エッセイスト酒井順子さん

 タレントの磯野貴理子(55)が7年連れ添った24歳年下の夫と離婚し、話題を呼んでいる。「自分の子どもが欲しい」と別れを切り出されたが、磯野にとってあまりに残酷だとして、ネットでは元夫に対する批判が噴出したのだ。

子どものいない夫婦、20年で倍に

 結婚したら、家族になったら、子どもをつくるのが当たり前。子育てをしてこそ一人前になれる―。こうした考えは令和になっても根強い。その一方で、子どもを持たない人生を選んだ女性たちもいる。

 東京で働いていたTさん(45)は13歳年下のアメリカ人男性と結婚し渡米、現在はグアムで暮らす。プロポーズを受けて、まず彼に伝えたことがある。

「年齢的に出産は難しいことと、慣れない海外生活での不妊治療は無理、と最初にハッキリ告げました。でも、彼は“自分が欲しいのは子どもではなく、人生のパートナーだ”と言い切ってくれました」(Tさん)

 いまでは2匹の猫と平和に暮らすTさんだが、

「彼はまだ若い。また、彼の周囲は子どもがいる夫婦も多い。先日、私のほうから養子を迎える提案をしましたが、その答えはまだもらっていません」

 と打ち明ける。

 いくばくかの資産を持つが受け継ぐ子どもはいない。

「もし私が死んだら、虐待を受けるなどの恵まれない子どもたちをサポートする団体に全額寄付したい」

 国立社会保障・人口問題研究所の最新調査によると、子どもがいない夫婦の割合は'15年時点で6・2%と、'92年の3・1%から約20年で倍に増えた。その理由は「欲しいけれどできない」「お金がかかりすぎる」「高年齢で産むのは嫌だ」など。ただ、子どもができない、あるいはつくらないケースは近年、確実に増えている。

「家族終了」宣言

 自虐とユーモアを交えながら「30代・独身・子ナシ」女性の実態を描いた作家・酒井順子さんも、「子どものいない人生」を歩んできたひとり。『負け犬の遠吠え』から16年、酒井さんは両親が他界し、かねてより病気療養中だった兄を亡くしたことで、生まれ育った家族が全員いなくなった。

「自分が生まれ育った家族のことを『生育家族』、結婚などでつくった家族を『創設家族』というそうですが、私以外の生育家族のメンバーがすべていなくなりました。私は同居人(男性)はいるものの婚姻関係は結んでおらず、子どももいないので家族終了の感、強し……という状況です」

 自著のタイトルどおり、「家族終了」を宣言した酒井さん。

 生育家族がいなくなり、自身が創設家族をもたないということは、家族の記憶が絶たれるということ。しかし、それを悲しく寂しい、あるいは無念かと問うと「別にそうでもない」と話す。

「そうなってしまったのは、もうしかたがない。名家であるわけでもなければ、特殊な技能や看板を受け継ぐ家でもないので、消えていっても特に大きな影響もないだろうな、と。いま日本ではこんな感覚を持つ人が少なからぬ数で存在していると思います」(酒井さん、以下同)

 家族の記憶が消えていくことにさほど「痛がゆさ」を覚えない。そんな人間がたくさんいるから、日本の人口は減っていくのでは? 

 と分析する。

「家族は、いて当たり前ではない、と痛感しています。生育家族はやがて老い、そして死んでいく。新しい家族をつくるには、自力で結婚・出産・子育てをしなくてはならず、そのどれもがなんとなく生きていては不可能なこと」

 女は結婚すべき、結婚したら子どもを持つべき、家族は支え合って生きるべき……。そんな従来型のカタチに縛られるのを嫌い、また、それなしで生きられることを理解する人は増えた。その一方で、若い世代を中心に揺り戻しもある。

「従来型の家族像もまた見直されていますね。今の若者は“若いうちに結婚したい”という願望を持つ人も多いし、最近の家族の仲よしぶりは、私の子ども時代とは比べようもありません。

 家族についての感覚は、従来型のきつい枠を嫌う人が逸脱すればするほど、枠の中にいる人たちは、枠に守られている感覚を強める。大きく二極化してきていると感じます」

 酒井さんには10年以上、暮らす男性の同居人がいるものの入籍はしていない。

「『負け犬の遠吠え』のころから一貫して言い続けているのは、法律婚をするかどうかは別として、一緒に生活する誰かはいたほうがいいのでは? ということ。私の場合、なんとなくこうなっていた、としか言いようがないですが、それでも理由を探すならば“私は結婚しているまっとうな人間です”という『名』よりも、“誰かとラクに同居する”という『実』を取った生活なのかもしれません

事実婚も法律婚と同様の権利を

 中年になり、結婚に対する熱い夢はすでに失った。年齢的に子どもは難しい。

「そうなると別に法律婚をする必要もない、ということでの事実婚生活です」

 生活をともにするパートナーはいるけれど、妻の役割は果たさなくてOK。これをオイシイと考える女性は少なくないはず。

「夫でなければ妻でもないので、相手に対して“これをしてくれて当然”と思う気持ちが薄い。経済的にも互いにもたれかかっていないので、例えば相手が突然会社を辞めて起業すると言い出しても、自由にやってくれと思うばかりです」

 実際、結婚や家族をめぐる意識は多様化している。

 NHK放送文化研究所が'18年に発表した世論調査では、「必ずしも結婚する必要はない」と考える人は68%にのぼり、過去最高に。子どもに関する意識についても、調査を開始した'93年には「結婚したら子どもを持つのが当たり前だ」との回答が過半数を超えていたが、'03年から「必ずしも持たなくてもいい」が逆転し始め、'18年には後者が60%にまで上昇した。

結婚が“誰もがするもの・できるもの”という感覚は過去の遺物。ならば結婚というよりは、つがいづくりに新規参入しやすいように、事実婚も法律婚と同様の権利を与えるなど規制緩和をする必要性も感じます。法律婚という高すぎるハードルの前で立ちすくんで何もしないより、いいなと思う人と気軽に添うてみたほうがいい。

 これからは、自分たちが“家族”と思えば、どんな形態でも家族になっていく時代ではないでしょうか」

 子どもを産む・産まない。結婚をする・しない。どんな生き方をするにも自分で選んで、決めていい時代へーー。


さかい・じゅんこ/1966年東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。著書に『子の無い人生』『駄目な世代』『家族終了』など多数