浅田美代子 撮影/矢島 泰輔

『時間ですよ』(TBS系)共演から45年間。親子のような、友達のような深い関係を続けてきた浅田美代子(63)と樹木希林さん(享年75)。そんな希林さんが浅田のためにプロデュースした映画『エリカ38』が公開される。

 女優として、女として、人として……、還暦をすぎた浅田に希林さんが最後に贈ったメッセージとは──。

この3人が集まれば、
きっといいものができるから

希林さんのがんが進行しているのは知っていたけど、すごく元気だったんです。“痛いの?”と聞くと、“痛くないから幸せなんだよね”って。だから、本当に亡くなるとは思っていませんでした。私が信じたくないという気持ちもあったと思うけど

 樹木希林さんとの最後の思い出を語る浅田美代子。主演を務めた映画『エリカ38』が6月7日に公開される。本作は、昨年9月に亡くなった希林さんが企画段階から参加している。

「ある日、希林さんから突然、『エリカ38』の企画を聞いたんです」

 浅田に話が来たときには、監督は日比遊一、プロデューサーは奥山和由と、すべて“お膳立て”された状態だった。

“美代ちゃんは今まで何とかやってきたけど、コレっていう作品があったほうがいい。この3人が集まれば、きっといいものができるから。ちょっと予算が少ないけど、頑張んなさい”って。それを聞いたときはヒェーッと思ったけど、断ることは考えもしませんでした

 映画は、実際に起きた事件をもとに、欲望に溺れ犯罪に手を染める女性の半生を描いたフィクション。浅田と希林さんはワイドショーを見ながら、女性が起こした事件があると“美代ちゃんはこういうのを役でやるといいんだよ”とたびたびすすめられていた。

「“なかなか私には依頼が来ないんだよね~”なんて、話していました。この映画のモチーフとなった事件も“美代ちゃん、イケるよ”って言ってましたけど、どうせそんな話は来ないだろうって。

 だから、希林さんが水面下で動いていたことに、本当にビックリしましたね

人としてどう生きるか

 2人の出会いは、今から約45年前に放送されたドラマ『時間ですよ』(TBS系)だった。

「私たちって、実は人見知りなんです。でも、私がまだ子どもだったから、構えずに希林さんと接することができたのかも。最初からベタベタで、いつも一緒にご飯に行ってましたね」

 最初は大人と子どもの付き合いだったが、付き合いが深くなると、親子のような、友達のような不思議な関係になっていった。

「“美代ちゃんはウソをつかないところがいい”って。希林さんも、私にはもちろんウソをつかないし。腹の中のことを全部言えちゃう関係でした」

 希林さんから芝居に関しては何も言われたことがなかったという浅田。だが、人としてどう生きるかについては厳しく注意されたという。

「芸能人だとチヤホヤされることもあります。買い物に行くときには、マネージャーさんや付き人を連れていくとか。

 でも、そういうのは絶対ダメって。あと、部屋の整理をしろとか、モノを捨てろとかはよく言われました(笑)」

 希林さんにとって、浅田は2人目の娘のような存在だったのかもしれない。

ヒデキの別荘に押しかけて……

「住宅のことも言われましたね。私は子どもがいないから賃貸物件で一生過ごそうと思っていたんです。

 でも、希林さんが“あんたね、60過ぎたら簡単には貸してもらえないんだよ”って。だから住宅は買いなさいと。2人でいろんなところを内見しました」

 浅田が現在、住んでいるマンションを購入したのは希林さんの後押しがあったから。

「このマンションが建ったときから希林さんは知っていて、“すごくいいのよ”と言っていました。それで実際に見に行って、私がどうしようかなぁって迷っていたら、希林さんが“ココにしなさい!”と言って、判子も押させられて(笑)

『ぴったんこカンカン』(TBS系)で自宅を披露した(左から)浅田、安住アナ、樹木さん

 物件を見るのが大好きだった希林さんには、こんなエピソードも。

「希林さんが、西城(秀樹)くんのバリにある別荘の物件が見たいと言い出して。私が宿泊するためのホテルを探そうとしたら、西城くんの別荘にそのまま泊まるって言うんです……。

 西城くんが“ごめん、俺さ、その日は行けないんだよね”と言うと、希林さんは“いいのいいの、来なくて。気を遣うから”って言うわけ(笑)

 滞在中には、こんなことも。

「希林さんは、わざわざ東京から自分の家にあった賞味期限が切れそうな食べ物を持ってきているんです。もったいないから、2人で食べちゃおって。私が“食べられれば何でもいいってもんじゃないよ!”と言ったら、“はいはい、そうだね”って笑っていましたけど」

老いていくことを楽しみなさい

 最後までモノを活かす──。希林さんが浅田に再三、伝えた教えでもあった。

「うちの母が亡くなったとき着物の整理ができなくて、希林さんに手伝ってもらったんです。それで、いらないものは着物屋さんにお渡しして、お稽古とかで使ってくださいと。

 振り袖はフジカラーのCMで希林さんが演じる“綾小路さゆり”で着てくれて。眠っていた着物を生き返らせてくれてうれしかったですね」

 “老いに抗わないこと”も、希林さんからの教えのひとつ。

老いていくことを楽しみなさいと言われました。ここにシワができて嫌だぁとか思わないで、いいシワじゃないと考える。そんなの逆らってもしょうがないって

 いつまでも若く見られていたい──。そんな浅田が心にまとっていた鎧はボロボロと崩れていった。

「希林さんは“私が出ると映画の格が上がるのよ”って言ってました(笑)」と語る浅田 撮影/矢島 泰輔

「“おばあちゃんの役が全部、私に来るんだよ。なぜだと思う? ほかの女優さんはキレイすぎるからよ”って。すごい考え方だなと思いました。私も、ありのままの自分でいいんだって」

『エリカ38』で浅田は、実年齢を20歳以上詐称し、何億円ものお金を搾取した女を生々しく演じ、初めて大胆なベッドシーンにもチャレンジ。今まで彼女が持っていた“やさしく愛らしい女性”というイメージを打破している。

「映画はフィクションでも、実際に起きた事件が人の記憶にあるうちに公開したほうがいいと希林さんに言われて、撮影時期を早めたんです。

 でも、いま考えてみると、自分の死期みたいなものがわかっていたのかな……。

 だから粗編集した映像を見てくれることはできたんです。見たあとに、“下手くそ”って笑いながら言われましたけど(笑)」

 こんな憎まれ口をたたけるのも2人の親密さの証。希林さんとの最後の思いを胸に、浅田が演技派女優としての第一歩を踏み出した。

●あさだ みよこ●1956年、東京都生まれ。’73年にドラマ『時間ですよ』でデビュー。挿入歌『赤い風船』が大ヒットする。『釣りバカ日誌』シリーズをはじめとする映画、ドラマ、舞台で幅広く活躍。また動物愛護・福祉のためのチャリティー団体『Tier Love《My Best Friend》実行委員会』の代表を務める。

最新主演映画『エリカ38』は6月7日より全国公開