「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「良いヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
整形前の有村藍里('17年)

第19回 有村藍里

 3月3日放送の『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)で、タレント・有村藍里が美容整形手術に挑んだ様子が放送されました。

 有村藍里は女優・有村架純のお姉さんにあたります。先に芸能界入りし、違う名前で活動していた藍里ですが、2017年に『フライデー』(講談社)で、「朝ドラ女優 有村架純の姉」としてセミヌードを披露。そこからバラエティーに進出していくわけですが、同番組で彼女はその際の苦悩について語っていました。

 顔写真が出回ることで、容姿を誹謗(ひぼう)中傷され、自分に自信がなくなってしまったこと。人と話をしているときも、「私の顔、気持ち悪くないかな」と考えるようになり、外出することもできるだけ避けるようになっていったそうです。ひとりで家にいても、考えるのは自分の顔のことばかり。ここまで行ったら1度精神科の医師に相談してみたほうがいい気がしますが、いちばん中傷された口元の手術に挑み、成功して、本人の表情が見違えるほど明るくなったわけですから、めでたしめでたしと言えるでしょう。

 が、その一方で、芸能人としてはどうなんだろうな、ヤバいカードを引いちゃったかもしれないとも思うのです。

 '80年代の女性アイドルはデビューのきっかけを聞かれると、“偶然”であることを強調していました。例えば松田聖子は『オーラの泉』(テレビ朝日系)で、ミス・セブンティーンコンテストを受けた理由を「友達と遊び半分で受けた」「履歴書を送ったことも忘れていた」「賞品が欲しかったから」と芸能界入りが本意でなかったことをアピールしていました。実際にはほかのオーディションも受けていますし、平尾昌晃ミュージックスクールの福岡校に通っていましたから、芸能界に興味はあったのでしょう。

 この時代は、アイドルとは「選ばれて」「たまたま」なるものであり、「何が何でもアイドルになってやる」というガッツを見せることは求められていなかったのです。

 しかし、今はそういう時代ではなく、アイドルに求められるのは“挽回力”ではないでしょうか。

藍里は応援してもらえる要素を「持っていた」

 HKT48・指原莉乃は恋愛禁止のルールを破り、元ファンの男性と交際していたことを2012年に『週刊文春』(文藝春秋)で報じられますが、あえてそれをネタにすることで、AKB48の選抜総選挙で史上初の3連覇(通算4回目)を達成します。

 2018年に開催された『AKB48 53rdシングル 世界選抜総選挙』で2位に輝いたSKE48の須田亜香里は『コンプレックス力 ~なぜ、逆境から這い上がれたのか?〜』(産経新聞出版)を出版するなど、自分に向き合い、コンプレックスを克服してきたことを隠しません。

 順調に人気を得た芸能人より、不屈の精神で這い上がってきたアイドルが人気を得る時代と考えた場合、有村藍里は「持っていた」と言えると思うのです。

 同じ世界で仕事をしていながら、朝ドラという国民的な番組に妹が出演している。その妹と比べられている気がして、自分に自信が持てないという悩みに、多くの若い女性は感情移入するのではないでしょうか。比較される対象、つまり有村架純に抜群の知名度があるのも幸いしています。これが「ときどき、テレビで見かけるタレント」程度では、視聴者は共感しにくいと思うのです。

 また、にぎやかにふるまうのが多いバラエティーの世界で、藍里のように暗い人というのは意外に存在感がありますし、いじりやすいという長所があります。本人は無自覚だったのかもしれませんが、今の時代だからこそ、応援してもらえる要素を整形前の彼女は多く持っていたと言えるのです。

 番組では、最後に藍里が舞台に挑戦することを明かしていました。整形をして、明るくなって未来への可能性がどんどん開かれていくというハッピーエンドは視聴者にとって好ましいものでしょう。が、番組は終わっても、彼女は“生きて~く生きていく~”のです。

 女優業にシフトするなら、ますます「有村架純の姉」と言われるようになりますが、その覚悟はあるのでしょうか。

 女優という世界の序列で言えば、朝ドラというスターの登竜門的な番組でヒロインを演じた架純は、藍里より上です。もちろん将来的にはどうかわかりませんが、今のところ藍里は女優としての実績はありません。「有村架純の姉」と言われて誹謗中傷されて、メンタルがヤバいことになり、大きな手術まで受けた。しかし、きれいになって女優進出をしたことで、ますます「有村架純はすごい」と思わされることに、彼女は耐えられるのでしょうか。もしかしたら、整形前よりも精神的に追い詰められるのではないでしょうか。

今後、藍里が「教祖」になれそうな分野

 2017年に日経新聞が、化粧品に使う家庭の支出額が婦人服の支出を上回ったと報じたことがあります。ファストファッションのメーカーに人気が集まったことが理由の1つにあげられていましたが、私はSNSとの関係もあるのではないかと思うのです。自撮りをするときに、“映える顔”にするために化粧品に重きを置く人が増えたのではないでしょうか。

 今は一般人でも芸能人よりも多くのフォロワーを持ち、そこからテレビに出る人もいます。そういう人がテレビでウケるかというと、そうとも限らないようです。

『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)に有名ユーチューバー、ヒカキン氏が出演したときのこと。ほかの芸能人と連携し、ボケとつっこみをしながら話を進めていくのが苦手だという印象を受けました。それは当然のことで、周りと大人の力学をふまえたうえで絡むのがテレビ、原則的に自分で企画し、出演と編集をこなすのがSNSという両者の違いがあらわれたと言えるのではないでしょうか。

 藍里も他人と絡まず、ひとりの世界で自分を演出するSNS有名人のほうが向いていると思うのです。

 藍里ほどのバッシングではないにせよ、SNSの普及で他人と比べることが増え、または「いいね!」がつかないことで、自分の容姿に自信が持てない若い女性はますます増えていくでしょう。そういった女性の教祖になれる要素を、彼女は持っているのではないでしょうか。企業がフォロワーの多い人を商品のPRのために起用することは増えていますから、狙い目です。すでに知名度とキャラクターを持っている彼女はかなり有利でしょう。

 SNSや芸能界に限らず、「自分はこの分野でやっていく、この分野が大好き」そう胸を張って言える何かを藍里が見つけられたら、仮に収入や実績が及ばなくても「有村架純の姉」という呪いは解けるのではないでしょうか。間違っても、「もうちょっと鼻が……」などといったヤバい方向に発想がいかないことを、祈るばかりです。


プロフィール
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。