いまや「Twitterは代替不能なインフラ」になっている。写真はTwitter Japanのエレベーターホールにある寄せ木細工のロゴ(筆者撮影)

 Twitterはすでに、スマートフォンユーザーの多くにとって「当たり前のアプリ」になりつつある。現在の最新のニュースが得られるだけでなく、友人との体験の共有、そしてさまざまな議論が飛び交う「場」として機能している。日本のユーザーは4500万人に上る。

いまやTwitterは「代替不能なインフラ」に

 確かにSNSの中では成長性やユーザー数の面で派手さはないかもしれない。しかし筆者はアメリカ生活の中で、他のSNSとは異なり、Twitterが代替できないインフラであるという気づきを得た。

 日本と同様に、アメリカでも事件や事故が起きると、警察や消防、報道のヘリコプターが飛ぶ。つまり、近所でそうした事件に巻き込まれる可能性があり、「いったい何が起きているのか」を調べる方法はTwitterしかないのだ。

 アメリカには銃があり、Twitterでの近所の検索は命を落とすリスクを避ける手段になる。しかし他のSNSではそうした検索ができなかった。その点からアメリカでも「Twitterは代替不能なインフラ」になっていると感じた。

 そんなTwitterも成長のペースを取り戻している。直近の2018年第4四半期決算は7億9100万ドル(およそ882億円)。前年同期比で23%増加した。営業利益は88%増の2億700万ドル(およそ231億円)だった。日本での売り上げは特に好調だという。

 そんなTwitterの日本での取り組みについて、Twitter Japan代表取締役の笹本裕氏に話を聞いた。

Twitter Japan代表取締役の笹本裕氏(写真:Twitter Japan)

 笹本氏は5年前にTwitter Japanに入社しているが、昨今の認知度向上に改めて感慨を覚えるという。当時日本のオフィスがあることも知られておらず、社員数も現在の7分の1にすぎなかった。最近ではテレビCMや電車内の動画広告などを展開しており、テクノロジー系で活躍してきた広報のベテランを雇用しており、マーケティング体制を強化してきた。

「Twitterの利用者拡大が目的です。現在日本のTwitter人口は10~20代に広がっていましたが、30~40代に伸びしろがあることがわかりました。テレビCMはそうした方々に対して、いろいろな声を生活の中で生かすシーンをご紹介しました。

 おかげさまで30代がユーザーの平均になってきており、プラットフォームとしてバランスが取れるようになりました。引き続き10代では9割の占有率を誇り、依然として若い人の関心を失わずに推移しています」(笹本氏)

日本が牽引する部分、さらに開拓できる部分

 Twitterのグローバルでの月間ユーザー数は3億2100万人だが、その中で日本のユーザー数は先述の通り4500万人となっており、日本のTwitterにおける勢力の大きさがうかがえる。Twitterは2018年に通期で黒字化を達成したが、日本が真っ先に黒字化して全体の収益を押し上げてきた経緯がある。笹本氏によると、収益面では日本は17%を占める。

「Twitter本社からも、日本市場への興味関心は非常に高い状態です。利用者の動向では、なぜこんなに日本で利用されているのか。またビジネス面ではなぜ収益が伸び始めたのか。その答えは、スマートフォンで過ごす時間は圧倒的に長くなる中で、『スマホのマスメディア』になれたことはありがたい点です。滞在時間、滞在回数が多いところに広告が集まりますが、この2~3年の間に非常に加速した、という印象です」(笹本氏)

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 Twitterは、日本のユーザーの先進性を認識しているという。例えば検索なども、世界に比べて日本の方が活発に活用されているし、災害対策などでも進んでいる。日本のユーザーの利用方法やニーズは、比較的早く実装されることが多いというのだ。例えばツイートを保存する機能も、日本のユーザーが「いいね」をブックマーク代わりに使っていたことから実装されたという。

 世界的に注目される成長を遂げているが、笹本氏はまだまだ伸びると野心的だ。それはTwitterの企業側、メディア側の活用度合いが、アメリカに比べてまだ消極的だからだ。

「アメリカでは、記者がTwitterアカウントを持ち、画面に個人のアカウントが表示されて視聴者に直接ニュースを届けるようになりました。日本でも、Financial Timesを買収した日本経済新聞が積極的に取り組んでおり、記者の目線が出てくるようになりました。日本のメディアでも、記者がメディアになっていくようになるでしょう。

 日本のメディア対応はこの1年、特に力を入れており、Twitterへのご理解の広がりも体験しています。テレビと相性がよく、視聴者との距離感を縮める役割があると思います」(笹本氏)

 ビジネス面での成長性を維持している日本におけるTwitterだが、一方でさまざまな問題も起きている。例えばヘイトスピーチの問題や、自殺願望の投稿、いわゆる「バイトテロ」のように、Twitterを使う個人や企業が恐れを抱く場面も珍しくなくなった。特に今年は夏に選挙があり、Twitterのネイティブ世代である18歳も選挙活動や投票にやってくる。また2020年のオリンピックも控える。これらの問題の解決の糸口について聞いた。

「基本的にはTwitterのポリシーが基準になります。その一方で、場としての健全性を維持することも重要です。例えば2年前の座間の事件で、自殺願望者の声をどうするか議論になりました。そうした声を閉ざすこともできますが、より適切な人に届ける方法を考えることも対策になります。

 自殺関連のキーワードの検出(キーワードの発見や通報を受けると支援団体を紹介するという対応)は、日本が世界に先駆けて行うようにしました。世の中のいい部分も悪い部分も投影しているのがTwitterの現在といえます。そこに注目してサービスを進化させていく意味で、日本に注目しているのです」(笹本氏)

 またバイトテロの助長も広げたくないとする笹本氏。その対策として、企業や経営者が自分の声で情報を発信し、顧客とコミュニケーションを取っておくことが重要だという。

 自分の言葉に責任を持ち、お互いの理解を含める努力をすることが秘訣で、Twitterもそうした声を集められるようにする意味で、「検索」機能の強化に取り組んでいくという。先述のようにツイートの検索は日本市場の特徴でもあり、ここでも日本の使われ方から機能が作られようとしていた。

日本で社会のインフラ化をするには?

 言葉に対してより敏感で、140文字で他の言語より多くを伝える事ができる日本語は、Twitter活用の基盤となった。

 しかし現在、コミュニケーションは動画やライブビデオへと移っており、よりライブ性がある情報をTwitterで消費する世界が待ち受けている。そうした中で気になるのが、プライバシーの問題だ。特に2018年は、Facebookのユーザー情報の流用が大きな問題として取り沙汰された経緯もある。この点について聞いた。

「個人情報はTwitterの問題意識の中では一丁目一番地で、死活問題として捉えています。公開している場、自由に発信している場という点で、その重要性はひときわ高い。情報の開示についても、原則として捜査令状や裁判所命令がなければ行いません。

 その一方で、災害や事件・事故などで緊急性のある場合については、その都度レビューして柔軟に対応する体制を整えていますし、2年前から問題を検出するアルゴリズムの開発に力を入れてきました。

 Twitterも広告ビジネスを行っていますが、他のSNSと根本的に異なる点は、個人をデモグラフィックではなく、インタレストでターゲットしている点です。つまり、住んでいる場所や年齢、性別などの個人情報はなく、フォローや発言など興味を反映するTwitter上の活動でターゲットしています」(笹本氏)

 また、企業に対する活用の啓蒙だけでなく、政党や地方自治体、官公庁に対しても、Twitter活用のサポートを他のSNS企業とともに取り組んでいるそうだ。

 例えば内閣官房や東京都消防庁がTwitterアカウントを運用しており、最新の災害情報等についての情報を発信している。これも、東日本大震災の時に起きたデマの問題に対処する方法として、「公式情報」がTwitterの場に上がってくることの重要性を反映している。

「愛知県警は、援助交際を募集するツイートに対してTwitterで返信メッセージを送る取り組みを始めています。こうして、犯罪に巻き込まれたり、法律違反を犯す可能性を未然に警告しています。Twitterとして、援助交際の媒体として使われることは望んでいませんが、危険性のあるツイートをいかに早く察知するか、という対処方法を考えています」(笹本氏)

 今は文字中心からライブビデオ中心へとTwitterの情報の種類にも変化が始まっている。文字だと情報量の観点から日本語が非常に有利だったが、動画になると今度はアメリカでの活用が強まることになる、と笹本氏は予測する。

 アメリカのトレンドを日本にいち早く持ち込むことで、日本市場のユーザーがいいとこ取りでTwitterを楽しめる環境を整えていく。そんな未来像を披露してくれた。


松村 太郎(まつむら たろう)◎ジャーナリスト 1980年生まれ。米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。