ジェーン・スー 撮影/北村史成

 本書は、作詞家でコラムニスト、ラジオパーソナリティーと多才な活躍をみせるジェーン・スーさん(以下ジェーンさん)と著名人との対談集だ。

 登場するのは芸人の光浦靖子さん、作家の山内マリコさん、脳科学者の中野信子さん、大正大学心理社会部准教授の田中俊之さん、漫画家の海野つなみさん、ラッパーの宇多丸さん、エッセイストの酒井順子さん、文筆家・自称漫画家の能町みね子さん。と、さまざまな分野からの8名。

 ジェーンさん自身が過去の対談のなかから、もっと話をしたいと思った人々にお願いし、能町さんだけは“1度じっくり話をしてみたかった”ということで依頼した。それぞれの対談ではテーマを決めずに近況報告からはじめ、会話がどこに流れていくかを楽しんだという。

 ジェーンさんといえば『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)、『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)などユニークなタイトルが印象的。対談終了後に決めたという本書タイトルについてまずは聞いた。

「最初は『新しい中年』はどう? などと言っていたのですが、まぁそりゃないですよね(笑)。最終的には私がポロッと口にした『私がオバさんになったよ』を担当編集者がすかさず“それだ!”とすくい上げてくれて決まりました。

 本のタイトルは犬笛のように、届いてほしい人にしか聞こえない周波数のようなものそこにうまくチューニングできれば、読者をがっかりさせることも少なくなるですから私がオバさんになったよ』と言われると、少しだけ心がざわつく、そんな人に届いてほしいですね

 もれなく記者も、森高千里の歌のフレーズとともに大ウケし、その後に心をざわつかせたひとりだ。が、このタイトルには少々の不安もあったという。

「本書の意図が伝わらずに“オバさんと自嘲するなんてけしからん!”と叱られないか、というのが心配だったんです。でも“面白い!”という声がたくさん聞けて安心しました」

女性にとって“オバさん”は出世魚

女性にとって“オバさん”は出世魚のようなもの。20歳になると、10代が終わったことを憂う“自称・オバさん”が出てきますが、これはいうなればオバさんの稚魚。30歳を過ぎると、20代が終わったことを嘆くオバさんに出世します。こちらもまだ“自称・オバさん”で、イナダ(ハマチ)の段階。勝手にもう若くはないと思い込んでるだけで、実態とは違います。

 45歳、いまの私はブリ。“あ、出世魚、完成形になったぞ”と自覚しています(笑)。以前は、つまり、ちゃんと出世するまではオバさんに対してネガティブな印象もありました。でも、ブリとなったいまはもう朗らかに受け入れゲラゲラ笑うしかないですね

 もちろん鏡を見て、“何!? このたるみ!”と思ったり、若者の言葉が理解できなかったりと、気落ちすることも多々ありますが、ブリにもなると執着心を持つ“執着筋”が衰えてくるんですよ。“う゛っ”とか“んっ”となっても最終的には“まぁ、いいか”と。執着心が“サヨナラ!”と川に流れていっちゃう。だから、この本の帯にも記したように“ネガ過ぎず、ポジ過ぎず”生きるオバさんのいまを語り尽くした対談集になっていると思います」

ロールモデルのない時代

 これまでの時代は、例えば尊敬や憧れの対象が自分の親であるなど、どうやって生きていくかを考える際のロールモデルが存在していた。しかし、これからは、それを見つけるのは難しいとジェーンさん。

「多数派が納得していた正解が、数年後には不正解になる。そんな変化の早い時代ともいえます。そこにはこれまでのように家族や子どもを持ち、家や車を買って……といったわかりやすい記号のような正解や到達点、成功は存在しません」

ジェーン・スー 撮影/北村史成

 言い換えれば自分で考え、決めなければいけない時代になってきた。当然、その負荷は当事者たちにかかってくる。

「私自身も未婚で子どもはいませんし、企業に勤めてもいない。30代半ばまではちゃんと結婚しないと欠陥商品だという思い込みもありました。

 でも、それを越えたら糸が切れた凧状態。もうみんなと違うことを恐れることはなくなりましたね(笑)。

 ただ、アラサーの人の親世代は、いまの実社会の変化を把握できずに親心から自分と同じ幸せの手法を子どもにもとってほしいと願う人もいるでしょう。

 でも、わが子がそれをしなかったとしても、そこはその生き方を見守ってほしい

 この本に登場するのは私を含めてわが道を歩く、ちょっと異端の人ばかりたったひとつの正解しかなかった親の世代とは異なる女性たちが、この先、楽しく生きていくための手がかりがちりばめられています

 最後に週女読者にメッセージをお願いすると、

好き勝手に生きてきた私たちでも何とかやっていける、そんな素晴らしい時代が到来しました

 女はこうあるべきと考え、世間が求めるシニア像に合わせる必要はありません。すべての女性は元気に好きに生きてほしいと願っています。女性が輝ける時間は確実に延びています。人生の先輩たちが“オバさんになってから、折り返してからのほうが人生、楽しいかも!”と思わせてくれるのはとてもありがたい。それは若い世代にとっての松明(たいまつ)であり、彼らの足元を明るく照らすはずです

ライターは見た!著者の素顔

 東京生まれ、東京育ちのジェーンさん。小誌編集Yと同年代、実家が近所だったということで「あの地下の喫茶店、行った!」「あの家の子と仲よしだった!」など、超地元トークで大盛り上がり! 

 撮影に入るとカメラマンの要望に的確に応じ、「さっさと応じなければ終わらないって、わかったから」と笑顔で語る。インタビューから撮影にいたるまでスマートさとぶれない強さ、頼もしさを感じさせる彼女。人生相談に乗ってもらいたい、そんなラジオのリスナーの気持ちがわかる気がした。

『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)
著=ジェーン・スー 1512円(税抜)
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PROFILE
●ジェーン・スー●1973年、東京生まれ。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティー。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』のMCを務める。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)などがある。

(取材・文/松岡理恵)