磯野貴理子

 世の中を騒がせた事件やスキャンダル、はたまたちょっと気になることまで、各分野のエキスパート“セキララアナリスト”たちが分析(アナリティクス)!  ニュースの裏側にある『心理』と『真理』を学術的に解き明かしてご覧に入れます。

磯野さんは本能で結婚、理性で離婚
男性は理性で結婚、本能で離婚した

 タレントの磯野貴理子(55)と24歳年下のバーテンダーの夫・Aさんの離婚報道に、衝撃を受けた女性も多かったことでしょう。離婚の理由は、貴理子さんによればAさんが「自分の子どもが欲しいから」というもの。

 55歳という貴理子さんの年齢が、Aさんにとっての大きな離婚事由といえそうです。しかし2012年の結婚の時点で、Aさんにしてみれば“事情を理解したうえ”でのゴールイン。

 当人同士のことはふたりにしかわかりませんが、やや理不尽とも思えるこの結婚から離婚までの顚末を心理学的にひも解くと、どんな“男女の視点の違い”が見えてくるのか。明星大心理学部准教授で臨床心理士の藤井靖先生に聞いてみました。

「今回の離婚騒動を理解するうえでのキーワードは、『本能』と『理性』です。磯野さんは『本能』で結婚し、『理性』で離婚した。一方でAさんは『理性』で結婚し、『本能』で離婚した。そのようなギャップが感じられます。つまり、実は結婚時からお互いの気持ちは食い違っていた可能性があります」

 理性で結婚する場合、相手の性格や収入、職業などの条件を天秤にかける……つまり“打算”が前提にあるそう。いわばさまざまな損得勘定から、年齢差というマイナスにとられがちな要因に対して、プラス要因が上回ると冷静に判断した可能性があると言えるでしょう。

 その背景には、例えば自分の人生に対してポジティブかネガティブか、自分の社会的イメージに対して損か得か、などの考えがあったかもしれません。

「20代前半の男性は、自身のアイデンティティーの確立が最優先される時期でもあるため、社会的に懸念されるリスクやマイナス面を、低めに見積もってしまうケースもあります。年齢差や、長く結婚生活を続けることに対して、真摯(しんし)に向き合えていなかったことも考えられます」

 Aさんの離婚の意向に対しては、批判的な視線を注ぐ人もいることでしょう。藤井先生によると、ヒトの脳の発達は、おおむね25歳まで続くと考えられるそうです。逆をいえば25歳までは未成熟であり、結婚時に24歳であった男性の理性的な判断は、一生をも決めうる結婚を、長期的に見据えて決断するにはいくぶんか未熟だったのかもしれません。

「一般的に結婚年齢が若いほど離婚率が高くなるというデータも、裏づけのひとつです。その意味では、よしあしは別として、男性は結婚時よりも相対的に成熟した理性で、あらためて自分の結婚のあり方、人生の意味についてとらえ直し、“子どもが欲しい”という、ある種“本能的な欲求”を重視するに至り、離婚という決断をしたのかもしれません

 あるいは、他の女性の存在など、強く本能を揺さぶられるような人生における新たな
展開があり、それを理性では抑えることができないほどであったという可能性も否定で
きません。当然、報道されていないので可能性の範囲内ですが。

年の差婚で相手の考え方を見抜く
4つの心理学的ポイント

「一方で磯野さんは、本音では離婚したくはなかったでしょう。しかし、彼女なりの理性で若いパートナーの将来を重視したのだと思います。発達心理学者であるエリクソンの理論では、磯野さんの年齢は、ジェネラティビティーが発達課題、つまり、こなすべき命題とされています」

 ジェネラティビティーとはエリクソンによる造語で、「次世代育成能力」などと訳されます。子どもを養育したり、職場の後進を育成したり、自身が属する共同体において後の世代に貢献することだとか。

 この世代の人は、自分の時間や労力を、子どもや自分より年下の者に使うことで生きがいを感じるという人も多いそうです。

「自分の子どもを産むことはかなわないと判断した磯野さんが、男性のために、悲しくも理性的な決断をし、結婚から卒業したことは、彼女なりの発達課題の達成ともいえるでしょう」

 年齢差のある結婚では、しばしば今回のふたりのような悲しい事態を耳にします。未来の心変わりを未然に防ぐのは難しいかもしれませんが、価値観や考え方の違いが生まれやすい“年の差婚”の場合、どのような視点で相手を見極めればいいのか。藤井先生によると、以下の4ポイントを注視してほしいといいます。

【年齢差を乗り越えて、よい結婚相手を選ぶポイント】
(1)クルマの運転の仕方
(2)酒に酔ったときの言動
(3)家族との接し方
(4)物の扱い方

「これらのポイントについて、自分の価値観と照らし合わせて違和感がないか観察してみるとよいでしょう。理性の完成度と相手の本質を、見抜くことができるはずです」

 それでも長い結婚生活を通せば、気持ちはすれ違ってしまったり、最初は見えなかった価値観の相違が生まれるもの。願わくばそれらを乗り越えてもらいたいものですが、今回のふたりを含め、離婚という選択をしたとしても、その先の人生で幸せをつかんでもらいたいものですね。

<今回のセキララアナリスト>

藤井靖先生

藤井靖先生
明星大心理学部准教授、臨床心理士。昭和54年、秋田県生まれ。早稲田大大学院人間科学研究科博士後期課程修了。同大人間科学学術院助教などを経て現職。専門は臨床心理学、臨床ストレス科学、認知行動療法。心理相談センターで日常生活のさまざまな問題、疾患に対してカウンセリングを行なっているほか、スクールカウンセラーや、心療内科、精神科で心理療法(主に認知行動療法)を担当する心理士なども務める。訳共著に『過敏性腸症候群の認知行動療法』(星和書店)。【https://ironna.jp/blogger/498