【上段左から】バブルの名残、アムラー、ギャル【下段左から】エビちゃんOL、アゲ嬢、森ガール、オルチャンメイクのイメージ図 イラスト/久井めぐみ 

 平成時代の女子文化で、見た目にまつわるキーワードといえば“盛り”だろう。写真などで、全員そろって妙に目がパッチリ、あまりに色白+ツルン肌といった姿は、まさしく“盛った”ものである。

“盛り”の文化は平成から始まった!

「盛りという言葉自体が世に出てきたのは2002年ごろ。実際より自分をよく見せる、という意味で使われています。ネット上で本人より写真が先に、しかも不特定多数の人に見られるようになり、女の子がデジタル技術やメイクを駆使して、自分を“盛る”ようになったのです

 そう分析するのは、盛りを科学的視点から研究している久保友香さん。

 ただ、盛りという言葉が使われる以前から、実物以上の見た目を作ろうと工夫する女子文化はあったという。久保さんは自身の体験を交えて、こう語る。

「1995年にプリクラ(一般名称はプリントシール)機が登場。すぐに女の子の間で人気が出ました。当時の女の子たちはプリクラを貼る“プリ帳”を作って持ち歩いていましたね。

 友達同士で交換したプリクラも貼って、みんなで見せ合うので、会ったことのない人にも自分の顔を見られます。だからみんな、実際よりよく見える顔で写りたいと、ポーズやメイクを工夫するようになりました

 そうした女心を酌んで、プリクラ機の画像処理の技術は進化の一途をたどっていく。画期的だったのが'03年に登場した機種『花鳥風月』(現・バンダイナムコアミューズメント)。デカ目や美肌に加工できることから、“盛りの方法がメイクからプリクラの機能に変わった”と言われた。

 プリクラの登場時、盛り文化の担い手は女子高生が中心だった。昭和の時代、バブルとともに盛り上がった女子大生ブームは、景気の陰りとともに終焉へ。時代が平成に移ると、イケてる女子高生たちが服や小物、ヘアメイクまで人とは違うものを次々と取り入れ、渋谷から発信するようになり、それが流行となった。いまどきの言葉であればインフルエンサーである。

「細眉に茶髪、厚底ブーツにミニスカの子がアムラーと呼ばれましたが、どちらかというと安室奈美恵さんのほうが女子高生たちの発信したものをすくい上げていたのではないでしょうか」(久保さん、以下同)

 '96~'97年に『egg』『Cawaii!』といったストリート系のギャル雑誌が次々と創刊、渋谷にいる女子高生たちのスナップ写真が掲載されたり、読者モデルとして活躍したりするように。

 彼女たちが注目したのはショップ店員。ファッションビル『SHIBUYA 109』の“カリスマ店員”だ。ウイッグやつけまつげ、ネイルアートをいち早く取り入れ、女子高生たちの支持を集めた。

「盛るという言葉はまだ出てきていませんでしたが、当時のカリスマ店員の派手な装いは、“素材”にかかわらず誰でも可愛くなれるという盛りの原点。こうした渋谷の文化が雑誌を通じて全国規模の文化に発展していったのです」

 そして、ポケベルやPHSなどの通信手段が浸透し始めると、女子高生同士が学校を越えて連絡を取り合って、放課後に渋谷などに集うように。なかにはサークル活動を始める女子も。いわゆるギャルサー(ギャルサークル)だ。

「2001年ごろ盛り上がっていたギャルサー開催のイベントのパンフレットに、最初に“盛る”という言葉が出てきたようです」

久保友香さん

 彼女たちが目指していたのはプリクラ映え。多くの学校では校則が厳しく、髪は染められない。どのようなメイクや髪型なら当時のプリクラ機で実物よりよく写るかを試行錯誤しながら、「盛れる」「盛れてる」などと使い始めたのだ。

携帯ブログでの発信も始まる

 一方、渋谷に憧れていた地方在住者はネットを使い、携帯ブログで発信し始めた。

「『デコログ』をはじめとした女の子向けの携帯ブログコミュニティーで、全国の女子がつながっていました。知り合いに囲まれた環境で暮らす地方の子は特に派手で目立ちすぎるメイクなどができないので、白い肌で茶髪をくるりと巻き、デカ目を強調するスタイルが流行った。

 アイメイクのプロセスやつけまつげのカスタマイズ法などを詳しく紹介し、自撮り写真をつけて公開しているブログが人気ランキング上位でした」

 '12年にはスマートフォンの世帯普及率が49・5%にまで上昇。女子文化の舞台は、渋谷という街から、携帯ブログを経て、ツイッターやインスタグラムなどのSNS上に場を移す。

「もはやデカ目の時代も終わりました。今のヘアメイクはアプリを活用した“ナチュラル盛り”が主流。最近では顔を盛ることよりも、伏せた顔や横顔だけを写し、ファッションを含めた全身と、自分のいるシーン、つまり世界観ごと盛る“トータル盛り”なのです

 ただ、トータル盛りの写真は自撮りができないのが難点。今後はうまく“自撮りで他撮り”をする技術が大いに待たれているという。

 ここまで平成の女子文化を彩った“盛り”を振り返ってきた。異性へのモテを意識したものもなかにはあるが、基本的には女子による、女子のための盛り。「モテるためにすることではなく女子同士のコミュニケーションのためにあるもの」と久保さんは言い切る。

「盛りは、そのコミュニティーのメンバーであることを証す暗号。どんどん更新される暗号がわかってこそ仲間なんです」

 平成女子の盛り文化の根底にあったのは、自分の好きなものを大切にできる仲間づくりなのかもしれない。

盛り文化の変遷をたどる!

◎バブルの名残(平成元年〜5年)
メイク=太眉、赤やローズピンクの口紅 ヘア=ワンレンロング、前髪カール、とさかヘア&すだれ前髪、ソバージュ 好きな物=お立ち台、扇子

アムラー(平成6年〜10年)
メイク=細眉、日焼け肌、ベージュ系リップ ヘア=茶髪、シャギーカット、ロングヘア 憧れの人=安室奈美恵 好きな物=厚底 口ぐせ=チョベリバ

ギャル(平成11年〜15年)
メイク=ガングロ、囲みアイライン ヘア=ブリーチ、メッシュ、エクステ 好きな場所=日サロ 好きな人=あゆ、センターGUY 好きなブランド=ココルル

◎エビちゃんOL(平成16年〜20年)
メイク=ナチュラル盛り、つけまつげ、リップグロス ヘア=ヘアアイロン、巻き髪 尊敬する人=蛯原友里 好きな服=モテ服全般 嫌いな言葉=KY

アゲ嬢(平成17年〜24年)
メイク=まつエク、カラコン ヘア=盛り髪、ティアラ 好きな物=シャンパンタワー 好きな言葉=「同伴しよう」 生まれ変わるなら=愛沢えみり

森ガール(平成21年〜25年)
メイク=血色メイク、涙袋、おフェロメイク ヘア=ふんわりゆる巻き、内巻きエアリー お手本=蒼井優 好きな言葉=「森に住んでいそうだね」

オルチャンメイク(平成28年〜)
メイク=赤リップ、ナチュラル眉 ヘア=シースルーバング 好きなもの=インスタの「いいね!」、映え 憧れシチュエーション=壁ドン、あごクイ


《PROFILE》
久保友香さん ◎1978年生まれ。シンデレラテクノロジー研究者。日本文化、伝統を数値化する研究の後、“盛り”の計測を始める。著書『盛りの誕生』(太田出版)が4/18発売予定