 澤井清治の社労士1冊目の教科書』の著者でLEC東京リーガルマインド専任講師・社会保険労務士の澤井清治氏が解説します。

ここが変わる!「有給消化のルール」

 みなさんは「年次有給休暇の新ルール」をご存じでしょうか。今年2019年4月1日から、年次有給休暇が10日以上発生した社員について、会社は発生日から1年の間に最低でも5日間の有給休暇を消化させなければならなくなります。

 もし、消化させることができなかった場合には、罰則があります。会社は労働基準法違反として30万円以下の罰金刑の対象となるのです。ですから、会社としては有給休暇を取得していない社員に対して会社が「日付を指定して強制的に休ませる」ことになります。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 厚生労働省の「就労条件総合調査」によれば、2016年の1年間に企業が付与した年次有給休暇の1人平均は18.2日、そのうち労働者が取得した日数は9日。取得率は わずか49.4%です。

 取得率が最も高いのは複合サービス事業(郵便局や農協など)で64.6%。最も低いのは宿泊業、飲食サービス業で32.8%となっています。有給休暇の取りづらさは事業内容などにもよるでしょうが、それでも国が定めた今回のルールを守らないわけにはいきません。有給休暇が取りづらい雰囲気の職場では、“強制5日取得制度”の開始は朗報といえるでしょう。

 逆に、忙しさなどを理由に有給を取りたくないと、自ら取らずにいた人にも影響は及びます。発生から11カ月を経過した時点でまったく消化していない場合は、最終月の12カ月目がどんなに忙しくとも5日間の消化が義務となります。年度末の「仕事の予定」や「目標の達成」にも影響が出てくる可能性があり、自らその分休むことを見込んでおく必要があります。

 その年次有給休暇はどのタイミングで発生し、どう計算するのでしょうか。ここで、その基本に触れておきたいと思います。

 年次有給休暇の日数は、大まかに「正社員」と「パート社員」とで異なります。まず正社員の場合。通常雇入れから6カ月間継続して勤務して、全労働日(出勤義務のある日)の8割以上出勤した場合に、10日間発生します。さらに、その後1年度ごとに8割出勤を満たせばその都度発生し、6年6カ月で最高の20日の有給休暇が生まれます。

 パート社員の場合はどうでしょうか。正社員より少ないと思う人もいるかもしれませんが、実は週5日以上の労働日であれば正社員と同じ日数が発生します。有給は労働日数によって決まるためです。週5日間、1日1時間だけ勤務しているパート社員の場合であっても、全労働日の8割以上の出勤を満たした場合、正社員と同じく10日の有給休暇が発生するのです。

 ただし、これは労働日数次第となります。週の所定労働日数が4日以下で、かつ、週の労働時間が30時間未満のパート社員については、付与日数が比例的に少なくなります。これを「比例付与」といいます。

 週に1日だけ勤務しているパート社員の場合、もちろん年次有給休暇は発生しますが、比例付与に該当します。例えば、週1日勤務で6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上の出勤を満たした場合だと、6カ月後に1日の年次有給休暇が発生することになります。

 次に、年次有給休暇の「取り方」について、よくある疑問について取り上げたいと思います。

 ひとつは、年次有給休暇をいつ取るかということです。実は、年次有給休暇の日程を、指定している会社もあります。この扱いを法律上は「計画的付与」といいます。

 計画的付与は、会社と労働者の代表が協定を結ぶことで成立します。その方法には、

(1)会社全体でゴールデンウィークの中日などを一斉消化日とする一斉付与方式

(2)社員を班・グループに分けて、各班・グループごとに決められた休暇を取得する交替制付与方式

(3)社員個人が誕生日や結婚記念日、年末年始といった個人的な記念日に基づいて有給休暇付与計画表を作り、計画表に従って消化していく個人別付与方式

 などがあります。

 計画的付与の対象となる日数は、個人の持ち日数の5日を超える部分となります。個人の権利として最低5日は残しておかなければなりません。計画的付与によって成立した日程は、労働者の都合や会社側の都合によって変更することはできないことになります。

部下に有給取得の目的を聞くのはNG

 また、年次有給休暇を取得する際、申請用紙に「利用目的」を記入するという会社があります。また、忙しい部署では、上司が「その有給休暇、何に使うの?」などと聞いてくる場合もあります。

 例えば、大好きアイドルユニットのレアな握手会がたまたま地方であり、何とかして行きたいと考えた場合、職場で言いづらいので、つい「親戚の法事」などと、適当な理由を伝えた経験がある方も多いと思います。

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 しかし、年次有給休暇を何に使うかは、使用者が干渉するべきことではありません。これについては最高裁判所の判例(弘前電報電話局事件)でも明確に示されています。

 この事件では成田空港反対現地集会に参加して、違法行為に及ぶ恐れがある従業員に対して、そのことをもって有給休暇を認めなかったという事例です。

 これは、年次有給休暇の利用目的から逆算して、当該日の有給休暇の取得を承認することとなり、許されることではないのです。

 つまり、年次有給休暇の取得目的を具体的に記入させることは法律の趣旨からいえば、たとえそれが便宜上の要請からだとしてもあまりよいこととはいえません。

 ましてや、上司が部下の年次有給休暇の「利用目的を聞いたうえでその取得を承認」するようなやり方があるとしたら、明らかに法律違反であるといえます。年次有給休暇をどのような目的で利用しても、使用者(会社)はそれについては干渉してはならないのです。

 以上、年次有給休暇の発生、そして取り方についてご紹介しました。有給が取りたいのに取れないと嘆く人が、しっかり取れるようになることを祈っています。


澤井 清治(さわい きよはる)◎特定社会保険労務士 LEC東京リーガルマインド講師、人事総務スキルアップ検定協会代表理事。2000年に社労士資格を取得。営業職から未経験で社労士事務所を開業し、同時に講師業をスタートする。LEC東京リーガルマインドでは10年以上登壇。「自分の将来を真剣に考える人」を応援することを使命とし、笑いと涙の感動トークで通信・通学を問わず受講生を励まし、モチベーションを上げる講義を展開している。