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 経済状態や労働環境の違いによって、病気のリスクや寿命に格差が生じる『健康格差』が社会問題となっている。最悪の場合、死に至ることも少なくない。

とことん我慢して取り返しのつかない状況に

 全日本民主医療機関連合会(民医連)では、経済的な理由により受診や治療が遅れ、死亡したケースの調査を'05年から行っている。今年3月の最新発表によると、'18年に「手遅れ」となったのは77人。そのうち、22人は保険料が払えないなどの理由から、公的医療保険に加入していない無保険の状態だった。

 民医連・事務局次長の山本淑子さんが指摘する。

「77人という数は、調査対象である私たちの提携病院にかかった患者数であり、必ずしも全国の傾向を示すものではありません。ただ、ここ数年は保険証を持っていながらも手遅れで亡くなるというケースが増えていて、自己負担の重さが影響しているのだと思います

 生活が苦しいと、身体の不調に目をつぶり、後回しになりがちだ。

「とことん我慢して、倒れたり動けなくなったりしてから救急搬送されてくる人も多いです」(山本さん)

 亡くなった77人のうち、最も大きい割合を占めるのが無職で36%。次いで非正規雇用の23%、年金受給者の21%と続く。生活困窮から受診の遅れにつながったことが容易に予測できる。

 60代の無職女性は、乳がんに侵され、目視できるほど進行した状態でありながら、障害のある妹を慮って自分の受診を先送りにし、死に至ったという。

 また、リーマンショックで失業後、派遣社員として働いてきた50代男性は、体調不良から仕事を続けられなくなり、医療費を捻出できなかった。そのため受診が遅れ、4か月後に大腸がんで亡くなっている。

 90代になる母親の介護をしながら、日ごとに悪化する体調に気づきつつ自分のことは後回しにして、ついに亡くなった男性もいた。

 DV被害者や外国人など社会的に弱い立場に置かれている場合も、結果として医療から遠ざけられてしまうことが調査からわかる。

長時間労働と不規則な生活でリスク増大

 健康格差をめぐっては、自己責任論がたびたび俎上(そじょう)にあがる。糖尿病患者に対し、麻生太郎財務相が「自分で飲み食いして、運動も全然しない。医療費捻出はあほらしい」と発言し、批判を集めたのを覚えている人もいるだろう。ただ、その認識は間違いであるとデータが教えてくれる。

 民医連が'11年~'12年にかけて2型糖尿病の40歳以下の患者800人を調査した結果、年収200万円未満が約6割を占め、半数近くが非正規雇用だった。健康格差が、働く貧困層を直撃している。

 2型糖尿病の発症には、生活習慣が大きく関係するといわれている。注目すべきは、低所得だけでなく、週60時間以上の労働で病気のリスクが高まるという点。朝食抜きで、22時以降に夕食をとる不規則な生活も、発症に影響することも明らかに。民医連・事務局長の岸本啓介さんは言う。

「ここにも格差の影響が見て取れます。非正規労働からくる生活苦でダブルワークになり、食生活が不規則になっている人は珍しくありません。糖尿病治療薬のインスリンは高価。受診はしたもののお金が続かなくなって治療が中断、手遅れになって運ばれてくることも多いようです」

 こうした問題を解決するには、どうすればいいか?

「非正規をなるべく早い段階で正社員化し、さらには最低賃金をきちんと生活できる水準にして、根本にある格差解消に努めなければ始まらない。国民健康保険料の引き下げも考えるべきでしょう」(岸本さん)

 ただ、病気は待ってくれない。いま困っている人が知っておきたい医療機関がある。全国に404施設ある『無料低額診療所』だ。

「保険証の有無を問わず、低所得者が無料や低額で受診できます。ただ、施設がない地域もあり、こうした医療機関があること自体、まだまだ知られていません」(山本さん、以下同)

 抜本的解決を目指しつつ、まずは目の前の困窮者をすくい上げることだ。

「たとえお金がなくても、治療を受けることは可能です。万が一のときは、どうか一刻も早く医療機関の門を叩いてください」

(取材・文/フリーライター 千羽ひとみ)


※全国にある無料低額診療所のリスト https://www.min-iren.gr.jp/?p=20120