川栄李奈と廣瀬智紀

世の中を騒がせた事件やスキャンダル、はたまたちょっと気になることまで、各分野のエキスパート“セキララアナリスト”たちが分析(アナリティクス)! ニュースの裏側にある『心理』と『真理』を、学術的に解き明かしてご覧に入れます。

「格差」を乗り越えるほど、恋愛モノの
舞台作品には恋を結ぶチャンスが多い

 元AKB48で女優の川栄李奈さん(24)と、舞台中心に活動中の俳優・廣瀬智紀さん(32)が5月17日に結婚を発表しました。2018年の舞台『カレフォン』でダブル主演を務めたことが、出会いのキッカケだったとか。

 芸能界での立場の違いがあることから、いわゆる“格差婚”と揶揄(やゆ)されるふたり。立場の“差”を乗り越えて結ばれ、はたして、この先に待つ結婚生活はどうなっていくのでしょうか。明星大心理学部准教授で臨床心理士のセキララアナリスト・藤井靖先生に聞いてみました。

「稽古時間が長く、上演が開始されてからも継続して顔を合わせる舞台の仕事というのは、心理学における“一般法則”の3点コンボ状態ともいえます」

 その“一般法則”とは?

(1)単純接触効果
接する機会、視界に入る機会が多ければ多いほど、相手に好意を抱きやすい。舞台は稽古や上演を通じて顔を合わせる回数が多く、相手の姿を見ている時間が長い。

(2)ポッサードの法則
男女間の物理的距離が近いほど、心理的な距離も縮まる。恋愛関係の役を演じるとしたら、物理的に身体を近づける機会が増える。

(3)吊り橋効果
ストレスを受けたり不安や恐怖を感じる場所で出会った人は、恋愛対象として意識されやすく、好意を持ちやすくなる。特に稽古は、さまざまな感情が生起させられる場所であるため、その感情が“共演相手によるものである”と誤認されやすく、自分にとって重要な人であると感じやすくなる。

「例えば、共演していてもシーン別に撮るドラマ撮影や、物理的距離が近いとは限らないバラエティー番組、感情を揺さぶられることが少ない情報番組など、芸能全般の中で、ほかの活動では得られない特異な環境ですよね」

 このふたりの場合、舞台『カレフォン』ではお互いが惹かれあう間柄を演じ、いわば現実の恋愛の“予行演習”状態。相手の反応や行動が台本に沿ったものでも、反応の“見通しがつく”ぶん、交際を決断するハードルも低くなりやすそうです。

さらにいえば、行動が気持ちを作ることもあります。恋人を演じた共演者同士が、恋愛関係になったり結婚することも少なくないのはそのためとも考えられます」

「格差婚=母性本能から」は誤解!
結婚に至るためには3つの普遍的なステップが

 かくして恋愛に発展し、無事に結婚に至ったふたり。しかし川栄さんと廣瀬さんとでは、正直、知名度で雲泥の差があります。いわゆる格差婚なワケで、川栄さんの母性本能でもくすぐられたのかな? なんて邪推してしまいますが、実はこれ、誤解だとか。

“格上”の女性が『面倒を見てあげたい』『育てたい』という思いから男性を見初めたと思われがちですが、それはイメージにすぎません。そのような『保護欲求』は、本質的には子どもやペットに対して抱くもので、恋愛感情には直接的には結びつきにくいものだからです。仮に女性がそのようなことを口にすることがあっても、それは自分の心を誤認している可能性が高く、実はそれ以外の要因が影響しています」

 恋愛から結婚、安定的な夫婦関係に結びつくまでには、“SVR理論”を満たすことが必要といわれているそう。それは社会心理学者・マースタインによるパートナーシップを結ぶための3ステップの考え方です。

■第1段階「お互いにとって相手が刺激的であること」
一般的には、見た目や行動などが対象になることが多いですが、社会的な立場の違いは、その最たるものでしょう。自分と違うところが多く、新しい刺激が日常に生じることは、生活の潤いにつながるため、相手の存在を自分にとって有意義なものと見積もるのです。

■第2段階「互いの類似性を発見すること」
これは第一段階の逆に思えますが、「違うと思っていた相手に、実は自分と近い(似ている)ところがあった」というのは、関係のさらなる進展につながります。いわゆるギャップ萌えです。

■第3段階「互いの相補性に気がつくこと」
お互いがそれぞれの長所を生かしたり、欠点を補い合ったり、というのは、格差があるからこそ際立つともいえます。

川栄さんと廣瀬さんは、この3ステップをきちんと踏んで結婚に至ったものと思います。ただし廣瀬さんが、刺激や相補性を川栄さんの人となりではなく、『有名女優だから』『お金があるから』といったスペックに求めた場合、SVR理論を本質的に満たしたとはいえず、将来の関係破綻のリスクになるでしょう」

不満が募るか夫婦のハードルととらえるか
格差婚のデメリットとメリット

 このようなことを含め、格差婚には弊害があるそう。

「『自己実現の独り占め』が起こりやすいということです。自己実現とは『なりたい自分になる』とか『自分の理想を実現する』という意味ですが、例えば、一方の仕事がうまくいっている場合、その人の生活は、うまくいっていない側の生活に比べて、優先される傾向にありますよね。

 家事を分担するなら、仕事の負担が少ないほうが家事を多く受けもつケースが多いでしょう。すると、ますます一方だけが自己実現している時間が増え、一方では自分の理想を実現できず、相手を支える時間が長くなるために、不満をためることになってしまいます」

 離婚する夫婦では、上位にいる側が、このことに気がつかないケースが多いそう。そのため、仮に格差が埋まってからも以前と同じような態度を取ったり、自分を支えることを変わらず求めがちだとか。

「また下位にいる側は、『これまでの自分とは違うんだ』と自立を主張するため、だんだんと双方の気持ちにすれ違いが生じ、関係が破綻するのです。格差が埋まって離婚した夫婦は、新しい関係性を築けなかったことが一因でしょう」

 しかし一方で、格差婚にはこんなメリットがあるといいます。

「結婚自体が世間から批判されたり、『どうせすぐ別れるだろう』などと逆境にさらされることで『一緒に幸せになろう』と一体感を持つことにつながったり、下位の立場にいる夫が社会的に成功することが夫婦の共通の目標になり、絆が強くなるということが挙げられます。夫婦にとって、危機や困難は、関係の強化に結びつくのです」

 ただし、浮気や不倫など、異性トラブルが出てくると話は別!

「格下の夫が浮気をした場合、妻は自分が差し置かれたことや、自分の稼いだお金を家庭以外のために使われたことによりひどくプライドが傷つけられ、自分の存在自体が揺るがされます。そこで一気に関係が悪化することは、過去の芸能人夫婦にもみられた経緯です」

 残念ながら廣瀬さんにはすでに二股報道が飛び出しているだけに、いささか将来が心配でもあります。そしてこういった格差のある結婚は芸能人のみならず、私たちにとっても身近なケース。

 結婚を決めたカップルの社会的な立場が“まったく一緒”ということのほうが少ないですよね。その意味でも、これから結婚に臨むのであれば、格差婚を経て幸せになった芸能人カップルを参考に、幸せを模索したいものです。

 と同時に、まさに格差婚に臨むふたりにも、過去のさまざまな悲しい轍(てつ)を踏まないように、心から祈りたいところです。


<今回のセキララアナリスト>

藤井靖先生

藤井靖先生
明星大心理学部准教授、臨床心理士。昭和54年、秋田県生まれ。早稲田大大学院人間科学研究科博士後期課程修了。同大人間科学学術院助教などを経て現職。専門は臨床心理学、臨床ストレス科学、認知行動療法。心理相談センターで日常生活のさまざまな問題、疾患に対してカウンセリングを行っているほか、スクールカウンセラーや、心療内科、精神科で心理療法(主に認知行動療法)を担当する心理士なども務める。訳共著に『過敏性腸症候群の認知行動療法』(星和書店)。【https://ironna.jp/blogger/498

<文/雛菊あんじ>