小手伸也 撮影/山田智絵

 昨年のドラマ『コンフィデンスマンJP』における謎の男・五十嵐役で一躍、大ブレイクを果たした小手伸也さん。“遅く来たシンデレラおじさん”などと呼ばれるが、もちろんぽっと出ではない。

 アルバイトをしながらも、舞台や映像で着実にキャリアを築いてきたうえでのブレイク。しかも実は、心理学や神話に精通する知性派でもある。

 その小手さんが、英国の劇作家、トム・ストッパード氏による異色作『良い子はみんなご褒美がもらえる』に挑戦する。舞台はソ連と思われる独裁国の精神病院。

 小手さんが演じるのは、政治犯のアレクサンドルと自分がオーケストラを連れていると妄想を抱くイワノフを担当する医師の役だ。

誰の目線から見ても
意外とシンプルな話

「病室なのか刑務所なのか。そのへんを曖昧(あいまい)にしながら、しかも舞台上には35人のオーケストラが常にいるという設定です。多分に精神世界っぽくて、僕としては非常に好きなジャンルだと感じましたね。自分の劇団ではつねづね精神世界について描いてきましたし、カウンセリングの手法を学んだこともあるんです

 だから近しい感じがして“やべえ、ハードル高いぞ”ということはなく。初めて読んだときは“頭痛を起こさせる脚本だ”と思ったんですが、別の日に気分を変えて読んだら、意外とシンプルだと理解できました。

 僕はこの作品を、チャンネルの合わせ方次第で読み解き方が変わる、非常にシニカルなコメディーと思っています。なので、ご安心ください(笑)」

 シンプル!? 日本の観客にとってはきっと“難解”ととらえられそうな作品だけれど、どう読み解けばいいのだろう? 教えてください、小手さん!

「例えば、僕の演じる医師という役の目線からすれば、政治犯と妄想男、どっちも厄介なんですよ(笑)。すごく頑(かたく)なで。僕は彼らを治したことにしないと手柄にならない。上から命令を受けて診ていますから。

 そういう物語の構造の中で、僕の役割を簡単にまとめてしまうと“ふたりの患者を翻弄(ほんろう)するようで翻弄されてしまう中間管理職”(笑)。ひとつずつそうやって噛みくだいていけば、誰の目線から見ても、わりとシンプルな話なんです」

 なるほど! それにしてもこの医師、嫌なやつ!?

そりゃ明らかに嫌なやつです(笑)。でも、そういうやつが困っているさまとか、意外とコメディーの読み解き方もある。オーケストラがあるのかないのか論争みたいなところでのディスコミュニケーションなどは、すごくコメディーチック。

 みんなが真剣というところにシリアスな笑いがきてもいいかも。ただ、“海外戯曲あるある”なんでしょうけど、せりふの情報量が半端なく多い。ものすごい物量のものをぶつけ合う、みたいな(笑)。翻訳劇はほぼ初めてなので、そこは稽古場での勝負ですね」

千秋楽にはすごい
ご褒美を得ていたい

 地道な努力を重ねてきた結果として、急激に売れっ子となった小手さん。その変化をどうとらえている?

「僕自身は、変わったつもりはないんですが、若干タクシーに乗ることが増えたかな(笑)。いままではタクシーを利用するなんて悪だと思っていました。いまは忙しいから時間を買うという意味で、“1メーター2メーターくらいは使っちゃおうよ”ってささやく自分にあまり抵抗できない(笑)。一昨年の自分なら考えられませんでしたね」

小手伸也 撮影/山田智絵

 バラエティーなどでも愛すべきキャラクターが受けているが、そのイメージと、演劇人としての小手さんとのギャップがまた魅力。

 舞台『子供の事情』で彼に“恐竜が大好きすぎて博士級の知識を持つおっとり少年”の役をつけた三谷幸喜さんも“思っていた人と違った”と、イメージと実像の差に驚いたひとり

「『真田丸』で演じた役の印象もあって、僕をわりと、勢い重視で“インパクトが残せれば御の字”という外向きタイプの人間だと思っていたようです。

 でも稽古場で話していて“あれ? 内向き?”と戸惑ったと。僕が感性で役作りをするタイプではなく、かなり繊細に、論理で組み立てていく人だということが、すごく驚きだったそうで。

 実際、テンション高めの役のほうが多いんですが、意外に僕は、作り込む俳優なんですよ(笑)

 海外の演出家(ウィル・タケット氏)とは初タッグという今回の稽古場でも、繊細な役作りが評価を呼ぶはず。千秋楽を迎えたとき、小手さんはどんなご褒美をもらっていたい?

「この稽古、本番を経たとき、間違いなく相当なご褒美がもらえていると思うんです。それがどんなものか、想像するだけでワクワクします(笑)。

 僕は海外の演出家とは、ロバート・アラン・アッカーマンさんのワークショップを1週間受けたことがあるだけ。そのとき、ある俳優同士の実演を見ていたアッカーマンさんがキレて、“トーク!”って怒鳴ったんです。

 僕らは日本語がわかるから意味のキャッチボールとして受け取れたけど、言葉のわからない人から見たら、感情の受け渡しが成立していない、会話になっていなかったんだと気づきました。

 言語が通じない人に対して、コミュニケーションが成立しているさまを見せるために何ができるんだろう? 僕はその1週間で完全な答えは出せなかった。今回は1か月の稽古を通して、きっとウィルさんともそういう場面が発生すると思うんです。

 その中でウィルさんに抗(あらが)い、ぶつかり合った末に答えを見つけられたら、すごいことになると思う。大げさですけど(笑)。それが僕のご褒美であるべきだと思っているので、それを得るためにがんばります!

俳優とオーケストラのための戯曲
『良い子はみんなご褒美がもらえる』出演者

■俳優とオーケストラのための戯曲『良い子はみんなご褒美がもらえる』
『恋におちたシェイクスピア』などで知られるトム・ストッパードが『マイ・フェア・レディ』の音楽家、アンドレ・プレヴィンと組んだ異色作。独裁国家にある精神病院の一室で、政治犯のアレクサンドル・イワノフ(堤真一)と、オーケストラを連れているという妄想を抱く同名の男(橋本良亮)を、社会はどう扱うのか? 演出は、バレエ界出身のウィル・タケット。共演はシム・ウンギョン、斉藤由貴ほか。4月20日~5月7日 赤坂ACTシアター、5月11~12日 大阪フェスティバルホールで上演。
公式HPはhttp://www.parco-play.com/web/play/egbdf2019/

PROFILE
●こて・しんや●1973年12月25日、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、’98年に劇団innerchildを旗揚げして脚本・演出・出演を務める。映画は『不灯港』で初主演。幅広いジャンルで評価を得てきたが、2018年に月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』で大ブレイク。その後、『SUITS/スーツ』『私のおじさん~WATAOJI~』などで、さらに人気が加速中。4月より朝の連続テレビ小説『なつぞら』に出演、日曜劇場『集団左遷!!』に出演。5月には『コンフィデンスマンJP』の映画版とSPドラマが控えている。

(取材・文/若林ゆり)