ピエール瀧
 いまだに収束する気配がないピエール瀧容疑者の逮捕報道。出演作を多数抱えていただけに、関係各所への打撃も大きい──。悲劇に至った“薬物問題”について放送作家でNSC東京校の講師も務める野々村友紀子が言いたいコトとは?

* * *

 昨日いただいた、『ピエール・エルメ・パリ』のマカロンを食べながら、この原稿を執筆しております。さすがマカロン1個300円くらいしやがるピエール・エルメ。味に奥行きがありますわぁ。でも1個300円は高すぎへんかしら! 子どもに2個食べられて泣きそうになったわ。子どものうちはこんな複雑な味のお菓子食べんでええねん! どうせ味わからんねんから駄菓子300円分買って食べとけー! お菓子といえばピエール・マルコリーニのチョコレートも美味しいですよね、私、大好きなんです。あ、ピエール・ルドンもチョコレートが美味しくて箱が素敵ですよね。そうです、今回はピエール瀧容疑者のことについて書きたいと思います。

 こんなどうでもいいクッションを入れないと書き出せないほど、今回の逮捕は私の中ではちょっとショックでした。彼の演技もパフォーマンスも好きでした。もちろんファンの方々からしたら「好き」の度合いもショックの大きさも比べものになりませんが、あの、アーティストとしてのカッコよさ、役者としての独特の雰囲気と存在感、バラエティーなどで見せる明るさと面白さに、時折ワクワクしたり、圧倒されていたひとりではありました。これだけ持っている人って芸能界広しといえど、なかなかいないんですよね。しかも、そのすべてのレベルが突き抜けている。彼を好きな人は、結構多かったのではないでしょうか。

「どっちが先やねん!」

 仕事も本当に幅広く、朝ドラに大河ドラマにディズニー映画にバラエティー、そして地元での人気長寿番組にラジオにCM…… 完璧やないか! 芸能人ならのどから手どころかダイソンの掃除機出して全部吸い込みたいくらい最高の仕事、全部持ってるやないか! 

 しかも日本アカデミー賞優秀助演男優賞やブルーリボン賞助演男優賞をはじめとする数々の受賞歴て! 冠番組ゴールデン昇格目前て! なんじゃー! なんでじゃー!! くれー! うちの旦那に全部くれー!

 しかし、この素晴らしい仕事ぶりや今までの華々しい功績を、世間の人が改めて知るきっかけが「逮捕」っていうのが悲しい話ですね。時折見せる優しい笑顔や謙虚な姿勢も好感が持てたし、さぞかしスタッフや周囲の人の期待や信頼も大きかったのではないでしょうか。

 法を犯した人をここまで褒めるのもどうかとは思いますが、とにかく芸能界の中でも長年にわたり重宝され、大きな成功を収めていた、わずかな人間のひとりだったことは事実。下っ端芸能人からしたら羨望しかない! それなのに、なぜ!? なぜだ! なぜクスリなんかに手を出した! と、みんな最初に報道を知ったときは、「なんであんな成功してる人が?」と驚いたと思います。が、20代のころから薬物を使用していた事実や使用頻度などを知るうちに、「ちょっと待てよ、そうなると、どっちが先やねん!」となるのです。

「成功したからクスリをやった、のではなく、そもそも、あの成功はクスリによって支えられていたのか?」今までのアレもコレも全部、クスリのおかげやったん? あの、静かに怖い、しびれる最高の演技も? あのセクシーで華麗なステップも? あのハイテンションなしゃべりも? あの華々しい功績、素晴らしい作品の数々、人柄、そのすべての見方が一気に変わってしまうのです。それも、クスリの嫌なところですね。

 周りに多大な迷惑をかけることももちろん嫌ですが、どんな名曲もどんな熱演もどんな面白い話も「クスリのおかげ」。そう思われるのはなんて悲しいのでしょう。

「作品に罪があるのか」と日々議論されまくっていますが、私は作る側の人間なので、もちろん「ない」と言いたい。薬物を使用した人の過去の作品を店頭からとりあえず消すことが、問題の根本の解決になるとは思えない。

 昔の海外アーティストなんか、(多分)やりまくって曲作りまくって、やりまくって歌いまくってる人もいる(だろう)から、そんなん言い出したら店頭から世界中の名曲がごっそり消えてしまう(んじゃないか)という気もします。それはそれで嫌だ。

 本人がひとりで企画・出演・編集・販促・販売までやっている作品なら別ですが、そうでない作品にもとから罪なんてない。だから本人ではなく、その作品に携わったほかの人のため、その作品が好きな方々のために、映画の上映やCDの発売は予定どおり続けてほしいです。

 ただ、どれを見ても聴いても、「このときやってたんだよなぁ」それがよぎるのは仕方がない。その時点で作品は余計なもので汚されてしまったことになり、これは本当に悔しいことです。

 本人はとことん悔しがればいい! と思いますが、本当に悔しいのは本人ではないのです。先ほども触れましたが、作品はどんなものでもひとりで作っているわけではありません。その1曲に、その1本の映画に、どれだけの人間が関わって、知恵を絞って、時間と労力をかけているか。

 私は、人の時間を使うことは、人の命を使うことだと思っています。他人がわざわざ時間を割いて自分のために何かやってくれたことには、その人の大事な命の一部が使われています。だから、他人から受けた親切には心から感謝しないといけない。そしてまた、自分の時間も大切に使わないといけない。人の時間は、すべてかけがえのない「命のひとかけら」なのですから。

 今回、あっという間に自主回収されてしまった作品、封印されてしまうかもしれない作品に込められた、たくさんの人たちの命の一部はどこへ行ってしまうのでしょう。そして、この後、瀧容疑者のせいで、どれだけの人が命を削って奔走するのでしょう。それを考えたら、芸能人の犯した罪には、法で裁かれるだけでは償えきれない、罪深さがあります。

 でも今、私たち大人がやらないといけないのは、作品を排除することではなく、少しでもこの世界から薬物乱用を減らすために考えることだったり、子どもたちが将来、簡単に違法薬物に手を出さないようにしっかり教えることなのではないでしょうか。映画『レクイエム・フォー・ドリーム』と『闇金ウシジマくん』のおかげで、私にはしっかりと薬物に対しての恐怖心と嫌悪感が植えつけられました。今後も絶対に手を出さない自信があります。

 この2作品は、高校生くらいで1回、全国の市や区が推奨して見せるべきなのではないかと思うほど。みんな「ダメ。ゼッタイ。」どころか「ダメーーッ!ゼッタイ!!!ダメー!!」と震え上がること請け合いです。ただ、効果はすごいですが衝撃もすごいので、多少トラウマになるかもしれません。

 でも、飲酒運転の罪深さや薬物乱用の怖さ、犯罪に手を出さないことを教えるなんてそれくらいトラウマになるようなもので啓蒙するくらいがちょうどいいんじゃないの?戦争や原爆の怖さや嫌さは、小学生のころに講堂で見せられた忘れられない衝撃的な作品で知って学んだことが多いのですから。

 ピエール瀧容疑者も、まずはこの2作品を見て治療に入ってほしいです。


プロフィール

野々村友紀子(ののむら・ゆきこ)                      1974年8月5日生まれ。大阪府出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の芸人、2丁拳銃・修士の嫁。 芸人として活動後、放送作家へ転身。現在はバラエティ番組の企画構成に加え、 吉本総合芸能学院(NSC)の講師、アニメやゲームのシナリオ制作など多方面で活躍中。著書に『あの頃の自分にガツンと言いたい』『強く生きていくために あなたに伝えたいこと』(ともに産業編集センター)『パパになった旦那よ、ママの本音を聞け!』(赤ちゃんとママ社)がある。