近藤サト

 近藤サトさんのグレイヘア姿を初めて見たときは、本当にたまげた。

「この人、“こういう人”だったの!?」という驚き。

「こういう人」というのは要するに「男ウケ狙いとか放棄して、自分の価値基準を大事にして生きてる女性」ということである。

その潔さに共感!

 なにしろ近藤さん、もともとは女子アナである。こう言っちゃ身もフタもないが、男ウケに心血注いでナンボな商売出身だ。グレイヘアの信念とは真逆をいく、女子アナという生きざま。

 だから私だけでなく、世間全般の女性たち、みなが、彼女のグレイヘアを目にしておったまげたのではないだろうか……そして。

「だ〜か〜ら〜、近藤サトは美人だから、あの頭でもOKなわけでしょ!?」

 という、絶対誰しも思ったであろう、ため息まじりの感想(もちろん私もそう思った)。

 実は私も、月2回は染めないと、あっという間にゴマ塩頭になる中年女だ(近藤サトと同い年の50歳)。だから、「サト・グレイヘア」の衝撃を受けて、その潔さに共感し、「だったら私も!!」という衝動に駆られたのだが……。

 いかんせん、小2の娘が「イヤだ! シラガアタマのお母さんなんて絶対やだ!!」と、強硬に反対。

 それに加えて、夫が、私より6歳年下ときてる。

 もし、私が白髪頭の女と化したら、年下の夫との見た目のバランスが悪くなるのは容易に想像がつく。

 たぶん「夫婦」というよりも、「今日は親戚のおばさんと一緒ですか?」みたいに見られるだろう。「アネさん女房」ならぬ「ババア女房」……そして、追い討ちをかけるがごとく、グレイヘア願望に水を差す究極の、トドメのセリフ「だ〜か〜ら〜、近藤サトは美人だから(以下略)」。

 グレイヘアは、世間に浸透してるようでいて、案外してない(と、思われる)のは、やっぱりすごーく、ハードルが高いのだ。「認知」は、されつつあるけど「浸透・実践」までには至ってないというか。

 そんなわけで先日、「一体どんな女性たちがグレイヘアを実践してるんだろ?」と思って画像検索したら、近藤さん以外の「グレイヘア上級者」たちの写真がたくさん出てきた。

 みなさん一様に、男に媚を売ってる感・皆無で、凛としてる。白髪染めの呪縛から解放されて、吹っ切れた感じが素敵だ。

 とはいえ「サバサバ系」というわけではなく、なんというか、「マダム」とか「ラグジュアリー」というフレーズが似合いそうな、大人の女の色香を漂わせてる方、多数。まさに「グレイヘアという生き方」そのもの。このラグジュアリー感、新築分譲マンションのキャッチコピーでよく見かける、「西麻布に住まうという生き方」みたいな、そういう雰囲気も漂わせてる(って、何だそれ)。

本人の生きざまが左右する

 そして、とあるマダムはインタビューで「グレイヘアには、清潔感と品格が欠かせない」と、おっしゃっていた。

 白髪頭に「清潔感と品格」を丁寧にもみ込んで、日々お手入れすることで、「単なる白髪頭」が「グレイヘア」へとバージョンアップするわけだ。

 3日くらい洗髪サボって、頭をバリバリかいている私に、そんなケアができるのかどうか心配になってきた。

 そして、肝心の「美人うんぬん問題」である。

 それに関しては、必ずしも美人じゃないとダメというふうではないようだ。みなさん個性的で、自分の顔立ちを否定せず、素直に受け入れてる感じが印象的だった。

─なんて、サラッと書いたが、実はこれがいちばん難しいんじゃないかと思った。

「美人じゃないけど、でもそんな自分の顔を慈しむことができる」って、相当ハードル高いと思う。

 結局は、内面ができてないとグレイヘアは成り立たないということか。

 実はウチの近所に、70代くらいのグレイヘアねえさんが2人、住んでるのだが。おひとりはショートカットのグレイヘアで、ボーダーのTシャツにジーンズでとてもフレッシュな雰囲気の素敵な方。

 しかし、もう一方のグレイヘアは……いや、彼女はもう「グレイヘア」ではなく「白髪頭」と呼んだほうがいいだろう。ザンバラに伸びた白髪をひとつに結んで、常に周囲を睨みつけ、笑ってる姿を見たことがない。

 白髪頭が素敵に見えるかどうか、それはそこに至るまでの本人の生きざま、気質が左右するようで……。

 とりあえず私は、ちゃんと頭洗うようにならんとダメだな、と、思った次第である。


漫画家 安彦麻理絵さん

文・イラスト●安彦麻理恵/漫画家。山形県出身。雑誌『ガロ』でデビュー。女子の生態を赤裸々に描く作風が多くの共感を呼ぶ。3児の母。ウェブメディア、女性誌を中心に活躍。著書に『だから女はめんどくさい』『ババア★レッスン』など多数