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 昨今、やたらと耳にする“夏のインフルエンザ”。冬に流行するというイメージが強いインフルエンザだけど、どうして夏も騒がれ始めた!?

夏風邪と思いきや……

「夏のインフルエンザは、昔から存在していたと考えられています」

 そう語るのは、感染症専門医である岩田健太郎さん。夏のインフルエンザは、現代特有の現象ではないと指摘する。

「ウイルスが発見される以前は、インフルエンザは冬に流行る原因不明の感染症という認識でしかなかった。1930年代に電子顕微鏡でインフルエンザウイルスが発見されたことで、冬に発症する謎の感染症がインフルエンザであることが判明し、その後、インフルエンザは冬に流行る感染症というイメージが定着しました」(岩田さん、以下同)

 ところが、1990年代にインフルエンザの検査キットが登場したことで変化が生まれる。

夏に寒気を感じる夏風邪のような症状を抱えた患者さんに検査をしたところ、インフルエンザの陽性反応が出ました。春に似たような症状のあるほかの方に検査をすると同様の反応が出た。つまり、インフルエンザは通年で起こる感染症ということが、キットの登場で明らかになったんですね。もともと、インフルエンザウイルスは1年中、存在しています。

 夏にインフルエンザが流行りだしたのではなく、夏にも検査をするようになったことで、夏のインフルエンザの患者数が顕在化したにすぎません」

 私たちが“インフルエンザは冬に流行るもの”という情報バイアスに踊らされていた結果、「今後は夏も気をつけないと」なんて勝手にビクビクしていたというわけ。夏にインフルエンザにかかるのは、ごくごく普通の話なのだ。

「夏のインフルエンザは冬ほど流行しにくく、重症例も少ないため、夏に特別な対策をする必要はありません」と岩田さんが苦笑するように、症状が重くない夏のインフルエンザウイルスは、夏風邪の一種と割り切って問題ないという。

何よりもワクチンの接種を

 では、季節性のインフルエンザとは異なる、重篤化する鳥インフルエンザなどの突然変異型への対策はどんなことが考えられるだろう?

「インフルエンザはさまざまな動物に感染しますが、人間に感染するのは百何十種類あるインフルエンザウイルスのうち数種類だけです。しかし、ウイルスは常に変化していて、まれに人に感染しやすくなる─例えば、タンパク質を表面にまとうような新型ウイルスとして生まれ変わるケースです。2009年に大流行した鳥インフルエンザは最たる例」

 岩田さんによると、今後、人に感染する新型インフルエンザは、家畜衛生の整わない国などで登場することが予想されるという。となると、気になるのは万が一、日本に持ち込まれてしまう可能性だ。

「完全に専門家レベルの対応になるため、冷静に専門家の情報に耳を傾けること。そして、安易な情報に踊らされないことです。前述の夏のインフルエンザもそうですが、情報に踊らされてしまう方が多い」

 そして、「ごくまれに発生する未来の新型インフルエンザの心配をするよりも、必ず冬に流行するインフルエンザ対策をしっかり講じるほうが、よほど生産的です」と助言を送る。

「手洗いやうがいなども大事ですが、インフルエンザ対策はワクチンに勝るものがありません。ワクチンを打つことで4か月ほど効き目がありますから、冬の前に打つことで流行期を乗り越えられます」

 ただし、ワクチンを打ったからといって万全というわけではない。インフルエンザウイルスは毎年変化するために、ワクチンを接種した人のおおよそ50%しか効果はないのだとか。だが、この50%が大きな違いを生む。

「ワクチンを接種することで1000万人だったかもしれない罹患数が500万人になる。500万人の患者さんが減れば、医療費負担や社会的な影響も緩和されます。流行するインフルエンザの恐ろしいところは、社会・経済的なダメージが計り知れないということです。その可能性をワクチンによって半減できるのですから必ず毎年、接種するようにしてください


《PROFILE》
岩田健太郎さん ◎神戸大学大学院医学研究科教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。日本の感染症診療の第一人者およびオピニオンリーダーとして国外でも活躍