(左から)世間を揺るがす騒動を起こしたピエール瀧容疑者と新井浩文被告

 活躍中の芸能人が逮捕されると、必ず言及されるのが各方面に対する影響ならびに損害賠償金の額。

 ピエール瀧容疑者の場合も、関係各所はその対応に大わらわなのは想像にかたくない。もともとミュージシャンではあるが、マルチな才能を発揮し、最近では役者としての活躍のほうが目立っている。

 出演したドラマや映画は数多く、現在も放送中の大河ドラマ『いだてん』があり、公開予定だった映画は4本。

 ドラマは撮影を終えているものに関しては俳優を差し替えて撮り直し、再編集することになるという。問題は映画だ。

 ドラマは、スポンサーの関係だったり、誰でも視聴できる状態であるため自粛となるのはわかるが、映画やDVDは見たい人だけがお金を支払って見ることができるモノ。

 なぜ、公開延期や発売中止にせざるをえないのか。ひと言でいうならコンプライアンスだ。映画会社も、映画製作に出資している会社も上場している企業が多いから、犯罪者が出演するということがコンプライアンス上、好ましくないということ。

さまざまな人たちの声が届いて

 さらに、シネコンなど商業施設に入っている映画館などでは、ポスターを貼ることができないし、テレビでも予告編を流せず、雑誌に広告を載せることも難しい。いっさいの宣伝活動が制限され、公開しても集客が見込めない。

 客が入らなければ、製作費をペイすることはできない。それなら公開を中止にして、そのぶんの違約金を請求したほうがいいだろう。

 あらかじめ予算がある場合なら、俳優を差し替えて、出演シーンだけ撮り直して作品を完成させることもできる。しかし、低予算で製作している作品では、撮り直す余裕がない場合もある。公開は中止せざるをえなくなるだろう。

 しかし、前述したような「自分でお金を払って見に行く映画の中止は、必要ないのでは?」との声が映画ファンや有識者も含め、増えてきているのは事実。

 そんな声が届いたのか、瀧容疑者も出演している4月公開予定の『麻雀放浪記2020』は予定どおり公開されるという。

 映画配給会社社員は言う。

「そういう声が増えてきて、確かに流れは変わってきています。しかし、上場企業のコンプライアンスへの考え方は変わっていないので、大手企業が参画した作品はまだ厳しい点が残っています。しかし、今回は薬物犯罪ということで、明確な被害者が存在しない、ということが公開につながったんじゃないでしょうか

 たしかに、映画『空中庭園』('05年)のときも、監督が覚せい剤取締法違反で公開直前に逮捕されたが、公開規模を縮小して劇場公開にこぎつけたという事例がある。

 それに対し、性犯罪がらみの騒動を起こした新井浩文被告や高畑裕太(のちに不起訴)のケースは明らかに被害者が存在している。

 被害者の心情を考えると、公開を控えなければならないのだろう。年内に公開される予定だった新井の出演作『善悪の屑』は公開中止が決定している。

 しかし、どうも線引きが曖昧だ。

 瀧容疑者が所属する音楽ユニット『電気グルーヴ』の楽曲CDの販売や配信も停止された。これには、あの坂本龍一も「何のための自粛ですか(中略)音楽に罪はない」と発言し、賛同の声があがっている。

 過去を顧みれば槇原敬之も'99年に覚せい剤取締法違反の罪で逮捕され、懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を受けている。しかし、彼が作詞・作曲したSMAPの『世界に一つだけの花』はその執行猶予中にリリースされ、現在も国民的楽曲として親しまれている。そのような例もあるのだが──。

 映画と音楽は一概に同じ扱いはできないが、はたして“自粛の線引き”はどこにあるのだろうか。これだけコンプライアンスがうたわれる時代、昔とくらべて芸能界を取り巻く状況は大きく変わってきている。

<芸能ジャーナリスト・佐々木博之>
◎元フライデー記者。現在も週刊誌等で取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。