故人の遺言書が出てきた! しかし、そこに書かれていた遺産の分配方法が不平等だったら、少なくもらう人には当然不満が出てきますよね。そんなときに、相続人がもらうことができる最低限度の取り分を請求できる“遺留分”があるのを、ご存じですか? 

 税理士で現役モデルの日沢新によるお金に関する連載『銭ちゃんねる』。今回は“遺留分”ついて、やさしく解説していただきましょう。

遺留分、ご存じですか?

 前回は、「遺言書を書くべきかどうか」をご相談にいらした70代のAさんに、「どんなに財産がなくとも遺言書は残したほうがいい」とアドバイスさせていただきました。今回はその続編で、意外と知られていない財産分与における“遺留分”についての話です。

遺留分とは

日沢「遺言書を書く際に、必ず注意しなければいけないことがあります。Aさんは遺留分という言葉をご存じですか?」

Aさん「いえ。どういったものなのでしょうか」

日沢「遺留分とは、相続人がもらうことのできる最低限の取り分のことです。故人の遺言書に従って財産を分けたら、財産の配分が不平等だったとします。その場合、財産を多くもらっているほかの相続人等に対して、一定金額よりも少なく配分された相続人が、財産を要求できるのです」

Aさん「つまり、遺言書を書くと逆に遺留分でもめることがある、ということですか?」

日沢「はい。ただし、遺留分とはあくまで相続人に認められた権利です。遺言書による財産の分配が不平等であったとしても、請求するかどうかは本人の自由です」

Aさん「そうなんですね。でもそうなると、やはり遺言書を書かないほうがいいのでは?」

日沢「遺言書を書かなかった場合、財産はすべてを故人不在のなか、相続人同士で話し合って分けることとなりますから、ますます争うリスクは高くなります。遺留分に配慮した遺言書を作成するか、財産の分け方に関して、きちんと理由を示したメッセージ(付言事項といいます)を残すことが重要なんですよ」

遺留分はどのように計算されるのか

Aさん「先生、遺留分ってどのように計算するんですか」

日沢「はい。遺留分というのは、争っている人同士がお互いに金額を主張しあって決まるものですから、正確な計算をすることは不可能なんです。でも、最低これくらいだと侵害しないかな? というラインをざっくりと計算しておくことは重要です。次の3つのポイントをおさえましょう。

(1)遺留分計算の対象となる財産を知る

日沢「まず、遺留分の対象となる財産を知ることが重要です。原則的にはAさんが亡くなったときに遺した財産の金額ですね」

Aさん「先生、例えば亡くなる前に全部財産を贈与すれば、遺留分は関係なくなるんじゃないですか?」

日沢「いいえ、亡くなる前に贈与した財産も遺留分の計算の対象となることがあります。おっしゃるとおり、遺留分の対象にならないように財産をすべて贈与してしまうという抜け道ができてしまいますからね」

Aさん「なるほど。そうなると、もう全部の財産が対象となるわけですね。亡くなる前に贈与した財産とかも含めて」

日沢「そうですね。逆に唯一、生命保険金に関しては遺留分計算の原則として対象になりません。生命保険金は死亡時に受取人がすでに決まっており、これは民法で相続財産という定義からはずれるためです。ただしあくまで原則であり、例えば遺した財産のほぼすべてが生命保険金だと、遺留分の対象となるケースもあります」

(2)遺留分の対象財産の評価方法を知る

日沢「遺留分の対象となる財産が不動産だった場合は時価で評価します。そのときどきの相場の価格ですね」

Aさん「先生、不動産の時価ってあやふやじゃないですか?」

日沢「はい。不動産はよく時価で問題になったりします。遺留分を侵害しているほうは安く、侵害されているほうは高く計算したほうが有利ですからね。これは実際の売買事例や不動産鑑定など、さまざまなアプローチで落としどころを見つけていくことが多いようです。不動産以外でも、一般的に時価が公表されていない財産すべてにあてはまりますね」

(3)遺留分の割合を知る

Aさん「財産のうちどれくらいが遺留分になるんですか」

日沢「遺留分は特殊な例を除いて、民法で割合が決まっています。法定相続分の2分の1です」

Aさん「うちは妻と子ども2人ですから、その場合はどうなるのでしょうか。法定相続分は、妻が2分の1、子2人がそれぞれ4分の1ずつという話でしたよね」

日沢「Aさんの場合ですと、下記のとおりとなります。仮に遺留分対象財産の価格を1000万円としましょう」

(1)奥さま 法定相続分1/2 ×1/2 =1/4が遺留分

→奥さまの遺留分は1000万円×1/4 =250万円となる

(2)お子さま 法定相続分1/4 ×1/2 =各1/8が遺留分。

→お子さまの遺留分は1000万円×1/8 =125万円となる

 ちなみに、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。兄弟姉妹は法定相続の順位が最下位であり、被相続人とは関係が希薄なケースも多いですからね」

遺留分請求にはタイムリミットがある

Aさん「遺言書を遺すときはしっかりと遺留分に配慮して書くということが大事なんですね」

日沢「はい。最後に遺留分請求にはタイムリミットがあるので気をつけなくてはなりません。それは被相続人が亡くなったあと、遺産を少なく分配された人が遺留分を侵害されていると知ったときから1年間です」

Aさん「知ったとき、というのは?」

日沢「例えば財産をひとり占めしようとした相続人がいた場合、その遺言書を全員に開示せず、ひとりで財産を分割してしまうケースが考えられますから、遺留分が侵害されていることを知ったときから、ということですね」

 また、めったにありませんが、もし相続があったことを知らなかったとしても、亡くなった日から10年間(除斥期間)経過すれば、遺留分は失効します。これも覚えておきましょう」

Aさん「わかりました。ありがとうございました」


日沢新(ひざわ・しん)◎税理士。1987年生まれ。2013年に、税理士の国家資格を取得。税理士事務所NEO FRONTIER TAX OFFICEの代表税理士(https://hizawa-tax.com/)。主に個人や中小企業、そして相続に関する相談に乗っている。身長185cm、70kg、体脂肪率8%。日々のジムトレーニングで、鍛え抜かれた肉体美を目指す。好きな言葉は「黄金の精神」。