本当は仲よし4人娘なのだが、取材日は欠席!

 愛知県西尾市のスギ薬局吉良店に、平均年齢75歳の“看板娘”がいる。水村晴美さん(69)・鈴木久子さん(75)・佐藤絹江さん(82)だ。3人とも9時の開店時間前の8時30分に仕事を開始し、平均1時間~1時間半、ときには2時間ほどかけ、配送されてきた補充商品の品出しを行う。

薬局バイトの“3人娘”が大活躍!

 売り場面積300坪という吉良店のような大型店舗では、薬品から酒類、化粧品まで、日におよそ5000点以上の商品が売れていく。言い換えると、毎日5000点もの商品を補充することになる。

 3人のようなシニアがいなければ、社員やレジを担当するスタッフが、持ち場を離れて品出しをしなければならない。欠品防止や、売り場の美観維持にも欠かせない、大切な役割を担っているのだ。

 水村さんがこう語る。

「この5月で、働き始めて5年目に入ります。ここへ買い物に来たときに、レジをしていた知り合いから“品出しに65歳以上のシニアを募集している”と聞いて、応募しました」

 働き始めたきっかけは、鈴木さんも佐藤さんもほぼ同じ。募集チラシや、誘われての応募だという。

 ちなみに佐藤さんは、スギ薬局が提供する『シルバーアソシエイツ制度』のもとで働く約1100名のシニアのなかでも、最高齢者であるという。

「78歳で面接を受けましたが、そのとき“あとで連絡します”と言われて。やっぱり年なのでダメかなあと思いましたが、あくる日、電話をもらいました。以来、丸4年働いています」(佐藤さん)

 品出しは頭を使う仕事と語るのが、鈴木さんだ。

「なにがどこにあるかを覚えるのが大変。でもこれが、いいボケ防止になるんですよ~(笑)」

 吉良店で働くシニアは8人。今回取材した3人は、商品の補充がない月曜を除く週6日、働いている。スギ薬局が'15 年から導入したシルバーアソシエイツ制度は、パートやアルバイトといった雇用契約ではなく、シニアひとりひとりと業務請負契約を結ぶ。

 品出しという事業を請け負って商品を並べ終えたら、箱についているラベルを端末にピピッと入力。品出しした個数分の賃金が、後日、支払われる仕組みだ。

缶入り飲料を慣れた手つきで並べる水村さん。真剣な表情だ

 品出しだけを請け負うから、レジなどの業務を任されることがなく、体調がすぐれなければ、帰宅してもとがめられない。だから用事ができたり、体調が悪いときは、3人とも決して無理はしない。

「時間帯も、働く時間も今のままで十分」(水村さん)

 最高齢者の佐藤さんも、「時給制じゃないのがいいんです。時給だったら私より若い人から、“私のほうが仕事は早いのに、賃金が同じなのは変!”という声がきっと出ます。高齢な私がこんなに長く続けることは、できなかっただろうと思います」

 大金を得ることはできないが、マイペースで働けることがシニアにはぴったりなのだ。

 こうした無理のない働き方で、3人とも月2万~3万円ほどの収入を得ている。仕事を終えた10時以降は、喫茶店に繰り出しておしゃべりを楽しむのが通例だ。

黙々とベビー用品を品出しする鈴木さん(手前)と佐藤さん(奥)

「そのあとは、お昼には家に帰って家事をやり、主人に食べさせて。ときには孫の面倒を見たり」(水村さん)、「今でしたら桜を見に行こうかなあと」(佐藤さん)

 鈴木さんは、「畑があるので家で食べる分の野菜を作っています。新鮮なものが食べられていいですよ」

 それぞれ充実した時間を過ごしているようだ。3人が口をそろえて語る。

「長時間の仕事では、身体が悲鳴を上げるだけ。それよりも、ここで仲間と会えるのが楽しい。行くところがあるということは、お金に換えられないものだと思います」

多くのシニアから喜びの声

「現在、東は茨城の筑波、西は兵庫の姫路まで1200店舗ありますが、出店エリアのいずれにもまだまだお元気なシニアがいる。“シニアたちに、何か提供できないだろうか?”とアイデアを出し合い、生まれたのが、お店に毎日届く商品を品出ししてもらう、というこの働き方でした」

 こう語るのは、スギ薬局広報の日野清孝さんだ。

 オーナー夫妻が立ち上げた小さな薬局から始まった同社は、現在では高齢者施設なども訪問。居住者に服薬指導をするなど、社会貢献活動も盛んだ。そうしたときに出た“働きたくてもその場所がない”との声も、制度誕生の後押しになったと日野さんは言う。

 社会との接点を提供することで、心身両面の健康を保ち、健康寿命を延ばすという目的があるとか。

「現在は愛知、岐阜、三重の全域と、静岡と滋賀の一部の計300店舗で実施しており、平均年齢70歳のシニアに働いてもらっています。そのうち男性は2割ほど。ゆくゆくは関東や関西にも広げたいと思っています」(日野さん)

スギ薬局 広報室室長 日野清孝さん

 働きたい元気な高齢者と、人手が欲しい企業双方の需要を満たすこの取り組み、社員やスタッフ、シニアの双方から好評だと語る。

「社員やスタッフからは、“おかげで接客に集中できる”という声が。シニアからは、居場所があるという喜びの声が大きいようです。毎日、店に出て社会参加して友人もできる。“これがあるから元気”とおっしゃるシニアが多い」(日野さん)

 定年がなく、体調が許せば何歳になっても働ける。広い店舗を歩いて商品を補充することは有酸素運動や筋トレになるし、商品棚を覚えるのは、脳トレそのものだ。前出の看板娘が異口同音に語っている。

「ここへ来て、仲間と会えるのが楽しみ。体調が続く限り、続けていきたい!」

癒しの笑顔で接客をする土屋さん。去り際に手をふって帰る客の姿も

 東京・品川のモスバーガー大崎店で、レジを担当しているパートの土屋美津子さん。週6日、1日7時間とフルタイムで働くシニア女性だ。

スマホ決済もお手のもの! ママチャリ通勤の77歳

「間違いのないように、お客様のご注文を繰り返して、お釣りもしっかり確認してお渡ししています」

 と語る土屋さん。丁寧な応対で動きに迷いはない。モスフードサービス広報・森野美奈子さんが言う。

「カードやスマホ決済の導入などで、レジはどんどん進化しているのですが、そのたびにきちんとアップデートしてくれています」

 長らく専業主婦だった土屋さんが働き始めたのは、3人の子育てが終わった50歳を過ぎたころ。

「階段を駆け上がったら足がガクガクして。足から老いるとはこのことだと感じて、もっと外に出ようと思ったのがきっかけでした」(土屋さん、以下同)

 当初は五反田東口店の厨房で働いていたが、システムの変更でレジと接客の担当に。ともに働いていた6つ年上の女性と励まし合い、若者の指導を受けながら新しい仕事を覚えた。2年前、閉店に伴って大崎店へ。

 夫と2人暮らしの土屋さんの1日は、朝7時にスタート。朝食を終え、夕食の下ごしらえや掃除、洗濯をすませ、10時には家を出る。坂道もふくめ片道30分かけて“ママチャリ”で通う。

「それが足の運動、健康のもと。立ち仕事なので足が棒になったと感じることもありますが、自転車で帰るとほぐれますね」

 仕事は11時から14時までレジに立ち、45分の休憩を経て18時まで働く。

「ランチタイム前後の3時間は、お客様がたくさんみえていちばん楽しい。それに一緒に働く若い方たちが“つっちー”と呼んでくれたり、お昼に好物のモスの商品を食べたり。疲れも苦にならないですね(笑)」

 勤務を終えたら、すぐに帰宅。夕食をすませ、22時には床に入りニュース番組を見て23時に就寝。

「できるだけ仕事を続けて、この生活を保ちたいです」

 と話すが、実は5年ほど前、自覚症状はないまま心臓の病気を患い手術を受け、約2か月、店を休んだ。

「元気になって店にあいさつに行くと、“おめでとう。明日から来られる?”と言われて、本当にうれしかった。短時間の勤務から身体を慣らして、いまに至ります。それからは風邪ひとつひいていません」

 土屋さんの場合、働くのは健康のためと楽しさから。収入はすべて3人の孫のために使っている。孫に「ばぁば」と慕われるのが、なによりの幸せとか。

土屋さんの好物だという『とびきりハンバーグサンド〈チーズ〉』

 ちなみにモスバーガー大崎店では、アルバイトとパートは、週1日3時間以上からで時給1000円より。

「募集に制限はなく、店に必要な人材であれば年齢は不問です。ただ、高齢の方には難しい仕事。現在、活躍しているシニアは長く勤めている方々です。定年前の方はダブルワークなどで早めに始めるのがおすすめです」(前出・森野さん)

 シニアスタッフに心をなごませる利用客も多い。

「ときどき前の店にいらしていたお客様が“会いに来たよ”などと声をかけてくださってホロッときてしまう。真心をこめて接することを自分に言い聞かせて、これからもモス一筋です」

 土屋さんはそう話すと、笑顔で仕事に戻っていった。

園芸が趣味。自宅でも農作物や花を育て、その知識を接客にいかしている

「奥さん、よう元気で働いとるに~」

「働けるうちは働かにゃならん思てな」

 長野県高森町のホームセンターカインズ高森店で、商品の花の水やりをしながら訪れた常連客と話すのは、池野末子さん。車で5分ほどの自宅から週5日通っており、1日4時間、園芸コーナーで、花の管理や接客にいそしむ。

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「もともと花が好きだし、職場の人たちにも恵まれている。仕事がつらいと思ったことは1度もない」

 そう語ってくれた池野さんの表情は若く、イキイキとしている。記者が取材で訪れたときには、別の従業員から商品に関する質問を受けており、周りから頼られていた。

 結婚前は保育士をしていた池野さん。結婚して高森町に移り住んでからは2人の娘に恵まれたが、子どもたちが小学生のとき、夫が脳梗塞で倒れてしまう。その後は看病をしながら、夫が営んでいた建築業を手伝い、従業員の面倒も見つつ子どもたちを育て上げた。

 それからは「高齢の母親の様子を定期的に見たい」と実家近くのゴルフ場で庶務を担当していたが、61歳で退職。母親が亡くなった後、「夫の介護をしながら勤務できる仕事を」と探していたところ、自宅近くに同店が開業し、オープニングスタッフ募集の文字を発見。次の勤務先に選んだ。それから19年間、働いている。

 給料は時給制。月収は6万~8万円程度で、年金受給額と合わせると14万~16万円程度になる。7年前に夫が他界してからは、娘夫婦との3人暮らし。収入は日々の食費などの生活費のほか、貯金にあてているという。

「孫が顔を見せに来たらお小遣いをあげにゃならんら? まだ元気だけどいつ働けなくなるかわからないし、娘に迷惑かけるわけにもいかんに」

 広い園芸コーナーを行き来する池野さんの様子は若い従業員と変わらない。だが、仕入れた花の積み下ろしや重い鉢の移動、頻繁な水やりなどの重労働は負担では?

「長いこと主人の介護で車イスに乗せるのもお風呂に入れるのも全部ひとりでやった。それに比べりゃ、いまの仕事なんて何の苦でもない」

 長いこと、働きながら、親や夫の介護もこなしてきた池野さんは、好きな花に囲まれ自由な暮らしを満喫できている今の生活が「本っ当に幸せ」と目を細めながら語る。

 同店で働くラインマネージャーの林史恭さんは、

「もちろん、石を動かすなどの力仕事は男性スタッフが行いますが、池野さんはちょっとした鉢植えの移動などは軽々とこなす。とはいえ、できないときは頼ってくれるので、周りも特別に気を遣うことなく働けます」

 と、職場の雰囲気のよさを教えてくれた。

 カインズは2018年に、パート・アルバイトの契約をすべて無期雇用に転換し、65歳の定年以降も1年ごとの更新で長く働ける制度を導入。意欲と能力次第では、池野さんのように80歳を過ぎても働けるようになった。いまでは全従業員のうち、約1割を60歳以上が占めるという。

「DIYや日用品、園芸用品など扱う商品が多く、経験と商品知識のあるシニア社員は貴重な戦力」

「池野さんは店舗経験が長いので、いると安心」(林さん)と信頼を寄せる

 と語るのは、経営企画部広報室の齋藤小百合さん。生活の知恵を持つシニアが売り場にいることで、親身な接客が可能になり、競合店との差別化が図れるという。また、人生経験の豊富なシニアはコミュニケーションスキルに長けていることも多く、職場の雰囲気もよくなるそう。

 同社では今年度中にスタッフにスマホを配布し商品を簡単に調べられるシステムを導入する予定。探し歩く負担を減らすことで、より接客に時間をあてられるようになる。

「従業員の8割がパート・アルバイトで彼らから業務を教えてもらうことが日常。役職に関係なくスタッフ間の連携がとれていることが強みです」

 社名の由来でもある「カインドネス」の精神が、シニアが長く働きやすい環境をつくっている。