佐藤浩市

 5月24日公開の映画『空母いぶき』をめぐり、空中戦が勃発している。

 発端になったのは、同作に首相役で出演している俳優の佐藤浩市(58)のインタビュー記事。10日発売の漫画誌『ビックコミック』(小学館)で、首相役をやりたくなかったと明かし、その理由を「体制側の立場を演じることに対する抵抗感が、まだ僕らの世代の役者には残っているんですね」。その上で常備薬を手放せない首相像を作り出し「ストレスに弱く、すぐにお腹を下す設定にしてもらったんです」と佐藤は真意を語ったとされている(実際は、かなり意図的な誤読)。

 佐藤のこの宣伝インタビューにパクリと噛みついたのが、作家の百田尚樹氏(63)だ。

古くは大島渚の右フック

 第一次安倍政権が、当時の安倍首相が抱えていた潰瘍性大腸炎の悪化という健康不安も崩壊要因のひとつだった過去を念頭に、「三流役者が、えらそうに!! 何がぼくらの世代では、だ。人殺しの役も、変態の役も、見事に演じるのが役者だろうが!」とツイートしたのである。さらに自分の原作小説の映画化に佐藤浩市がキャスティングされそうだったら、拒否権を発動することを宣言した。

 役者をバカにして表現するなら普通「三文役者」という実に的を射た言葉があるが、ベストセラー作家はあえてなのか「三流役者」とつづる。ま、それはさておき、百田氏のツイッターに、出演者でもなんでもないが、黙っていられない芸能人が次々に参戦しているのだ。

 タレントのラサール石井(63)は「佐藤浩市氏のどこが三流なのか。(中略)自分の意に沿わないと三流なの?今後映画化されるほどの小説がまだかけると確信してるんだ。謙虚さのかけらもない。何様?」

 ウーマンラッシュアワーの村本大輔(38)は「違う考えに臆病でストレスに弱い三流愛国者達」と皮肉たっぷり。俳優の黒沢年雄(75)は「まだ彼が若い部分があるという事」「佐藤君を大目に見てやって下さい…」と大きなお世話のスタンスで介入した。

 芸能人やその周辺にいる人間のケンカや言い争いは、つい最近も、爆笑問題の太田光(53)とぜんじろう(51)の“先輩芸人はどっちだ”がぼっ発したばかり。どうでもいいネタだったため、あっという間に鎮静化してしまったが。

 古くは、映画監督の大島渚さんの結婚30周年を祝う会で、作家の野坂昭如氏が、あいさつの順番を待たされた、という理由で壇上で大島監督に右フックを見舞った事件、ソロアルバムの楽曲の中で桑田佳祐(63)が、シンガー・ソングライターの長渕剛(62)のことを揶揄した楽曲『すべての歌に懺悔しな!!』を歌ったばかりに、桑田が釈明に追われたこともあった。

 このあたりまでは、ケンカは当事者同士のやり合いで、第三者がしゃしゃり出ることはなかった。

SNS時代突入でケンカも変貌

 周囲を巻き込むことになったのは、“サッチー・ミッチー騒動”として芸能史に刻まれているタレントの野村沙知代さんと剣劇女優の浅香光代(91)の大騒動。それぞれの陣営に元フィギュアスケーターの渡部絵美(59)、女優の十勝花子さん、タレントのデヴィ夫人(79)、タレントのテリー伊藤(69)らが続々参入する騒ぎに発展した。

 そんな芸能人同士のケンカも、時代が変わるとともに、形を変えている。

「以前は、タレントにテレピック(電話取材)したり、わざわざ出向いてコメントをもらったりしなければなりませんでしたが、今はSNSで発信してくれればメディアもすぐに食いつく。それで、騒動がより大きくなる

 と情報番組デスク。さらに、

「ただうちの番組は、今回の映画をめぐる騒動は取り上げる予定はありません。サッチー・ミッチー騒動のときの発言者の多くは、自分も被害にあったという、いわば当事者でしたから興味もありましたが、佐藤浩市とほかの人々は、まったく利害の当事者ではない。お互いどう発言しようが自由ですからね

 当事者以外の人物が騒動に参入できるのが、SNS時代ならではの現象になった。

 話題になっている作品、映画『空母いぶき』について映画ライターは、

「いい映画でしたよ。尖閣諸島と敵対国をめぐる危機管理が官邸の苦悩とともにきちんと描けていて、百田さん好みの作品じゃないでしょうか。非常に重厚感のある首相像で、安倍首相も見れば絶賛したくなるはず」

 と前置きし、佐藤浩市のオリジナルインタビューを、批判側が誤読しているのではないか、といぶかしがる。

「批判側が問題視しているお腹の弱い首相という設定も、そういう状況に置かれながらも危機に直面した日本をどう舵取りするかという、逃れられない宿命。それを乗り越えていく政治的成長を描くための設定であり、決して安倍首相を揶揄するためのものではない、と誰だって読み解けるんです。

 あとは、ご覧になってください、としかいいようがないですね。特に、猛烈に批判している人の中には、映画を見るのをやめた、とまで言っている有名出版社の社長もいますが、彼はスポーツ紙が主催する映画賞の選考委員に名を連ねている人物。今年度も選考を担当するかどうかはわかりませんが、そういう人が“見ない”と発言するのは、どうなんでしょうかね

 大抵の芸能関連のバトルは、一時の炎上を経て、視聴者や読者に飽きがこられる運命にある。いつまでも世間は関心を持たないのが常だが、

「映画にとってみれば、いいも悪いも全部宣伝、ですからね。関係者の本音は、今回の騒ぎをありがたがってるんじゃないでしょうか」(前出・映画ライター)

 騒動に火を注いだ百田氏のツイッターが、映画にとっては神風になるかもしれない。

<取材・文/薮入うらら>