竹内洋子さん(右)と娘の園絵さん、2人の孫とともに

 神戸市長田区。1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災によって甚大な被害を受けた地域だ。

 ここに住む竹内洋子さんは、まったくの偶然から大発明をしてしまった。そのきっかけは、夫とうどん店を営んでいた竹内さんの義母が、震災で亡くなったことにさかのぼる。

実験に夢中になった日々

「妻を失ったショックから義父は認知症になったのです。やさしい人だったのに、暴れたりするようになって。それでも、昔話をするときは穏やかになってくれたんです」

 元気づけたい一心で肩をもんでスキンシップ。すると、義父の頭のてっぺんが気になるように。

「頭がフサフサになれば、心もフサフサになるんじゃないかと思った。そこから実験に夢中になりました」

コウヤマキは、仏花として使われる。葉を細かく刻んだものにホワイトリカーを入れてエキスを抽出

 まず、金魚鉢の中の苔を油に漬けて、できた液体を義父の頭に塗ってみた。トウモロコシやソラマメを焼酎に漬けてみたり、花びら、果実の種子、雑草などを乾燥させて焼酎に漬けて、それを義父の頭に塗ってみたりした。その数、なんと500種類。だが一向に効果は表れない。

 '98年に義父が亡くなってからも、今度は頭頂部が薄くなった夫のために、あくなき研究が続けられた。

 2002年、竹内さんは歯周病がひどくなり、歯科医から「このままでは総入れ歯になる」と告げられる。まだ40代、入れ歯はごめんだった。そんなとき、部屋の一角を占めていた瓶が目にとまる。

「この中に、きっと何か歯周病に効くもんがあるのかも」

 根拠なくそう確信した竹内さんは、瓶を処分するつもりでひとつひとつ、歯ぐきに塗って試していった。

 あるとき、仏壇用のコウヤマキ(高野槙)から独自の方法で抽出した液を歯ぐきに塗ってみた。コウヤマキは秋篠宮さまの長男・悠仁さまの「お印」でもある。

「すごい刺激臭があって、これはダメなんだろうなと思った。でも、1か月は試さないと効果が実証できないと続けたんですわ」

 それから2年、「あれ? 私、歯科医に行っておらんやん?」と気づいた。そこで、総入れ歯の宣告をした歯科医のもとを訪ねて、聞いてみた。

こちらが特許証。'05年に特許を出願し、'12年に晴れて登録される

 歯科医が竹内さんの口内を見ると、歯ぐきはピンク色でしっかりと引き締まっているではないか。

「竹内さん、治っとるやないか。一体どうしたん?」

「自分で薬作ったわ」

「すごいことやで。大学で調べてもらったらどうや」

 歯科医にすすめられるままに調べてもらった結果、動物実験で毒性は否定されさらに歯周病菌、虫歯菌が激減するなどの抗菌活性が認められたのだった。

まさかの商品化、まさかのバカ売れ

 そして特許出願、'07年には健康食品製造会社に依頼して商品を開発。竹内さんは娘の園絵さんとともに会社『Y&S』を立ち上げ、洗口液と歯磨きジェルの販売を始めた。これまでに累計22万本が売れたという。

 母の無茶な実験を見続けてきた園絵さんがこう話してくれた。

洗口液100ml1242円、歯磨きジェル56g1566円で販売

「家族はまったく信じてなかったんですよ(笑)。でも、利用者さんから感謝のハガキがたくさん届いたり、お礼を言いに訪ねてくる人を見て“本当に役に立ってるんだ”と実感するようになりました」

 竹内さんが言う。

「世の中に必要なものは、誰かの手を使って世に出てくるような気がします。その誰かに選ばれたことに感謝していますよ」

 それにしても、育毛剤はいまだ完成していない。

「初志貫徹しますよ。(記者の頭部を見て)完成したら連絡しますね」